
「eco japan cup 2009」のビジネス
部門で大賞を受賞した株式会社マイファーム。耕作放棄地を“体験農園”として再生し、レジャー感覚で農作物の栽培や収穫が楽しめるサービスを展開している。同社の理念は「自分で作り、自分で食べる、『自産自消』ができる社会をつくる」こと。現在、耕作放棄地は日本全国で約40万ha存在するといわれ、就農者の約6割が65歳以上と農家の高齢化も進む。体験農園を通じ、“自分で作って自分で食べる”身近な農業の普及をめざして活動を展開している。
同社創業のきっかけは、創業者であり代表取締役を務める西辻一真氏の子ども時代に遡る。
福井県で生まれ育った西辻氏は、「近所で耕作放棄地が増える現状を目の当たりにしながら『何とか有効活用できないものか』と常々感じていた」という。農業に関心を抱いた同氏は京都大学農学部に進学後、食に関心の高い消費者と耕作放棄地をつなぐビジネスを思いつく。日本は耕作放棄地が増える一方、食料自給率は低迷を続ける。このミスマッチに日本の農業の未来とビジネスの商機があると考えた。そして2007年9月、地元で抱いていた思いを実現すべく、共同創設者岩崎氏とふたりで同社を立ち上げたのだ。

株式会社マイファーム
代表取締役 西辻一真 氏
1982年福井県生まれ。京都大学農学部で農業経営や遺伝子組み換え技術などを学ぶ。
卒業後、大手広告代理店で1年間の勤務を経て、2007年に株式会社おこし、株式会社マイファームを設立。日本リトルファーミング協会理事や行政の農業アドバイザーも務める。
事業開始に当たり、農地法の問題に直面した。農地法では、農地の耕作者はその所有者でなければならないとされている。「そこで当社の場合、『農地利用方式』を採用し、所有者から耕作放棄地の運営を受託する形態をとることで、農地法の問題を解決したのです」と同社広報部の山本主税氏は語る。農地利用方式を採用した同社のビジネスモデルでは、体験農園を開設するのはあくまでも農地所有者。同社は、利用者の募集や農園管理などの運営面を受託することで体験農園の開設が可能になったのだ。農地法が複雑に絡んだ耕作放棄地の再生をビジネスに仕立て上げたのは、法律に則ったこのビジネスモデルを構築した西辻氏の手腕のなせる業だろう。
農地法の問題は解決できたものの、最大の難関が立ちはだかった。農家との交渉である。耕作放棄地は宅地転用などを期待した土地活用の側面もあり、手放さない農家も少なくない。「加えて、どこの馬の骨ともわからない人間が突然やってきて、『耕作放棄地を使わせてください』と頼み込んでも、そう簡単に首を縦に振ってくれるわけではありません。創業当時は農家の皆さんの信用を得るのが相当大変だったようです」と山本氏は当時の苦労を代弁する。
西辻氏は農家に通いつめ、ときに酒を酌み交わしながら胸襟を開いて話し込み、農家の信用を少しずつ積み上げていったという。そして2008年3月、念願の第1号農園を京都府の久御山町に開設することができた。その後は口コミで評判が広まり、メディアで取り上げられたのを皮切りに事業が急拡大。現在、関西圏と首都圏を中心に50農園、約2,500区画を運営している。
収益モデルはこうだ。農園利用者の料金は1区画(約15m2)当たり月額5,000円程度。その収益はマイファーム、農園管理者、農地所有者の3者で3分割する(契約条件によって比率は異なる)。09年度の売上高は5,000万円、農園利用者は1,500組と順調に推移している。
では、マイファームの成功の秘訣はどこにあるのか。まず一つ目は巧みなターゲット設定だろう。食の安全に対する社会的関心が高まる中、家庭菜園に興味を持つ人が年々増えているといわれている。とりわけ都市部で暮らし、小さな子どもを持つ30代ファミリーは食育やスローフードに関心の高い人も多い。同社の場合、“都市部在住の30代向けレジャー農園”とターゲットを絞ることで、潜在ニーズの掘り起こしに成功したのだ。食育とレジャーを兼ね、週末に家族で農園に遊びに行く―。手軽に始められる体験農園が、新たな農業の楽しさを開拓したといえる。「事実、マイファーム利用者の約7割が食育やレジャー感覚で農業を楽しんでいる方々で、30代が中心です。あとの2割がもう少し本格的な農業に従事したい人で、残りの1割は農作物の販売も視野に入れた本格派の方です」と山本氏。30代以外にも、例えば定年を迎えた夫婦や店で出す食材を自家栽培したい飲食店、福利厚生施設として利用したい企業など利用者とその目的は幅広い。
二つ目は農地所有者にも利点があること。農地を耕作放棄地として放置しておくと、利益を生まない上に税金を払い続ける必要がある。マイファームに耕作放棄地を提供すれば、運営や管理の手間なく収益が上がるので、社会貢献しながら土地を有効活用できるのだ。しかし、「農地所有者の本当の利点は他にある」と山本氏は言う。「それは農地保存です。耕作放棄地は景観を損ねることに加え、年々土地がやせてしまいます。さらに雑草が生い茂り、周辺農家に多大な迷惑を与えかねません。マイファームに耕作放棄地を再生させていただくことで農園の利用者に喜んでもらえますし、何より農地として保存することができるのです」と山本氏は利点を語る。
そして最後の三つ目は同社の理念だ。「自産自消の社会をつくるという理念こそが、マイファームのビジネスが軌道に乗った最大のポイントだと考えています」と山本氏。同社の理念には、耕作放棄地の再生はもちろん、CO2削減や土壌汚染など環境問題への取組み、スローライフや安心安全な農作物を求める消費者への情報と活動の場を提供するという目的が含まれている。こうした理念に基づく同社の活動が社会の関心を呼び、メディアが一斉に取り上げたのだ。これにより、農家からの信用も一気に高まり、いまでは耕作放棄地を提供したいという申し出が相次ぐようになったという。
マイファームの利用者は農業初心者が多い。農具もなければ、知識も経験もない人がほとんどだ。さらに仕事や家事などが忙しく、草取りや水やりに定期的に通えるとも限らない。そこで、マイファームでは体験農園のハードルをぐっと下げている。農具や肥料は農園に常備し、管理スタッフが利用者の代わりに定期的に農園を見回る。「管理スタッフは菜園インストラクターの認定を受けた農業指導のプロ。土づくりから収穫まで利用者を現場で指導し、水やりや草取りなどのサポートも行います」(山本氏)。入り口のハードルを下げ、サービスを充実させることで、気軽に野菜づくりに取組みたい希望者を囲い込んでいるのだ。
また、マイファームは農薬や化学肥料を一切使用しない有機栽培に徹している。農園開設時には、立命館大学と共同で開発した独自技術で土壌検査も行う。土壌の安全性を確認できるほか、微生物の量を測ることでその土壌に適した野菜のアドバイスも可能となる。
野菜づくりの醍醐味はなんといっても収穫だろう。「これまで野菜が苦手だった子どもが、自分が育てた野菜を食べられるようになった」などの喜びの声が利用者から届く。「しかし、収穫と同じくらいに野菜づくりの過程を楽しんでいただいていると思います。種を蒔いて芽が出たとき、成長したのを確認できたとき、利用者の方々は本当に嬉しそうなんです」と山本氏は頬を緩める。野菜づくりのプロセスを体験することは、農業の厳しさを知ることでもある。農作物は必ずしも収穫できるまで育つとは限らない。「野菜づくりを通じ、農業の楽しさと大変さを心から実感することができます。そうすることで農家の人たちの苦労に思いが至り、なぜ有機野菜の値段が高いのかも理解できるようになります。体験農園は、農家や農産物に対する消費者意識を高める役割も担っているのです」
同社は農業を活用したさまざまな企画を展開している。例えば東京の企画会社と連携し、農作業を通じた婚活イベント『畑DE 婚活』を開催。「ありのままの姿が伝わる」と参加者に人気だという。こうした企画を展開するのも、すべては自産自消を広めるため。「今後もマイファームを通じて農業をもっと身近なものにしていきたい」と山本氏は意気込む。
2010年7月には、滋賀県野洲市に「マイファームアカデミー」を設立する。これは、農業起業や自給生活をめざす人に、有機農業の実践スキルや独立方法などを教える学校。体験農園で農業に興味を抱き、本格参入をめざすようになった人の次なるステージを提供するサービスだ。現状、同社の体験農園でリメイクできる耕作放棄地は都市近郊が中心。「今後はマイファームアカデミーで学んだ人が、地方を含め全国で農業に従事してほしい」と山本氏は期待に胸を膨らませる。

農作業を通じた婚活イベント『畑DE 婚活』は、「ありのままの姿が伝わる」と、好評を博している
同社の目標は、5年後までに全国1,000箇所に農園をつくり、5万人のマイファーマー(利用者)を生み出すこと。そうすれば、日本の食料自給率が1%上がる計算となる。壮大でかつ現実的なビジョンを抱え、日本の農業の復興に向け全力疾走を続けている。
多くのメディアに取り上げられて一躍有名になったマイファーム。同社の取組みが多くの評価を得る一方、「それは農業ではない」という意見も一部で寄せられることも。「それらの意見も含め、当社に関心を持っていただいている証拠だと受け止めています。今回、eco japan cup 2009のビジネス部門で大賞を受賞したことで、さらなる自信につながったことは確かです。私どもは理念を持ってマイファームを運営しています。それを国に認めていただいたわけですから」と山本氏。環境省や環境分野の専門家に認められたことが大きな自信となり、農家や利用者からの信用を高める原動力になっている。
同社は、eco japan cup 2009に「環境理解の場」というコンセプトで応募した。マイファームは「無農薬」「無汚染」を掲げ、前述のように大学との産学連携で土壌検査も行うなど、環境配慮の取組みに直結している。さらに体験農園では、日常生活で触れることの少ないミミズや蜂など生き物の存在を意識することになる。つまり、農業が農作物だけでなく、自然や生態系とリンクしていることを学ぶ機会になるのだ。「多くの企業が環境と事業をリンクさせ、社会に貢献するビジネスを展開してほしいですね」。山本氏はeco japan cup 2010 応募企業にそうメッセージを伝えている。
道器具の貸し出しや農業のプロによるサポートなど、農作業が初めての人でも気軽に始められるように、さまざまな工夫がなされている
※月刊「環境ビジネス」2010年8月号の内容を掲載しています。
・躍進に期待高まる地域バイオマス等 再生可能エネルギーと蓄電の新技術
・第2回「十勝と東京を食でつなぐ地域活性化ビジネス」
・第6回「都市に季節をとりもどす、5×緑『東京里山計画』」
・2007年大賞「海洋温度差発電(OTEC)」/ゼネシス
・2007年敢闘賞「見えタロー®」/株式会社環境経営戦略総研(旧社名:コスト削減総合研究所)
・実行委員に4省加わり、オールジャパン体制で取組強化
・世界標準のエコビジネス登竜門 eco japan cup 2008受賞者発表