旭酒造のサステナブルな酒造り 世界のDASSAI目指し、新たな挑戦へ

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最高級の純米大吟醸『獺祭』ブランドのみを造る旭酒造。その美味しさと品質は世界でも高い評価を受け、いまや売上の半分以上が海外から。休耕田を活用した酒米づくり、太陽光発電設備の導入、焼酎粕の再利用。サステナブルな酒造りで『獺祭』ブランドをさらなる高みへ。同社の取り組みを聞く。

『獺祭』ブランドをより強く発信

酒米として最高品質の山田錦を使った純米大吟醸『獺祭』ブランドのみを造る、酒造業界では稀な業態を取っている酒蔵・旭酒造。1973年をピークに売上が減少してきた日本酒業界において、1990年の『獺祭』発売以降、ひたすら“美味しさ”にこだわった酒を造り続け、2023年度は売上高195億円、蔵人(従業員)約210人に成長している。

国内だけでなく、世界でも高い評価を受けている『獺祭』ブランド。現在、世界30カ国以上に輸出されており、2023年には米・ニューヨークに新しい酒蔵もオープン。新ブランド『DASSAI BLUE』を立ち上げた。

そんな旭酒造は、2025年6月1日から株式会社『獺祭』(英語名:DASSAI Inc.)へ社名変更する。

「社名変更の構想は、世界へ輸出を始めた頃からありました。ニューヨークの酒蔵が稼働を開始し、出荷数量の約半分が海外となったところで、『獺祭』ブランドをシンプルに分かりやすく海外へ広めていくために社名変更を決めました」と、旭酒造・取締役製造部長の西田英隆氏。

NY酒蔵の新ブランド『DASSAI BLUE』の売上は2024年424万ドル(6.6億円)・販売量約11万リットル。ニューヨークとカリフォルニアを中心に徐々に販路を広げている。2025年は、フランス・パリで三ツ星を2つ持つヤニック・アレノ氏との共同出店や日本酒初のアカデミー賞協賛など、積極的に海外での取り組みを展開。日本の歴史と文化も含めた『DASSAI』のストーリーを世界へ広く発信し、新たな市場を開拓していく。

精米工場の屋根にオンサイトPPAを活用して太陽光を導入

工場の屋根上に設置した太陽光パネル(出所:第二電力)
工場の屋根上に設置した太陽光パネル(出所:第二電力)

気候変動への危機感が高まり、企業の環境への取り組みが世界的に重要視されている。持続可能性という意味ではもちろん、海外顧客の目線という意味でも環境配慮は欠かせないものとなっており、旭酒造でも取り組みを進めている。

2022年からは、山口県岩国市周東町にある本社蔵近辺の休耕田を活用し、酒米『山田錦』の栽培に取り組み、その米から酒を造る『獺祭農園』をスタートしている。

「2018年に西日本豪雨で蔵が水害にあったのが、取り組みのきっかけとなりました」

周東町では高齢化などの理由で休耕田が増え、棚田の石垣が崩れる、荒れ地になるなどの問題が発生していた。

「耕作放棄地が増えることで、田んぼの保水力が低下し、集中的な雨に耐えることができなかったのが、水害の一因です。米をたくさん使う酒蔵として、米を育む田んぼを再生することで、地域の景観保全や災害防止に貢献できればと考えています」

『獺祭農園』では地域の農家の協力得て、化学肥料を使わない〈自然農法〉を教わりながら、蔵人自身が米の栽培に挑んでいる。

獺祭農園(出所:旭酒造)
獺祭農園(出所:旭酒造)

日当たりの良い国道沿いの精米工場には新たに太陽光発電設備も導入した。酒造りは、低温で乾燥しており雑菌の少ない冬場に行うのが一般的だが、旭酒造では年間を通して製造を行っている。近年の夏の激しい暑さに、必要となるエネルギー量も増えているという。

「夏に酒を造るためには、冬の環境を人工的に作り出す必要があります。必然的に冷房や冷水製造にエネルギー(電力)を多く使います。ここをカーボンフリーにするために、最初に取り組めることとして、太陽光発電設備を設置しました」

今回導入したのは、国内太陽電池メーカー長州産業(本社:山口県山陽小野田市)のグループ会社である第二電力の第三者所有モデル『オンサイトPPA』。初期投資不要で太陽光発電設備の電力を利用できることが特長だ。仕組みの説明の明確さと、地域に根差した事業者だというのが、第二電力を選択した理由。

従業員をはじめ対外的に取り組みを発信するため、太陽光発電の電力量について、本社蔵の直営店での掲示を開始している。

取材時に表示されていたリアルタイムの発電状況
取材時に表示されていたリアルタイムの発電状況

美味しい酒造りの副産物を活用

環境への配慮という意味では、消費電力のほか、製造工程で出てくる大量の食品残渣の有効活用が大きな課題。2024年5月には、ユーグレナ社(本社:東京都)と共同で、獺祭焼酎粕を再利用したサプリメント『bioDays 獺祭』を開発、発売を開始した。

日本酒造りの副産物として出る酒粕は、現状、その多くが廃棄されている。旭酒造では15年前から、日本酒『獺祭』の酒粕を原材料として蒸留した『獺祭焼酎』を製造。さらに『獺祭焼酎』で酒粕を蒸留した後に残る焼酎粕も、牛等の飼料原料として活用するなど、無駄なく使いきるための工夫を重ねてきた。今回は、ユーグレナ社とのサステナブルな取り組みの第1弾として、『獺祭焼酎』で出る焼酎粕と石垣島ユーグレナで育てたユーグレナ麹(ミドリ麹)を掛け合わせたサプリメントを共同開発した。今後は、酒粕を活用したメタン発酵による発電なども考えていくという。

「ただ酔えばいいというのではなく、心底“美味しい”と思ってもらえる酒を造ることが、我々の大前提。その延長線上で出てきた副産物を活用して新たな商品の製造や、残渣のエネルギー転換ができれば、美味しい酒を造ることに集中しながら、新たな価値を生み出していけると考えています」

ニューヨークの酒蔵が稼働し、今後は、より広く世界へ打って出ていく。

「旭酒造の成功の理由を述べるとするならば、小さな商圏に留まらず大きな市場に早くから打って出たことにあります。同じように、今後は世界に市場を求めて出ていく。『獺祭』ブランドを、ワインと同じ土俵に立てるところまで高めていきたいと思っています」

環境への取り組みでは、今後も太陽光をはじめ、ボイラーの廃熱や温水など、エネルギーを再利用するような酒蔵の建設を目指していく。

「これまで、酒を造ることだけにエネルギーを注いできましたが、スタッフも増え、環境への知識や技能を持つ人材も増えてきています。そうした人材を活用し、環境に配慮した酒蔵を目指していきたいと思います」

旭酒造・取締役製造部長 西田 英隆 氏
旭酒造・取締役製造部長 西田 英隆 氏

第二電力

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