未来にある普通のことへの挑戦

多様なステークホルダーとの連携・共創で 道路舗装業界の脱炭素化を推進

  • 印刷
  • 共有

1918年に創業し、アスファルトプラントメーカーとして半世紀を超える歴史を持つ田中鉃工。気候変動や環境問題への対応が企業経営において重要性を増す中、道路舗装業界のカーボンニュートラルの実現へ向け、業界全体への働きかけはもちろん、地域とともに脱炭素化に取り組む。同社CEO・村田満和氏に、脱炭素化へ向けた業界の現状と課題、同社の描くビジョンを聞く。

ダウンロード資料イメージ
▲資料がダウンロードできます

重油に代わる「廃食油」という選択肢

国土交通省の試算によると、道路整備分野全体の年間CO2排出量は約1280万トン。そのうち、アスファルト製造・アスファルト合材製造に関わるCO2は540万トンで、全体の42%を占めている。さらに、アスファルト合材工場から排出されるScope1・2のCO2排出の8割が、材料を加熱する際の化石燃料からである。

「道路整備分野のCO2排出を減らす大きなポイントとなるのは、省エネと代替燃料への転換。それがカーボンニュートラルを進める第1フェーズになると考えています」と村田CEO。

道路舗装分野のCO2排出量の構造は、EUでも同じだ。脱炭素化への取り組みが先行するEUでは、燃料転換や中温化、長寿命化技術を生かした社会実装が進んでいる。

「工場の脱炭素化については、『水素やe-メタンが社会実装できるまでは代替燃料がない』といった発想になりがちですが、多様なサプライチェーンを巻き込んで、今できることに取り組んでいくことが重要です」

田中鉃工では、「気候変動に対するひとつの答え」として、地域で使用された廃食油をバイオ燃料としてアスファルト合材製造時に使用し、地域の道路や歩道に 還 元 する『Roa(d)calSDGs Project(ロードカルSDGsプロジェクト)』を展開している。

Roa(d)calは、〈road=道〉と〈local=地域〉を掛け合わせた造語。2024年4月に長崎県大村市でのプロジェクトスタートを皮切りに、北海道小樽市や佐賀県多久市など全国へ広がりつつある。

廃食油の活用は、その地域で発生する資源をエネルギーとして活用する「地産地消」の取り組みであり、循環型社会の実現に貢献する取り組みだ。併せて、SOx・NOx・CO2の排出削減を通じて、気候変動対策や地球環境の保全にも寄与することが期待されている。

「循環型社会 、自然共生・再生にも貢献しながら、カーボンニュートラルに向かっていくことを経営戦略の軸にして取り組んでいます」

アスファルト合材に関与するCO<sub>2</sub>排出割合表
ロゴ

自治体との連携にも注力

『Roa(d)cal SDGs Project』において主要なプレイヤーとなるのは、廃食油の回収拠点となる小売店(地域のスーパーマーケット・生協など)、回収した油を精製してバイオ燃料を作る油脂会社、そのバイオ燃料でアスファルト合材を作る地域の道路舗装会社の3者。さらに、廃食油をリサイクルに出す地域市民も巻き込んでの連携・共創プロジェクトとなる。

「これまでは当社が主体となりグリーンサプライチェーンを構築してプロジェクトを実施してきましたが、地域の状況や課題は自治体ごとで異なります。地域の課題感に寄り添ったプロジェクトを展開していくため、産官学民の連携による取り組みに力を入れています」

その代表的な事例として今年1月、田中鉃工、佐賀県多久市、廃食油リサイクルの全国団体である全国油脂事業協同組合連合会、その傘下組合である九州フードリサイクル事業協同組合の4者で、『多久市ゼロカーボンシティ 4者包括連携協定』を締結している。

多久市では、産業部門におけるCO2排出量約3万6,300トンのうち、アスファルト合材工場からの排出量が4,200トン(約11%)を占めている。田中鉃工から、『Roa(d)cal SDGs Project』を通じたゼロカーボンシティ実現を提案したところ、4者での包括協定を締結することになった。

「多久市では、廃食油の地域道路への還元だけでなく、油のトレーサビリティを実現し、廃食油の回収・再生・利活用までの履歴を可視化することで、CO2削減効果やエネルギーの地産地消への貢献を、市民やサプライチェーンの皆さまに実感いただくような取り組みを進めています」

プロジェクトの効果を可視化することで、市民やサプライチェーンの廃食油リサイクルに対する理解と意識を高め、行動変容につなげていく。

また、別の取り組みとしては佐賀県佐賀市への「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」を活用した支援がある。同社は今年4月18日、佐賀市が取り組む「持続可能な脱炭素・資源循環まちづくりプロジェクト」に対し、企業版ふるさと納税を活用した支援を実施した。

「廃棄物であったものがエネルギーや資源を生み出しながら循環するまち」を目指す佐賀市。その取り組みの1つとして、家庭から発生した廃食油を回収し、バイオディーゼル燃料として精製、市内のゴミ収集車や市営バスの燃料として活用している。「バイオマスを使ったゼロカーボンシティの実現」は、田中鉃工とも共通したテーマだという。同市では、今回の支援をもとに、市内の家庭系廃食油のリサイクルをさらに加速させていく予定だ。

廃食油の回収や再資源化を軸とした取り組みは、地域内の経済循環を生み出す点でも注目を集めている。自治体や地元企業との連携でエネルギー供給の一部を担うしくみは、地域のレジリエンス強化にも寄与し得る。単なる環境施策にとどまらず、「地域のインフラ」としての進化を感じさせる動きだ。

ゼロカーボンシティの実現に向けたスキーム図 (出所:田中鉃工)
ゼロカーボンシティの実現に向けたスキーム図 (出所:田中鉃工)

脱炭素で「持続可能」な事業モデルが必要

脱炭素や資源循環へ向けた取り組みを加速していくには、「〈制度とルール〉〈意識と行動変容〉〈技術とプロダクト〉の3つの要素を同時に回す必要がある」と村田CEO。

取り組みを持続的に行っていくには、「脱炭素を進めながら利益を創出する事業モデル」が必要だ。そのためには国の作る〈制度とルール〉が重要なカギとなる。

脱炭素に対して努力している企業としていない企業の不平等感がないカーボンニュートラル政策や、インセンティブ・グリーン購入などの制度設計。

「例えば、道路の8割は公共事業で、その多くが入札です。アスファルト合材の製造時に廃食油を使えば重油よりコストは上がりますが、CO2排出を削減することによる入札加点や設計単価への反映、バイオマス燃料補助金があれば、利益に直結するため、導入する企業は増えるでしょう。脱炭素や循環型社会の実現へ積極的に取り組む企業に対し、経済的メリットをいかに提供していくかが、重要なポイントになります」

国の補助制度や評価指標の整備は、企業の動きを「一過性の挑戦」で終わらせないためにも不可欠だ。行政、事業者、市民、それぞれの歩調がそろったときにこそ、取り組みは進んでいく。

「分ければ資源、混ぜればゴミ」といった〈意識と行動変容〉については、多様なメディアも活用しながら啓発していくと共に、小中学校へ向けたSDGs教育活動を行う。道路舗装業界全体のカーボンニュートラルを推し進めていく意味では、同社の脱炭素社会へ向けた取り組みを共有する講演会なども開催する。

また、2024年12月には、長い歴史を持つアスファルトプラントメーカーとして、GX加速化へ向けた先陣を切るべく、プラントや関連製品、機材に使用する鋼材のグリーンスチールへの転換も宣言。2028年3月までに同社のScope1・2のカーボンニュートラルを目指す。

スーパーに設置された「廃食油回収BOX」 (出所:田中鉃工)
スーパーに設置された「廃食油回収BOX」 (出所:田中鉃工)
同社に設置された「GXイノベーション研究所」 (出所:田中鉃工)
同社に設置された「GXイノベーション研究所」 (出所:田中鉃工)
同社に設置された「GXイノベーション研究所」 (出所:田中鉃工)
同社に設置された「GXイノベーション研究所」 (出所:田中鉃工)
同社に設置された「GXイノベーション研究所」 (出所:田中鉃工)

カーボンニュートラルからカーボンネガティブへ

〈技術とプロダクト〉における取り組みについては、今年4月に、同社技術棟内に新たに『GXイノベーション研究所』を開設。脱炭素社会の実現に貢献する次世代燃料や植物由来のアスファルト、ネガティブエミッション技術の研究・開発に注力していく。

アスファルト合材の製造に使うバイオ燃料については、廃食油のほか、汚泥に含まれるグリストラップ油に注目。

「現在、産官学連携で研究を進めており、ある程度めどが立ってきています。CO2を削減しながら利益構造も改善できるエネルギーとして期待しています」

また、ネガティブエミッション技術のBECCUS(Bioenergy with Carbon Capture, Utilization and Storage)をアスファルトプラントに導入することで、バイオマス燃料を燃焼する際に発生するCO2を回収・貯留・利用していくことも視野に入れる。

「回収したCO2をイチゴなどのビニールハウスに投入することで、光合成を盛んにして生産量を上げる。また、CO2を固定化した炭酸カルシウムを材料として利用するといった構想も描いています。これまでは、カーボンニュートラルを掲げてきましたが、将来的には道路舗装業界のカーボンネガティブを実現していきたいと考えています」

トップ自らコミットしGX領域に挑む脱炭素に積極的に取り組み、環境価値を高めていくことは、責務や使命であると同時に、企業としての競争力を高めていくことにもつながる。今後、国の制度やカーボンニュートラル政策が加速していけば、将来的に必ず企業価値(財務・ESG・インパクト)を高めることになるだろう。

「世界的な潮流やカーボンニュートラル政策によって、スピード感や流れは変わっていきますので、いつ、どのような手段に対して投資を行うかが重要となります」

自前主義、クローズドイノベーションで事業が成長してきた時代から、共創(CSV)・連携が必須の時代に入ってきている。

「カーボンニュートラル、適正な循環型社会、ネイチャーポジティブを目指していくには、単独ではなく、あらゆる企業、業界、多様なステークホルダーと連携していくことがマストです。GXという未開の領域に挑戦していくためには、大きなパラダイムシフトと、これまでの常識を度外視した施策が必要となっていきます。同じ目標を持った多くのステークホルダーと連携・共創し、脱炭素社会、循環型社会を実現していくために、トップ自らがコミットし、先導していくことが重要だと考えています」

2024年9月に実施した講演会の様子 (出所:田中鉃工)
2024年9月に実施した講演会の様子 (出所:田中鉃工)
田中鉃工株式会社 代表取締役CEO 村田 満和氏
田中鉃工株式会社 代表取締役CEO 村田 満和氏

会社名田中鉃工株式会社
TEL 0942-92-3121
〒841-0201
佐賀県三養郡基山町小倉629-7
https://tanaka-iron-works.com

この記事にリアクションして1ポイント!(※300ポイントで有料記事が1本読めます)