DNPとJEMSが実現する生活者に伝わる資源循環ビジネスモデル
日本におけるサーキュラーエコノミーの実現にはまだまだ多くの課題があり、取り組み状況も企業によってさまざまだ。それらの課題を解消すべく、大日本印刷(DNP/東京都新宿区)とJEMS(茨城県つくば市)がタッグを組んだ。埼玉県と民間企業が連携した「プラスチック資源循環の見える化」の実証実験を行って見えてきた成果や課題とは?両社の協業のキーパーソンであるDNPの尾野 友邦氏とJEMSの松﨑 飛鳥氏に聞いた。
日本のサーキュラーエコノミーの状況や諸課題について
松﨑氏:日本のサーキュラーエコノミーは、動脈産業(製品の製造、流通、販売)と、静脈産業(排出物のリサイクル又は処理)の間に情報格差のようなものがあるため、サーキュラーエコノミーには関心があるものの、どのように取り組んだらいいのかが分からない企業が多いのが現状です。また、廃棄物を回収し、処分することでビジネスをしていた静脈側の企業にとっては、動脈側のブランドオーナーやメーカーが入ってくることによって自分たちの商圏とバッティングするのではないかという危機感から、サーキュラーエコノミーに取り組むメリットを見いだせていないことが課題となっている企業も存在します。
尾野氏:クライアントである動脈産業の企業から聞こえてくるのは、自分達の工場で出た廃材を活用したいなど、自社目線でのビジネス展開についての関心であることが多く、サーキュラーエコノミーの仕組みをどうするかという大きな視点では語られていないことがあります。それぞれの企業の中でも、部署ごとのアイデアはあるものの、部署を超えた意見交換までには発展せず、会社全体で取り組むところまでいかないことが多いようです。
DNP×JEMSが生むシナジー
尾野氏:企画から運用まで、しっかりと資源循環のスキームを作れる点が、2社でタッグを組む大きなメリットです。もともとDNPはモノづくりなどのハード面を強みとした動脈産業の企業であるのに対し、JEMSはITやソフトウェアを核として静脈産業に幅広いネットワークを構築しており、それぞれ動脈側、静脈側としての強みを生かしながら、お互いの領域を補い合うことができる関係だと思っています。また、データ入力の自動化・効率化に向けてリアルとデジタルを繋ぐ、ICタグ等のDNPの技術と、JEMSの持つ資源循環プラットフォームを連携して、より運用しやすい新たな方法を開発することもできるのではないかと考えています。
松﨑氏:さらに、DNPとJEMSで動脈産業と静脈産業のハブの役割を果たせることもシナジーの一つだと思っています。例えば、廃棄物からマテリアル材を作り、製品の成型プロセスまでを実証する際に、静脈のプレイヤーとのコミュニケーションが難しい場合も多くありますが、JEMSは業界の中でも主要な処理会社やリサイクル会社と顧客あるいは共創パートナーとしての関係を築いていることや廃棄物やリサイクルの法令/条令に明るいので、課題に適した業者とのマッチングやコミュニケーションが容易です。一方で、動脈産業との関係はDNPが構築しているので、双方のハブ機能として取り組みを前に進めることが可能です。動静脈産業のコミュニケーションについては取り組み開始前には課題として認識されていないことがほとんどですが、多くの企業が直面する課題です。そういった役割についても、重宝されることが増えています。
資源循環の取り組みを共同で行うきっかけは
尾野氏:環境ビジネスを推進する部署に異動し、資源循環に取り組む上で情報の可視化、特にトレーサビリティを管理していくことが重要ではないかと考えていました。情報収集していた時、展示会でJEMSの資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」を拝見し、1つのリサイクル製品に対して、複数のサプライチェーン企業によって原料の出所や中間処理工程の情報担保がなされていることが分かりました。私がイメージしていたものとほぼ同じだったので、これだと確信し、一緒に何かできないか声をかけました。
松﨑氏:はじめに声をかけていただいた時は、正直驚きました。JEMSがこれまで関わることが多かったのは、廃棄物の処理やリサイクルを事業とする企業、廃棄物を排出するメーカーなどであったので、モノづくりのDNPは遠い存在に感じていたからです。しかし、サーキュラーエコノミー自体にまだ決まった形がなく、どんな可能性を秘めているのかわからないので、様々な会社とその可能性を模索するのもいいのではないかと考えて、ジョインしました。
これまで、2社で取り組んできた事例について
尾野氏:DNPが参画していた「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」を舞台に、プラスチック資源循環の見える化の実証実験にJEMSと取り組みました。ホームセンターで、プラスチック製の衣装ケースやプランターなどの資源を店頭回収しリサイクルする過程でのCO2排出量などを可視化して発信し、生活者の資源循環に対する意識変容の効果を検証しました。今回の取り組みでは、プロジェクトマネジメントはDNP、JEMSがシステム提供し、プラスチック資源の店頭回収から、再資源化、再生した資源を活用し製品化するまでの全工程の情報を集約して数値化し、Webサイトで広く公開しました。
松﨑氏:今回の実証実験は、プラスチックが対象でしたが、成分が混在し、再生時に質の良いマテリアルを作るのが難しいという課題がありました。製品・成分ごとに分別してリサイクルに回すのが理想ですが、コスト面などの課題があり、具体的な解決策について検討していく必要があります。また、今回参加した事業者にシステムを使ってもらいましたがデータ入力を一部、JEMSでサポートするなど、新たな工程を既存の業務にスムーズに組み込む点に配慮しました。社会実装へ向けた課題としては、データ入力を自動化するか、手間をかけてもしっかりと入力してもらえるインセンティブを検討する必要があると感じました。
今後、サーキュラーエコノミーはどのように変容していくのか。また、両社で実現したい未来とは。
松﨑氏:資源循環の最終的な利益を享受するのは生活者であり、サステナブルであることを可視化し、生活者に認知してもらうことが何よりも大切です。DNPは企業と生活者とのコミュニケーションに関するノウハウを持っているので、生活者にうまく伝えることができる。企業のサステナブルの取り組みの中に、資源と生活者をどう繋げていくかが国内の資源循環に極めて重要な要素となると考えています。
尾野氏:今回、資源循環の流れと効果を生活者に体験してもらったところ、多くの反響があり、リサイクルの現状や裏側をもっと知りたいというニーズがあることが分かりました。工程もそうですが、アウトプットとして、この資源が何に生まれ変わるのか、また、製品を買う時にも、素材がどこからきているのかなどを知ってもらうことで、生活者の意識や行動を変えることができる。生活者に資源循環に関するデータの価値を感じてもらうことが、我々に課せられている命題だと思います。私たちがスキーム全体の潤滑油の役割を果たし、国内の資源循環の仕組みづくりを前に進めていきたいです。
株式会社JEMS
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