エネルギー・環境の世界の第一人者が集結 GX実現のカギとなるイノベーションを議論

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経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、10月4日・5日、Innovation for Cool Earth Forum第10回年次総会(ICEF2023)を開催。GXをテーマに、2050年ネット・ゼロ実現のカギを握るイノベーションを議論することを目的に19セッションを企画。79の国・地域から約1700名が参加した。

「地球沸騰化」の時代到来
気候変動対策はイノベーションがカギ

2014年、故安倍 晋三元首相の提唱により設立したInnovation for Cool Earth Forum(ICEF)。地球温暖化対策のカギとなるイノベーションを推進するため、世界中の産学官のリーダーが議論する知のプラットフォームだ。

設立以降、2015年のCOP21を成功に導いた交渉において、イノベーションの重要性を強調し、パリ協定の形成に貢献。2016年には、人為起源のCO2排出量を正味ゼロにするという野心的な目標を提唱した。

創設から10周年を迎える2023年の年次総会は、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現を目指し、エネルギー・環境関連の国際会議を集中的に開催する『東京GXウィーク』の一環として、2日間にわたりハイブリッド形式で開催。『公正で安全かつ持続可能なグローバルGXのためのイノベーション』をメインテーマに、多様な視点で19のセッションを行った。

開会式では、西村康稔経済産業大臣が挨拶。エネルギーを巡る状況は各国千差万別であり、各国の事情に応じた多様な道筋でネット・ゼロという共通のゴールを目指すことが重要であること、様々な困難がある中で、イノベーションが解決のカギであること、2050年に社会の中核となる若手世代に過去に捉われない発想で積極的に議論に参加してほしいことなどを述べ、最後に『イノベーション、イノベーション、イノベーション』と繰り返し、挨拶をくくった。

西村 康稔経済産業大臣が開会挨拶
西村康稔経済産業大臣が開会挨拶

続くキーノートでは、世界が様々な困難に直面しつつも、カーボンニュートラル達成へと進んでいくために必要なイノベーションに焦点を当て対談、講演、メッセージ上映を行った。

キーノート1で登壇した宇宙飛行士の野口 聡一氏は「これまで3回、国際宇宙ステーションに行き、宇宙から見た地球は息をのむほど美しかった」と話した上で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が『地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が来た』と発言したことを指摘。「ダイナミックで命に満ち溢れ、最もクールだと感じた地球は、もはやクールではなくなってきています」と、宇宙飛行士の目から見た地球に対する危機感を率直に述べ、環境関連問題の深刻さを強調した。

宇宙飛行士の野口 聡一氏
宇宙飛行士の野口 聡一氏

多様なテーマでセッションを開催
若手イノベーターとの対話も

各セッションでは、革新的な政策立案、公正なGX、グローバル・ストックテイク、食料・水・気候変動、革新的な再生可能エネルギーの利用、持続可能な航空輸送、核融合テクノロジーなどについて議論を繰り広げた。

スタンフォード大学教授で米国エネルギー省元長官、ノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏、スタンフォード大学医学部教授でノーベル生理学・医学賞受賞者のアンドリュー・Z・ファイアー氏、フランシス・クリック研究所ディレクターでノーベル生理学・医学賞受賞者のポール・M・ナース氏の3人のノーベル賞受賞者を招いたことも、今回の大きな見どころであった。

なかでも、ポール・M・ナース氏が触れた『サイエンスと信頼(トラスト)』の問題は興味深いテーマだ。『我々は失敗する。しかし、その災害から回復する強靭性を持たなければならない。福島の原発事故は、科学者に多くの教訓を与えてくれる』とポール氏はセッションで発言し、トラストの問題が科学において非常に重要な問題であることを指摘した。

また、マニトバ大学名誉教授のバーツラフ・シュミル氏を招いての『エネルギートランジションに関する特別対談』は独自性の高い対談となった。2050年のネット・ゼロの実現性に向け、懐疑的なシュミル氏とネットゼロエミッションに向けた道筋について意見を交換した同対談は、どのようなテーマもオープンに自由闊達に議論していくというICEFの在り方を象徴している。

『ICEF2023』総括の直前に行われた最終セッションでは『若きイノベーターとの対話』と題し、世界から最も刺激的な若手・中堅のイノベーターを集め、イノベーションとクリーンエネルギー革命の推進に重要な役割を果たしてきたICEF運営委員会のメンバーと対話形式で討論を行った。気候変動問題の影響を実際に受けるのは若い世代であり、彼らが発言し、政策に関与していかなければフェアではない。

「若きイノベーターとの対話」セッションの様子
「若きイノベーターとの対話」セッションの様子

セッションのモデレーターを担当したネボイシャ・ナキチェノヴィッチ氏(ICEF運営委員)は「地球システム、社会システム共に臨界点に近づいている。若い世代は人類の行き詰まりを乗り越え、安全で公正な社会を作っていく任務を負っている」と若い世代へ向け語り、若きイノベーターたちの闊達な意見に耳を傾けた。

これまでの10年とこれからの10年
常にチャレンジングな議論を

ICEF運営委員長・元国際エネルギー機関(IEA)事務局長 田中 伸男氏
ICEF運営委員長・元国際エネルギー機関(IEA)事務局長 田中 伸男氏

「第10回目となる『ICEF2023』は、過去の10年を振り返りながら、これからの10年を考えるといった位置づけで行われました」とICEF運営委員長の田中 伸男氏。

閉会にあたり、『ICEF2023』のステートメントを発表した山地 憲治氏は「ステートメントに関し、これまでとは比較にならないほど、熱い議論をいたしました」と話した。

ICEF2023 ステートメント
ICEF2023 ステートメント

記念すべき10回目の開催となった今回のICEFのステートメントは、2014年の設立年次会合以来ICEFが達成したこと、今後のGXを進めるために必要なこと、将来に向けたICEFの役割とミッションに焦点を当てた。多様性と包括性を強化しながら、ICEFが設立以来一貫して進めてきた技術革新と社会的革新の双方を促進していくことに、引き続きしっかりと取り組んでいくことを固く約束。脱炭素化に対し技術中立的なアプローチを採用し、自然エネルギー、持続可能な原子力、炭素回収・貯留、あらゆる部門にわたり新たな最終利用技術についての議論も含め、今後も常にオープンにチャレンジングな議論を交わしていく。

今後については、ファイナンスが大きな議論の1つとなる。「1000億ドルのお金を先進国から途上国へ流すというのは昔から言われていますが、なかなか進んでいない。ジャストトランジションと言われるグローバル・サウスを大切にしたトランジションの実現へ向け、もう少しイノバティブなファイナンスを考えていくべきかと思います」と田中氏は言う。

『地球沸騰化の時代』と言われるほど気候変動問題が深刻な課題となるなか、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)やジオエンジニアリングといった複雑な概念も出てきている。「問題が切迫化するなか、こうした話題もタブーとせず、近い将来、もっとほり下げていくべきかと思います」(田中氏)

ロードマップ「人工知能(AI)と気候緩和」(ドラフト版)
ロードマップ「人工知能(AI)と気候緩和」(ドラフト版)

また、ステートメントの発表に加え、『人工知能(AI)と気候変動緩和』に関するロードマップのドラフト(草案)も公開した。ICEFでは、二酸化炭素利用やDAC(二酸化炭素の直接空気回収)、産業用途熱の脱炭素化、バイオマス炭素除去・貯蔵(BiCRS)、炭素鉱物化、低炭素アンモニア、ブルーカーボンといった長期的な視点でネット・ゼロをけん引することが期待される技術に関するロードマップを2015年から作成している。

今回の『人口知能(AI)と気候変動緩和』ロードマップは、ICEFでの12本目のロードマップとなる。同ロードマップは、近年さまざまな分野で活用され、注目を集めている人口知能(AI)を取り上げ、AIがネット・ゼロ排出削減に役立つ可能性を検討。温室効果ガス排出モニタリング、電力系統インフラ、製造業、材料開発、フードシステム、輸送などにおけるAIの可能性を探る。加えて、セキュリティや電力消費の問題など、AI活用にともなう障壁や課題についても検討し、AIが気候変動緩和へ貢献するための道筋を提示している。

同ロードマップの草案については、パブリックコメントを募り、コメントの反映及び修正を経て、アラブ首長国連邦で開催されるCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)で正式に発表する予定だ。

閉会の挨拶では、NEDO理事長の斎藤 保氏が「ICEFの主催者として気候変動問題における『緊急性の認識』と『実行の加速化』という2つのメッセージを申し上げます。ICEFはハイレベルの産学官の意思決定者が一堂に会する場であり、それは単なる議論のためのプラットフォームではなく、具体的な実行を加速させるためのプラットフォームです。我々に今必要なのは、目標やゴールを口にすることではなく、様々な政策、プロジェクトを具体的なアクションに移すことです」と話した。

ICEFでは今後も、最先端の知見を世界に発信し、気候変動の脅威に対する人々の意識を高め、行動変容を促進していく。

ICEF2023は、公式サイトでアーカイブ視聴が公開されている。
https://www.youtube.com/channel/UC7ouNL9NbvDomDTfiubi8iw

 

ICEF事務局 問い合わせ先ICEF事務局 問い合わせ先
email:icef2023-cs@icef.go.jp

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