「電力先物取引」を活用したリスクヘッジという新しい燃料高騰対策

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昨年から続いている大手電力会社の電気料金値上げにより、燃料調達コストの上昇が止まらない。さらに、ロシアのウクライナ侵攻による地政学リスクの顕在化を引き金に、燃料の市場価格の変動幅が膨らみ、先行きの予測は一層不透明になっている。こうした中、画期的なエネルギーコスト削減方法として注目されているのが東京商品取引所(TOCOM)の「電力先物取引」だ。単なる省エネ省コストではない第二のエネルギー対策として脚光を浴びている「電力先物取引」について紹介する。

電力急騰を背景に様々な産業から関心が高まる「電力先物取引」

需要家、JEPX、電力会社の相関図
需要家、JEPX、電力会社の相関図

エネルギー価格の高騰により、産業界にとって、電力のコスト管理が極めて重要な経営課題になっている。そのような状況の中、先が読めない電力料金の変化による影響を吸収するために、新しいコスト管理の手法として「電力先物取引」が注目を集めている。

「(商品)先物取引」とは、原油や金など、将来の売買についてその時点の価格での購入を約束する取引のことだ。その時点では売買の価格や数量だけ約束し、約束の日が来た時点で取引を行う。「電力先物取引」はその取引対象の商品が「電力」のことを言う。画期的なところは、一般社団法人日本卸電力取引所(以下JEPX)の価格が取引の対象であるため、将来JEPXで購入する電力価格を予め固定しておくことができるところだ。基本的にスポットでの購入がメインのJEPXで、中・長期視点での購入が可能になったイメージだ。ちなみに「電力先物市場」では、現在東エリア・ベースロード、西エリア・ベースロード、東エリア・日中ロード、西エリア日中ロードの4商品が上場されている。

当初、電力先物市場に関心を持ったのは、売電市場に新規参入した新電力企業だった。電力価格は、燃料価格や気象状況の影響を受け大きく変動するため電力ビジネスを行う企業は思いがけない損失を被るリスクがある。そのため電力先物市場を活用し、事前に価格を固定することで、経営の安定化を図る意図で参加する新電力企業が多かった。しかし、最近の燃料価格高騰や地政学リスクの顕在化、世界的なインフレ傾向の強まりに伴って電力価格の変動幅が拡大する中、安定した電力の調達とコスト管理が求められる製造業などの需要家の間にも、電力先物取引を活用した電力調達方法がエネルギーコスト急騰対策としてにわかに注目が集まっている。

将来の電力コストを固定化し、経営の安定化と競争力強化目指す

株式会社東京商品取引所 総合業務室 上席企画役 小渕 大樹氏
株式会社東京商品取引所
総合業務室 上席企画役
小渕 大樹氏

では、製造業などの企業が「電力先物取引」を活用することによるメリットは何か。日本取引所グループ 東京商品取引所総合業務室の小渕 大樹上席企画役は「電力先物取引で、将来の電力コストを予め固定化することができることだと思う」と話す。それによって、電力価格の上昇・下落によって被るリスクをある程度コントロールし、経営の安定化を図ることができるという。

一例をあげると、2023年3月の時点でスポット価格は15円、先物の2023年9月限価格は20円だったとする。この時に、今後の価格上昇リスクをヘッジするために先物9月限を20円で買い付けたとする。その後、9月になった段階でスポット価格が30円に上昇した場合、電力の購入価格は30円になってしまうが、先物の利益が10円出ているため結果的に20円で購入できたことになる。逆に9月のスポット価格が10円に下落した場合は、この10円に先物の損金である10円を加算した20円が購入価格になる。このように、先物を利用することで、将来のスポット価格がいくらになろうが、現時点で購入価格を確定することが可能となる。

不確実性の高まる経営環境の中で、企業の経済活動に欠かせない電力のコストを、できるだけ正確に把握し、管理することができれば、企業の収益・費用の予測の精度を高めることが可能になる。そうなれば、開発投資など必要な予算を安定的に確保するなど経営戦略の精度も高まり、同業他社との競争の中で、優位に立つことができるだろう。

下記は、2023年7,8,9月限の東エリアベースロード価格の推移だが、10月以降、価格が下落しているのが見て取れる。昨年6月以降急激に電力の先物取引市場も高騰していたが、秋以降どんどん低下し以前の価格に戻りつつある。ピーク時の価格では先物取引を利用した価格ヘッジ(価格固定)は現実的な選択肢ではなかったが、最近の価格の下落で価格ヘッジも電力高騰対策の有力な選択肢の一つになっている。

2023年7,8,9月限 東エリアベースロードの価格推移
2023年7,8,9月限 東エリアベースロードの価格推移

このような理由から、歴史的なインフレが進む中で「電力先物取引」への関心は急速に高まっており、取引参加者数は国内電気事業者を中心に、海外電力トレーダー、金融機関などに拡大。2022年12月時点で21年1月比2.8倍増の160社に急増しているという。

電力スクールやマンスリーレポートなど「電力先物取引」の理解を深めるサービスが充実

確実にリスクヘッジしていくためには、ある程度経験や知識が必要なため、先物取引に一歩踏み出すことに迷っている企業も多い。そのような企業のために東京商品取引所では「電力スクール」を開催。スクールでは商品先物取引の基礎から電力先物取引の活用までを解説する。電力小売事業者やメーカーなどの大口需要家、エネルギービジネスに取り組んでいる企業の社員が勉強のために受講するケースもある。参加は無料で、一人参加やオンライン開催も可能だ。「取引所」が主催するスクールなので、取引への勧誘もなく、気軽に申し込むことができる。また、「まずは情報収集」という人たちに向けて「電力先物マンスリーレポート」も発行。電力先物に加え、JEPXの取引動向、電力需給、気候などの幅広い情報を網羅している。毎月、無料で配信(PDFメール)しており、約250社の電力会社を含む約1,200名が購読。また、定期的に無料のオンラインセミナーも開催している。

 

東京商品取引所 総合業務室営業担当東京商品取引所 総合業務室営業担当
Tel : 050-3377-7651
e-mail : deri-ow2@jpx.co.jp

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