渋沢栄一の精神を継ぎ、持続可能社会で活躍する人材育成を目指すeco検定

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複雑化・多様化する環境問題に関する知識を幅広く体系的に身に付けられる「eco検定」は、渋沢栄一を初代会頭とする東京商工会議所が、京都議定書発効の翌年となる2006年に開始した検定試験。〈環境教育の入門編〉として多種多様な業種・職種のビジネスパーソン、企業、大学などで活用が進んでいる。同検定試験の特徴や目的、今後の展望について聞いた。

持続可能な社会の実現に向け産業人材を育成する

環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の実現に向け、環境に関する幅広い知識を身に付け、環境問題に積極的に取り組む「人づくり」を目的に創設された「eco検定(環境社会検定試験)®」(※)。2006年の開始以来、62万人が受験し、37万人を超える「エコピープル」(同検定試験合格者)が誕生している(2023年12月現在)。

2024年7月に新紙幣が発行され、新1万円札の肖像に渋沢栄一が採用されたことは記憶に新しいが、「eco検定」を主催する東京商工会議所は、その渋沢栄一が1878年に創立。「民の繁栄が、国の繁栄につながる」という精神のもと、商工業の発展と社会一般の福祉の増進を目的に、産業人材の育成にも取り組んできた。

同所では、現在5つの検定試験を主催しているが、「eco検定」もそのうちの1つ。京都議定書発効の翌年、ビジネスの現場で環境配慮が求められる中、そうした知識を体系的に学べるツールを幅広い企業へ提供することを目的にスタートした。

「今でいうSDGsやESGは、創立者の渋沢栄一が当時から唱えていた『道徳経済合一説』と重なるところがあります。企業の目的が利潤の追求にあるとしても、その根底には道徳が必要。経済成長とサステナビリティの両立を実現する人材育成を目指す『eco検定』は、その理念を体現するものだと言えます」と、東京商工会議所・検定センターの担当者は話す。

近年、世界的な環境意識の高まりに伴い、「eco検定」を導入する企業や大学などの教育機関は増加しており、3,500を超える企業・団体が活用。大学や専門学校、高校などで、公式テキストが授業で使用されるケースもある。

東京商工会議所の創立者であり初代会頭の渋沢栄一(所蔵:東京商工会議所)
東京商工会議所の創立者であり初代会頭の渋沢栄一(所蔵:東京商工会議所)

社員の「自分ごと化」と社外への「見える化」を

製造業をはじめ、建設業、小売業、情報通信業まで、「eco検定」は多種多様な業界で活用されている。「〈環境〉自体が、業界に関係なく誰もが身に付けておくべきベーシックな 知識ということもあり、一部分を深掘りするのではなく、歴史的背景から直近のトピックまでを網羅的、かつ体系的に学べるのが『eco検定』の特徴です。業種・職種、企業規模の大小に関係なく、現代のビジネスシーンで活かせる環境基礎知識を学べるコンテンツとなっています」

導入企業の目的の1つは、環境経営や脱炭素の推進へ向けた社員および社内の環境意識の向上や企業風土の醸成。「eco検定」を通して学ぶことで、社員1人ひとりにとって環境問題が「自分ごと」となり、会社全体の環境意識の底上げにつながっていく。

一方で、社外へ向けては、環境への取り組みを「見える化」しアピールする武器にも成り得る。「eco検定」へ取り組んでいること、および受験者数や合格者数などの数値化しやすい部分を環境報告書やCSRレポート、統合報告書などへ記載したり、環境項目のKPIとし て設定したりする企業も増えている。

さらには採用面のアピール強化といった側面も期待できるという。いわゆるZ世代は「環境ネイティブ」と言われ、就職などで会社を選ぶ際に「SDGsや環境配慮に対応している企業」を望む傾向があるとする調査もある。「社員全員が環境知識を身に付けている、またその機会が提供される企業であるということは、次の世代に選ばれるための重要な要素のひとつになると思います」

多くの団体に受験してもらうため、ハードルはできる限り低く

企業での導入については、社員や講師の日程調整を行う必要のある通常の研修制度よりハードルは低いと言える。「『eco検定』は検定試験ですので、受験者自身で学習を進めるのが基本。試験範囲となる公式テキストを配布するだけでよく、導入にかかるコストや労力を最小限に抑えられることが各企業の担当者にとっても魅力になっていると思います」

また、試験はオンライン形式で行われ、夏と冬の年2回、各2週間ほどの期間中に各自都合のつく時間帯で受験することができる。企業単位で受験する場合には「団体申込」を行うことで、社員の申込状況や試験結果を担当者が確認できる機能も提供し、管理を簡易化。3名以上から団体扱いで申し込めるため、部署ごとのスモールスタートも可能だ。

合格はゴールではなく通過点 その後の行動を促したい

環境を取り巻く制度や状況は目まぐるしく変わっている。常に新しい情報へ入れ替えていく必要があるため、「eco検定」の公式テキストは2年に1度を目安に更新している。「これだけ多くの情報が網羅されているテキストで、頻度高く更新されているものはあまりないと、大学教授や環境関連の専門家からも評価をいただいています。一度合格して終わりではなく、定期的に再受験していただくことで、最新の知識・情報へのアップデートに役立てていただきたいと思います」

また、「eco検定」のゴールは「知識を暗記すること」でも「合格点を取ること」でもなく、合格した後に、得た知識を実際のビジネスや生活の場でアクションに移していくこと。「当たり前ですが、合格者が増えることは、知識を持った人材が増えること。その1人ひとりが各企業・団体で活躍するビジネスパーソンとして、環境に配慮した取り組みを実践に移していくことが理想です。〈エコピープル〉が企業・団体のエコアクションを促進し、社会全体に広がっていくことで『持続可能な社会』の実現に近づくと考えています。そのためにも『eco検定』が環境教育のスタンダードとして広く活用され、その一助となれば嬉しいです」

※eco検定(環境社会検定試験)は東京商工会議所の登録商標です。

eco検定試験要項2023年度試験結果

東京商工会議所 検定センター
電話:03-3283-7666
URL:https://kentei.tokyocci.or.jp/eco/

eco検定

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