CSDDD(企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令)

CSDDD(企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令)とは、EU域内外の大企業に対し、自社や子会社、サプライチェーン等のバリューチェーン全体における人権侵害および環境負荷の悪影響を特定・予防・是正するプロセスの実施を義務付けるEU法である。
公的名称は「DIRECTIVE (EU) 2024/1760」であり、国連やOECDによる自主的な国際行動規範を法的拘束力と制裁を伴う制度へと移行させた点に特徴がある。2024年7月に正式発効した。
義務付けられる実務プロセスの構成
対象企業はリスクベース・アプローチに基づき、人権および環境に関する負の影響を低減するためのデューディリジェンス(Due diligence)体制を構築・運用しなければならない。具体的には、自社の方針やリスク管理システムへのデューディリジェンスの統合、潜在的および実際のリスクの特定・評価、悪影響の予防や軽減、ならびに発生した被害の是正・補償の措置が求められる。
加えて、労働組合やNGO、潜在的な被害者が申し立てを行える苦情処理メカニズムの設置や、実施した対策の有効性を検証する定期的なモニタリング、取り組み内容の年次報告が義務付けられている。また、制定時の本則においては、パリ協定の目標に整合する気候変動移行計画の策定・採択も規定されている。
制裁規定と民事賠償責任
指令の実効性を担保するため、各EU加盟国の監督機関による行政執行と民事上の責任追及の仕組みが組み込まれている。義務違反が認められた場合、監督機関から是正命令が下されるほか、全世界年間純売上高に応じた過料などの制裁金が科される規定となっている。
さらに、企業がデューディリジェンス義務を怠り、人権や環境への悪影響によって損害が生じた場合には、被害を受けた労働者や地域住民が加盟国の裁判所へ損害賠償を請求できる民事責任規定が設けられている。これにより、企業のガバナンス不備が直接的な訴訟リスクや財務リスクへ直結する仕組みとなっている。
適用基準のスケジュールと法案見直しの動き
指令の本則(Directive (EU) 2024/1760)では、加盟国が国内法化を進めた後、企業規模や売上高に応じて段階的に適用範囲を拡大するスケジュールが定められている。EU域外の企業に対してもEU域内での売上高を基準に適用されるため、欧州市場で一定規模のビジネスを展開する日本企業も直接の規制対象となる。
| 段階 | 適用開始期日 | EU域内企業の基準 | EU域外企業の基準 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 2027年7月26日〜 | 従業員5,000人超 かつ 全世界売上高15億ユーロ超 | EU域内売上高15億ユーロ超 |
| 第2段階 | 2028年7月26日〜 | 従業員3,000人超 かつ 全世界売上高9億ユーロ超 | EU域内売上高9億ユーロ超 |
| 第3段階 | 2029年7月26日〜 | 従業員1,000人超 かつ 全世界売上高4.5億ユーロ超 | EU域内売上高4.5億ユーロ超 |
簡素化協議の動向と日本企業の実務影響
欧州における産業競争力維持や企業負担の軽減を背景に、サステナビリティ関連指令の簡素化パッケージ(オムニバス法案)に関する協議が進められている。この議論では、CSDDDの適用対象を最上位規模(域内売上高15億ユーロ超等)に絞り込み、適用開始時期を2029年7月に一本化する案や、気候移行計画策定義務の緩和などが検討されている。
ただし、制度の簡素化や直接対象基準の変更にかかわらず、日本企業には「サプライチェーンを通じた間接的な影響」が及ぶ点に留意が必要である。欧州の直接対象企業は、サプライヤーに対して人権方針の策定、労働環境や環境負荷に関する質問票調査への回答、行動規範の遵守確約を求める。そのため、直接の売上基準を満たさない中堅・サプライヤー企業であっても、取引継続のためのデューディリジェンス対応が不可欠となる。
また、企業の情報開示義務を定めるCSRDが「何を開示するか」を規定しているのに対し、CSDDDは「サプライチェーン現場でリスクをどう予防・是正するかという行動義務」を規定している。実務担当者は開示対応とサプライチェーン管理の実務を一体のものとして捉え、体制を整備することが求められる。
参考
- EUR-Lex ― Directive (EU) 2024/1760 on corporate sustainability due diligence
- EUR-Lex ― Corporate sustainability due diligence (Summary)
- 日本貿易振興機構(JETRO) ― EU人権・環境デューディリジェンス法制化の最新概要
- 日本貿易振興機構(JETRO) ― EU、CSDDD・CSRDの適用対象や義務内容の大幅簡素化で合意
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