デジタルプロダクトパスポート(DPP)

デジタルプロダクトパスポート(DPP、英語表記:Digital Product Passport、和名:デジタル製品パスポート)とは、製品の原材料調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体の持続可能性や循環性、トレーサビリティに関する情報を電子的に記録・共有する仕組みのこと。
欧州連合(EU)の「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」などを法的根拠とし、製品の環境負荷低減や資源循環の促進、グリーンウォッシュの防止を目的として導入が進められている。EU市場に流通する対象製品に対して段階的に適用され、EU域外から輸出するサプライヤー企業にもデータ開示などの対応が求められる。
DPPの仕組みと記録される主な情報
DPPは、製品本体や外装に付与された二次元コード(QRコード)やRFIDタグなどのデータキャリアを通じてアクセスする設計となっている。国際標準に準拠したGTIN(国際取引商品番号)などの一意の識別コードを用いて、個々の製品やロットごとの情報と紐付ける。
データ管理においては、単一の巨大データベースに情報を集中させるのではなく、各企業が自社の「分散型データスペース」でデータを保有・管理し、欧州委員会が設ける中央登録簿(DPP Registry)と連携するアーキテクチャが採用される。これにより、企業の機密情報を保護しながら、必要なデータのみを取引先や消費者、規制当局に開示することが可能となる。
記録対象となる情報は多岐にわたり、構成素材や懸念化学物質の含有状況、耐久性や製品寿命、修理・分解の手順、リサイクル材の含有率、製品単位のカーボンフットプリントなどが含まれる。対象範囲は、食品や飼料、医薬品など一部の適用除外品目を除く、EU域内で上市されるほぼすべての物理的な製品に及ぶ。
導入スケジュールと義務化の流れ
欧州におけるDPPの法制化と運用開始は、複数の法令および段階的なスケジュールに基づいて進行している。
2024年7月に包括的な枠組みを定めたESPRが正式発効した。欧州委員会は2026年7月までに、すべてのDPP情報を一元的に検索・照合するための「DPP登録簿(DPP Registry)」の運用を開始する計画である。
個別の製品群において初の実装義務化となるのは、先行法令である「EU電池規則」に基づく蓄電池である。2027年2月18日以降、容量2kWhを超える産業用電池、電気自動車(EV)用電池、軽量輸送手段(LMT)用電池を対象に「バッテリーパスポート」の付与が義務付けられる。
さらに、ESPRの作業計画(2025〜2030年)に基づき、優先製品群として位置づけられた繊維(衣料・履物)、鉄鋼・アルミニウム、電子機器・ICT製品、家具、化学品などに対しても、順次個別の委任法令(Delegated Acts)が策定され、2027年から2030年にかけて義務化が順次拡大していく見通しである。
製造業の実務担当者が直面する課題と対策
DPPへの対応は、欧州へ直接最終製品を輸出している企業にとどまらず、国内外の多層サプライチェーン全体に波及する。自社の部品や素材が組み込まれた完成品がEU市場で販売される場合、サプライチェーン上位のメーカーから原材料調達履歴や環境負荷データの提出を強く求められるためである。
実務面では、Tier1からTierNに及ぶサプライヤーからカーボンフットプリント算定に必要な一次データを正確に収集・集計する体制の構築が急務となる。あわせて、素材の配合比率や製造ノウハウなどの営業秘密を保護しつつ、求められた環境指標のみを選択的に共有するデータガバナンスが欠かせない。
現在、欧州自動車産業のデータ連携基盤「Catena-X」をはじめ、日本国内においても経済産業省が主導する「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」など、相互運用性を持った業界横断のデータスペース構築が進められている。実務担当者には、国際的なデータ標準規格の動向を注視し、社内の情報管理システムの改修やサプライヤーとの連携プロセスの標準化を進めることが求められる。
参考
- 日本貿易振興機構(ジェトロ) ― EU 循環型経済関連法の最新概要(PDF)
- 日本貿易振興機構(ジェトロ) ― デジタル製品パスポート、第1弾パイロット展開プロジェクト報告会開催(EU)
- 欧州委員会(European Commission) ― Ecodesign for Sustainable Products Regulation (ESPR)
- 一般社団法人流通システム開発センター(GS1 Japan) ― Digital Product Passport (デジタル製品パスポート)
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環境ビジネス編集部
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