東京電力ベンチャーズ、需給調整市場参入に向けNAS電池遠隔制御事業を開始

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全自動制御によるデマンドレスポンスにより、需給調整市場への参入を目指している東京電力ベンチャーズ。その取り組みの一つとして、現在TOTOの小倉物流センターにおいて大容量蓄電池「NAS電池®」を活用した調整力の運用を進めている。同取り組みについて、東京電力ベンチャーズフレキシビリティ事業部のシニアマネージャー中村 圭佑氏と運用部門セクションマネージャーの佐賀 寛氏に聞いた。

高速&AI制御システムで
ルールが厳格な需給調整市場への参入を目指す

TOTO小倉物流センター 空撮
TOTO小倉物流センター 空撮

再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大に向けて、電力の需給バランスを調整する新たな仕組みづくりが喫緊の課題となる中、その一手として近年注目を集めているのが需要家側の電力を調整する「デマンドレスポンス ※1(DR)」だ。同分野で最先端の取り組みを行う東京電力ベンチャーズは、AIによる全自動制御技術によって、需要家である企業が蓄電池に貯めていた余剰電力を放電したり、設備の使用電力を抑制したりすることで調整力を創出する取り組みに挑戦している。電力の安定供給に貢献するとともに、DR発動時に抑制量に応じて一般送配電事業者から得た報酬を需要家に還元し、企業収益拡大にも寄与する事業を全国で展開している。

※1:ディマンドリスポンスとも言う。

同社は2021年4月に開設された需給調整市場への参入を見据え、世界トップクラスの高速&AI制御システムを有する英国のCentrica Business Solutions International Limitedと戦略的パートナーシップを結んでいる。需給調整市場は、調整力を全国一体的な市場で取引する制度。中村氏は「電力は、すべての瞬間において需要と供給が一致していなければなりません。そうでなければ電気の周波数に乱れが生じて電力供給を正常に行えなくなってしまいます。各電気事業者は需要を予測して電力の需給計画を策定していますが、将来の電力需要と完全に一致する需給計画を作ることはできません。この誤差の解消に向けて最終的な調整を行うのが一般送配電事業者であり、その調整力の一部を調達する市場が需給調整市場となります」と説明する。

しかし、需給調整市場にDRで参入するためには厳格な要求事項が定められており現状では容易ではない。その為、現在は主に旧一般電気事業者(大手電力会社)が保有する電源を活用して周波数制御や需給バランスの調整が行われている。2019年から調整力公募(厳気象対応調整力である電源Ⅰ’(イチ ダッシュ))に参加している東京電力ベンチャーズは、次なるステップとして、自家発電設備や大容量蓄電池を有する需要家、その設備メーカー、エンジニアリング企業などと連携して、需給調整市場への参入を目指し事業開発を進めている。

大容量蓄電池の遠隔制御で調整力公募・容量市場に参加

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TOTO小倉物流センターのNAS電池システム。「TOTO様と密なコミュニケーションを取り、日本ガイシ様とも連携しながらシステムを作り上げました」と中村氏(左)と佐賀氏

その取り組みの一つが、日本ガイシが研究開発したメガワット級の蓄電池「NAS電池」の遠隔制御によって調整力を生み出す事業である。きっかけは、TOTOから寄せられた「NAS電池の活用方法」に関する相談だった。TOTOは2021年4月、脱炭素社会に向け電力を100%再エネ化する国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟。従来、ピークカット用電源として使用してきた小倉物流センターのNAS電池を、再エネ普及拡大の促進に向けて活用できないか検討を進めていた。東京電力ベンチャーズが同社の需要量やNAS電池の使用状況を詳細に分析した結果、NAS電池を最大限に活用しきれていないことが分かり、遠隔制御して調整力を確保するシステムの構築に乗り出したのだ。

遠隔指令イメージ
東京電力ベンチャーズ フレキシビリティ事業部 シニアマネジャー 中村 圭佑氏
東京電力ベンチャーズ
フレキシビリティ事業部 シニアマネージャー
中村 圭佑氏

「調整力として当社が遠隔制御可能な範囲を見極めるのに苦労しました。その範囲が大きいほど、収益性は上がります。一方、ピークカット用の余力がなくなると、使用電力が契約電力を超えてしまうデマンドオーバーとなるリスクがあります。TOTO様と密なコミュニケーションを取り、運用面での安全性と収益性の両方を実現できる運用方法を分析し、調整力として当社が遠隔で使用可能な範囲を設定しました。また、万が一当社のシステムが設定範囲を超えるような指令を出したとしても、TOTO様のシステムが指令の実行をブロックする機能を日本ガイシ様と連携しながら作り上げました」と中村氏は語る。

日本ガイシのNAS電池システム
日本ガイシのNAS電池システム

大容量のNAS電池は高出力、長時間の電力貯蔵が可能なため、現状の調整力公募(電源Ⅰ’・容量市場)の運用要件の一つ「3時間継続放電」などにも適している。現在TOTOはNAS電池の遠隔制御によって調整力公募や容量市場(将来の供給力を取引する市場)に参加し、電力の安定供給に貢献している。

経済DRなど複数市場で蓄電池の余力を最大限活用
需要家の収益拡大に貢献

東京電力ベンチャーズ 運用部門セクションマネージャー 佐賀 寛氏
東京電力ベンチャーズ
運用部門セクションマネージャー
佐賀 寛氏

同社は経済DRという新たな取り組みもスタートさせた。経済DRとは、調整力(待機+調整)とは異なり、節電で生まれた電力を日本卸電力取引所(JEPX)で取引してkWh実績に応じた収益を得る仕組み。具体的には、(1)需要抑制による削減電力量をJEPXで応札(売り札) (2)JEPXで約定されたら、該当する時間帯にNAS電池に対して遠隔制御指令を送り需要抑制を実施するという流れだ。「電源Ⅰ’に対応できる余力を残し、その他の余力を経済DRにあてることで、NAS電池の最適運用を実現、市場価格高騰時(電力の価値が高まるタイミング)に経済DRを実施すれば需要家は収益を得ることができます」と、佐賀氏は説明する。

TOTO小倉物流センター
TOTO小倉物流センター

TOTO小倉物流センターは、需給調整市場への参入領域拡大を目指して東京電力ベンチャーズと運用実績を重ねるとともに、今後は太陽光発電システムを導入する計画などもある。同社は環境面、BCP面並びに経済面でNAS電池の可能性を検証中であり、複数市場でその能力を最大限活用していく予定だ。

需給調整市場への参入を見込んで実証事業を進めている企業、さらには調整力公募や経済DRなど複数市場で収益を上げるビジネスモデルを提供する企業として、東京電力ベンチャーズは先駆だ。大手電力会社の子会社として蓄積されたノウハウや専門性を土台に、高速&AI制御技術を駆使した先進的な取り組みを行う同社だからこそ踏み込める領域である。「需要家や設備メーカーと連携しながら、眠っている調整力を掘り起こし、電力の安定供給や脱炭素社会の実現に貢献するとともに、需要家の収益を拡大し産業競争力の向上につながるようなビジネスモデルの構築に向けて、今後も開発を進めていきます」と佐賀氏は将来を見据えている。

東京電力ベンチャーズ株式会社 東京電力ベンチャーズ株式会社
フレキシビリティ事業部
https://www.tepcoventures.co.jp/flexbee/