丸紅のバイオ炭、農業の課題解決と脱炭素化を促進

  • 印刷
  • 共有

丸紅のアグリインプット事業部は、環境保全型農業を推進するにあたって「バイオ炭」に着目している。一次産業の課題である未利用資源の活用と、アグリビジネスの脱炭素化の両立に役立つバイオ炭の取り組みについて、アグリインプット事業部の荒木 岳志氏と中村 領氏に話を聞いた。

アグリインプット事業部 アグリインプット事業開発課 マネージャー 荒木 岳志氏、アグリインプット事業部 アグリインプット事業開発課 中村 領氏
(左)アグリインプット事業部 アグリインプット事業開発課 課長 荒木 岳志氏
(右)アグリインプット事業部 アグリインプット事業開発課 中村 領氏

アグリビジネスの脱炭素化 農業における喫緊の課題

全社を挙げて、脱炭素や循環経済につながるグリーン事業を強化し「グリーンのトップランナー」を目指す丸紅。同社のアグリインプット事業部は、大規模農園から家族経営の農家に至るまで、あらゆる農家に必要な種や肥料など農業資材の販売や関連サービスの提供など農業生産者に対するトータルソリューションプロバイダーを目指す。その中で環境保全型農業の推進を通じて、アグリビジネスの脱炭素化に取り組んでいる。

環境にやさしいイメージの農業だが、土壌を耕すことで地中のCO2を大気中に放出するなど、温暖化を進行させる側面もあると指摘される。環境保全型農業を推進してアグリビジネスを脱炭素化することは、農業における喫緊の課題だ。その解決に向けて、同事業部は「バイオ炭」が現時点ではもっとも有効かつ現実的な方法だと捉えている。

農地に撒く前のバイオ炭(左)と山形県の果樹園での施用イメージ
農地に撒く前のバイオ炭(左)と山形県の果樹園での施用イメージ

CO2固定に役立つバイオ炭炭素除去による高い環境価値

バイオ炭とは、動植物などの生物資源(バイオマス)を加熱して炭化したもので、バーベキュー用の炭もバイオ炭の一つだ。もみ殻や果樹の剪定枝、家畜の排せつ物などもバイオ炭にできる。炭は、古くは土壌改良剤として使われていた。無数の微細な穴がある多孔質という構造から、炭を土壌に混ぜると水はけをよくしたり、肥料を長く留めたりするメリットがある。「それに加えて近年は、大気中のCO2を地中に固定することによる環境価値が注目されています」と、アグリインプット事業部の中村氏は話す。

植物が光合成で吸収したCO2は、炭化によって固定すれば大気中への排出が抑制できる。このようにバイオ炭による環境価値は、大気中のCO2を取り除く炭素除去によって生み出される。これに対して、再生可能エネルギーや省エネルギーの環境価値はCO2排出量の削減によるもので、すでに排出されたCO2を取り除くものではない。「IPCCの第6次評価報告書では、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるにはCO2除去を加速することが必要だと結論しています。その方法の一つがバイオ炭であり、より高い環境価値をもつと考えています」と中村氏は強調する。経済産業省は、バイオ炭による炭素固定効果をCO2除去に役立つネガティブエミッション技術と位置付けている。

自然炭素循環の模式図とバイオ炭貯留の機能(出典:一般社団法人クルベジ協会)
自然炭素循環の模式図とバイオ炭貯留の機能(出典:一般社団法人クルベジ協会)
▲画像をクリックすると拡大します▲

肥料価格の高騰が農家に打撃 国内の資源循環で農業経営を改善

炭が土壌改良剤になることは古くから知られてきたが、現在、農業でバイオ炭を使うことは少ない。一般的な農作物栽培においては、コストや使いやすさの観点から、化学肥料が主流だ。しかし、化学肥料の大半は輸入されており、近年の不安定な世界情勢から価格が数倍に高騰しているという。「ただでさえ農業を辞める離農が問題視される中、肥料価格の高騰は農業経営をさらに圧迫します。そこで、古くからあるバイオ炭によって国内の資源循環を実現し、農業経営を改善するとともにアグリビジネスを脱炭素化したいと考えたのです」と、同事業部の荒木氏はバイオ炭に着目したきっかけを話す。

こうした背景から、同社は、バイオ炭の原料や作り方に関して特別な制限を設けず、地域で発生するさまざまな未利用バイオマスを有効活用することを重視している。例えば、米の生産が盛んな東北地域ではもみ殻、果樹の栽培が多い山梨県では果樹の剪定枝といったバイオマスが発生するが、多くは未利用のまま処分されている。廃棄のコストや手間が農業経営の課題とされることも多い。「バイオ炭の原料は、地域の課題やお困りごとによってさまざまです。炭化する技術は比較的シンプルで、適切な方法を選べばさまざまなものをバイオ炭にできます。未利用バイオマスを有効活用する一つの方法として、一次産業に従事する方にバイオ炭を取り入れてもらいたい」と中村氏は力を込める。

「廃棄物系バイオマス」や「未利用系バイオマス」に課題を抱える地方自治体は多い
「廃棄物系バイオマス」や「未利用系バイオマス」に課題を抱える地方自治体は多い

燃料や路盤材、水処理材にも 幅広いバイオ炭の活用用途

バイオ炭は、農業や林業など一次産業における課題の解決方法として期待されるが、用途は農業分野だけに限らない。土壌改良剤としての農業資材のほか、燃料、セメントに混ぜて道路を舗装する路盤材、多孔質で重金属を吸着する水処理材などとしても活用できる。

同社のフォレストプロダクツ本部のインドネシア植林事業でも、パルプ工場残渣や植林残渣などのバイオ炭化も検討している。また、同社が販売する食品廃棄物をアップサイクルした食器「edish(エディッシュ)」についても、使用後にバイオ炭化して農地に戻すという循環を実現しているという。「農業分野にとどまらず、脱炭素につながるバイオ炭の用途を柔軟に広げていく考えです。バイオ炭の普及に役立つ農林水産省の環境保全型農業直接交付金(※)についても、より多くの方に知ってもらいたいと考えています」(中村氏)。

(※)平成23年度から化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動を支援している。

バイオ炭をクレジット化 ブランド価値の向上に効果的

バイオ炭によるCO2除去量は、J-クレジットとして売買することが可能だ。同社は2022年8月、バイオ炭を農地に施用することによるJ-クレジットの販売に関して、日本で初めて一般社団法人日本クルベジ協会と独占販売権を結んだ。企業や自治体に向けたJ-クレジットの販売にも注力している。

バイオ炭の環境価値はCO2削減の価値より高く評価されることから、脱炭素への貢献をより強く訴求し、ビジネスの差別化を図るうえでバイオ炭の活用は効果的だと中村氏は強調する。1t-CO2ごとにクレジットが創出された地域を指定して購入することもできる。「農家と関係の深いクレジットなので、活用すれば地域貢献にもつながり、間接的に農業を応援することもできます。地域の一次産業を元気にしたいと考える企業や自治体にぜひ活用してほしい」と中村氏は意気込みを見せる。

画像名
オフセット手法による分類
▲画像をクリックすると拡大します▲

 

丸紅株式会社丸紅株式会社
〒100-8088 東京都千代田区大手町一丁目4番2号
アグリインプット事業部 アグリインプット事業開発課
担当:中村 領
Tel:03-3282-7417
Mail:nakamura-r@jpn.marubeni.com

この記事にリアクションして1ポイント!(※300ポイントで有料記事が1本読めます)