【セミナーレポート】蓄電所投資、実践段階へ 市場・リスク・技術の最前線解説
去る9月2日、『蓄電所投資の実践術 徹底解説セミナー』が開催された。系統用蓄電池市場における市場機会の捉え方や今後の戦略について、5名の有識者および業界のプレイヤーが登壇。講演終了後にはネットワーキングパーティーも開催され、参加者・登壇者の間で活発な議論が交わされた。
脱炭素化の潮流が加速する中、再生可能エネルギーの導入拡大に不可欠な調整力として、系統用蓄電所の重要性が高まっている。一方で、市場制度の変化、事業リスクの多様化など、投資家や事業者が直面する課題は多い。本記事では、5つの講演で語られた市場動向、投資戦略、リスク評価、そして最新技術についてレポートする。

激変する需給調整市場の現状と未来予測
第1部では「蓄電池ビジネスにおける活用市場及び市場動向について」と題し、E-FLOW社長の川口公一氏が登壇した。
電力においては需要と供給を常に一致させる必要があり、そのための調整力が市場で取引されている。川口氏は、再エネの普及に伴い、この調整力の価値が今後ますます高まることに言及。需給調整市場は、応答速度に応じて一次・二次・三次調整力といった商品に分かれているが、2024年に全商品での取引が開始されて以降、市場は激動の渦中にある。
特に、三次調整力②の価格が高騰し、年間調達額の上限を超過したことで、電力広域的運営推進機関(OCCTO)による募集量の削減といった緊急的な見直しが実施された。これにより、2024年5月に約120億円だった市場規模は、6月以降40億円前後、11月以降は10億円を切る水準まで急減。市場の予見性が大きく揺らいでいる現状を指摘した。
一方で、川口氏は蓄電池にとって追い風となる動きも紹介。指令に対して高速で応答できる電源、すなわち蓄電池のようなリソースを高く評価する「優先約定インセンティブ」の導入が議論されている。こうした制度変更の動向を注視し、変化に柔軟に対応することが、今後の事業成功の鍵となることを示唆した。

9割が供給不足 「一次調整力オフライン」に眠る価値
第2部では「激変期の市場深掘り戦略:一次調整力オフラインの価値分析」と題し、TAOKE ENERGY技術ソリューション部課長の李明達氏が登壇。需給調整市場の中でも「一次調整力オフライン」市場の価値分析と技術的側面について講演した。
第7次エネルギー基本計画では、2040年に再エネ比率が4〜5割に達すると見込まれており、太陽光発電の出力が瞬時に変動することによる周波数の乱れが課題となる。この数秒単位の周波数変動に対応するのが一次調整力であり、その重要性は増している。
李氏が注目するのは、この一次調整力市場の需給ギャップだ。現状、全国の募集量約1.2GWに対し、応札量はその1割程度に留まり、供給不足となっている。これは、参入する事業者にとって極めて魅力的な市場であることを意味する。
李氏は、こうした背景から高圧蓄電所の需要が急増すると予測。2025年には100件以上、2027年には約700件の参入が見込まれるとし、この激変期に技術的優位性を確保し、市場に深く切り込む戦略の重要性を強調した。

蓄電所運営のリアルとリスク管理術
第3部では「実務から徹底解説:蓄電所運営のリスク評価」と題し、同じくTAOKE ENERGYから副社長の鄔 鵬飛氏が登壇。蓄電所事業を「開発」「建設」「運用」の各フェーズに分け、実務から見えてくる具体的なリスクと、その解決策を示した。
開発段階では、土地の選定が最初の関門となる。文化財の埋蔵や農地転用、伐採許可といった行政手続きの煩雑さに加え、電力系統の制約によって事業スケジュールや収益性が大きく左右されるリスクがある。さらに建設段階では、EPC(設計・調達・建設)業者による配線ミスなどの施工不良も起こりうる。
最も収益に直結するのは運用段階のリスクだ。鄔氏の試算によれば、設備の不具合で市場機会を一日逃した場合の損失は最大約160万円。さらに、指令通りの出力ができなかった場合のペナルティは損失を約240万円にまで拡大させ、1カ月に3回以上の不適合で取引停止となれば、機会損失は約5000万円にも上るという。
これらの複合的なリスクに対する有効な解決策として、鄔氏は「ワンストップソリューション」の重要性を訴えた。土地選定から系統連系、市場運用、アフターサービスまでを一貫して担うことで、リスクを最小化し、事業全体の最適化を図ることが可能となる。同社では、出荷前に自社工場で綿密な試験を行うことで、現地での調整期間を大幅に短縮し、最短での市場参入を実現している事例も紹介された。

CATLの最新技術と日本市場戦略
第4部では「CATLが切り拓く蓄電の未来:最新製品&日本におけるサポート体制を初公開!」と題しCATLジャパン 蓄電池システム事業部 営業部長 斉 暘氏が登壇。斉氏は同社の技術革新と安全性について紹介し、日本市場でのサポート体制を説明した。
講演では、2026年に初めて日本に出荷予定の最新製品である「Tener R2-S070」が紹介された。大容量化と同時に、騒音レベルを従来の75dBから65dBへと大幅に低減させるなど、日本の住環境にも配慮した設計となっている。斉氏は、同社の安全基準が「原子力発電所レベル」であると述べ、高度な解析技術と徹底した品質管理が製品を支えていることを紹介した。
グローバル展開を加速する同社は、日本市場へのコミットメントを強化している。横浜にオフィスと分析センターを設置し、TAOKE ENERGYとの連携を通じて、日本の安全認証であるJET認証の取得や、迅速なアフターサービス体制の構築を進めていると講演を締めくくった。

蓄電所ビジネスの現在地と20年後へのロードマップ
第5部ではパワープールCOO兼副社長の肖宇生氏、三菱総合研究所の湯浅友幸氏、Eku Energy Japan社長の小野健太郎氏、E-FLOW社長の川口公一氏が登壇。「蓄電所ビジネスの将来性:投資スキームと運用事例初公開」と題し蓄電所ビジネスの将来性についてのパネルディスカッションが行われた。

制度変更と競争激化のリスクをどう読むか
再エネ導入の拡大を背景に市場が成長するとの見方で一致する一方、川口氏は、長期脱炭素電源オークションによる競争激化や制度変更がリスクになると指摘。これに対し肖氏は、高圧蓄電所の需給バランスの観点から「今後3〜5年は建設ブームが続く」と予測し、コスト低下を追い風に多くの投資家が参入するとの見方を示した。
一方で小野氏は、実際の建設・運用には大きなハードルがあると述べ、特に契約条件の重要性を強調。湯浅氏は、補助金や高値の需給調整市場を狙った参入が多かった現状から、今後は競争と制度変更により市場環境は落ち着いていくだろうと分析した。
マルチユース戦略と収益性確保の要諦
続く収益源の多様化に関する議論では、川口氏が「需給調整市場の『超バブル』は今年で終わり」と発言。今後はローカルエリアの系統混雑への対応など、新たな活用法が重要になると述べた。湯浅氏もこれに同意し、容量市場、需給調整市場、卸市場の三つを組み合わせる「マルチユース」が当面の基本戦略になると説明。
参入時の注意点として、小野氏は市場価格予測と運用コストの検討を挙げ、収益性の緻密な見立てが求められると発言。肖氏は、優良な案件の選別と信頼できるアグリゲーターの選定が不可欠であると付け加えた。
淘汰の時代を経て社会インフラへ 蓄電所ビジネスのロードマップ
終盤には市場の未来像が短期・中期・長期の視点で語られた。短期的には高圧蓄電所の建設ブームが続くものの、中期的には市場競争の激化によって「勝ち組」と「負け組」が明確化し、安定収益を求めるインフラファンドなどが参入するフェーズへと移行する。
そして長期的には、蓄電池ネットワークが社会インフラとして定着し、系統の課題解決に応じた新たなユースケースが生まれるというロードマップが示された。

ネットワーキングで交流、蓄電所ビジネスの可能性を共有

講演終了後のネットワーキングパーティーの冒頭では、TAOKE ENERGY社長の陸劍洲氏が乾杯の挨拶に立ち、蓄電所ビジネス市場の今後の成長への期待や、パートナー企業との連携強化の重要性について言及した。その後は、参加者と登壇者の間で活発な交流が行われ、盛況のうちに会は締めくくられた。

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