世界的計測メーカーVaisala、日本初のイベントを開催、脱炭素向けの革新的CO2計測製品等を発表
Vaisala(ヴァイサラ、フィンランドにて1936年に創業)は、日本を含む世界17カ国に24拠点を展開する、気象・環境観測および産業計測分野の世界的なリーディングカンパニー。その日本法人であるヴァイサラ(1983年創業)は、10月31日~11月1日にかけて、社内外の計測関連技術の最新動向を紹介するプライベートイベント「VAISALA EXPERIENCE DAYS 2024」を品川シーズンテラスカンファレンスにて国内初開催、延べ数百人が来場。企業の脱炭素活動を促進する最新のCO2計測技術や、局所的な気象予測を支援するデータをサブスクで提供する最新ビジネス『Xweather』等を発表した。

気候変動に対し最も影響力のある企業に
2日間にわたり開催された「VAISALA EXPERIENCE DAYS 2024/地球の未来をともに創る、計測技術」だが、第1日目はヴァイサラが掲げるビジョンや戦略を中心に講演が行われた。講演の中で同社は、近年ゲリラ豪雨による甚大な水害、巨大化する台風やハリケーン、干ばつや熱波による農業被害、止まらぬ海面上昇、各国で発生する広大な森林火災など、気候変動の影響はいよいよ現実味を帯び、その対応が世界中で喫緊の課題となっていると危機感を訴えた。

世界最大の気象観測関連企業の1社として世界中の気象予測を支えながら、90年近くにわたり計測技術の革新を継続してきたヴァイサラは、この深刻な状況において自社の使命をより明確化すべく、2024年2月に新たなパーパス“Taking every measure for the planet/この地球のためにあらゆる計測/手段を実行する”を策定。その事業活動は、世界3000社以上を対象とするTIME誌「World's Best Companies in Sustainable Growth 2025」調査にて、エンジニアリング&製造業部門の世界第2位、総合では第38位に評価されている。
ヴァイサラ 代表取締役の高橋 宏行氏はオープニングの挨拶で、「このパーパスには、より積極的に脱炭素に取り組み、気候変動に対し最も影響力のある企業の1つになるという、強いメッセージを込めました」と力強く語った。

気候変動の要因となる温室効果ガス。その約80%がCO2となっており、その排出量削減、脱炭素への動きが世界的に加速している。EUでは2030年までにCO2排出量を55%削減することを目指し、日本や中国は2050年までのネットゼロを目標に設定している。この世界的な動向に対して、同社の産業計測部門のエグゼクティブ・バイス・プレジデントであるサンプサ・ラハティネン氏は「脱炭素の実現へ向けては、エネルギー転換を含む様々な施策、テクノロジーを同時進行で投入していく必要があるが、その1つにCO2の分離回収、貯留、2次利用といったCCU、CCUSの取り組みがある」と語る。
長期的な2050年の目標では、世界のエネルギー生産量の半分を非化石燃料とし、CO2排出の5%をCCS、CCUSで回収していく予想となっており、2040年から2050年までに、EUと米国のそれぞれが2億t以上のCO2を回収する見込みとなっている。
効果的なCCS、CCUSを行うには、実証試験のスケールからフルスケールの実運用プラントへと拡大し、稼働率を大幅に上げる事で経済性を上げる必要がある。そのためには工場等、現場で発生したCO2を正確に測定、把握する必要があり、今後の企業経営においては排出するCO2を正しく計測するという行為は必要不可欠になってくるだろう。カーボンクレジットの取引においても、追跡可能で信頼性の高いCO2測定を実施し、透明性を確保することが当然ながら要求される。
「CCU、CCUSをしっかりと実行していくことが日本をはじめ、世界の大きな課題となっています。ヴァイサラの数値化、計測技術を用いて、CO2分離回収をいかに実用化にもっていくか。脱炭素のはじめの一歩は正しく数値化すること。そして、正しく目標設定をし、正しく実行していく、これが重要になっていくかと思います」(サンプサ・ラハティネン氏)

プロセス内のCO2計測に最もスマートなソリューション
第2日目は、電力、ライフサイエンス、脱炭素、各種成長市場という4つのセミナーセッションを通じ、計測機器市場の主要動向およびヴァイサラの最新技術、取り組みなどを紹介。脱炭素のセッションでは、多くの企業にとって喫緊の課題であるCO2排出量の計測において有効な手段となる新製品『MGP241』を発表。同製品は、排気塔などの厳しい環境下においてもCO2と水蒸気を同時に計測することができるという。
同製品および関連事業の責任者であるアンティ・ヘイッキラ氏は「CO2を極めて高精度で計測でき、CO2分離回収のために最適なカタチでデザインされています。コンパクトな筐体で排気ガスなどを直接プロセス内に設置でき、気体の乾燥や現在の一般的な方式に求められるサンプリングの作業や仕組みも不要でメンテナンスの手間も削減。事実上、プロセス内のCO2計測を行う上で最もスマートなソリューションと言えます」と語る。高い応答性を持ち、高速計測サイクルは数秒で完了、プロセス制御と監視のためのリアルタイム直接計測を実現。CO2の計測値はウエットベース値でもドライベース値でも表示でき、コンパクトなプラグ&プレイ設計で、設置も劇的に簡単、最小の労力で既存設備や運用システムに統合でき、設置面積も最小限に抑えられるという。
ヴァイサラ独自のセンサ技術であるCARBOCAP CO2センサが、これらの価値を生み出す源泉だ。MGP241は、CO2回収から各種産業用途まで、最も過酷な環境でも優れた性能を安定的に発揮する。ガス流内にインライン設置で直接暴露したまま、10年以上耐久する堅牢な設計によって、従来一般的なサンプリング方式などの計測システムに比べ、購入価格、設備投資、メンテナンスを含むTCO(総所有コスト)を大幅に削減する。
「CO2分離回収については、今後、様々なベストプラクティスが増えていくと考えています。炭素回収においてヴァイサラでは、CO2回収(空気/プロセス)、CO2貯留(コンクリート硬化など)、CO2利用(メタネーション)の計測ソリューションを揃え、提供していきます」(アンティ・ヘイッキラ氏)

気候変動は、経済機会を産みだすメガトレンドの「母」
再び第1日目に話を戻す。ヴァイサラはSDGs達成率世界第1位であるフィンランドを代表する企業の1社であり、その事業戦略はサステナビリティと不可分だと言う。その統合的な役割を背負うのが、登壇者のひとりであるチーフ・サステナビリティ&ストラテジー・オフィサーのアンネ・ヤルカラ氏だ。
「私たちは、気候変動を人類が直面する最大の脅威だと考えています。しかし同時に、大きな経済的機会を生み出すいくつかのメガトレンドの「母」、「母体」でもあり、産業界が行動を起こすことで、そこには大きな明るい希望も含んでいるのです」(アンネ・ヤルカラ氏)

例えば、気候変動により迫られている「エネルギー転換と脱炭素化」というメガトレンドは、従来のエネルギーシステムを大きく変えながら、さまざまな産業のプロセスを見直す必要性を示している。
「1.5度の目標を達成するには、再エネの導入を3倍、4倍の速さで進めていく必要があります。これらの再エネを電力システムに組み込むためには、世界の送電網の総延長を倍にする必要があり、つまりインフラ構築には大規模な潜在需要があります。また、産業の脱炭素化においては、産業プロセスの効率を改善する必要があります。この取り組みは、エネルギーや原材料の消費の削減によって、CO2削減とコスト削減の両方を同時に実現することになります。ヴァイサラの計測機器は、こうした取り組みにも貢献しています」(アンネ・ヤルカラ氏)
また、アンネ・ヤルカラ氏はAIやデータの活用についても触れた。ヴァイサラは気候変動の取り組みに関し、「Pre-Post」の2つの視点を持つ。CO2分離回収のための計測ソリューションは「Pre」とする一方、「Post」として、長年にわたり蓄積された気象観測技術やデータ、経験を活かし、災害リスク軽減などに資する高精度な気象予測データを提供する『Xweather』事業を運営している。

「世界中で蓄積された気象データと自社の観測技術を活用した局所気象データを組み合わせたデータをサブスクリプションにて提供する非常にユニークな事業を開始しています。その名も『Xweather』。Xは予測不可能なファクターを象徴していますが、それらをいかに予測可能にするか、という挑戦です。Xweatherによって、ユーザはハイパーローカル、おそらく地球上で最も精度の高い局所気象データを入手することができます。すでに北米や欧州を中心に活用が進んでおり、今年から日本でもプロモーションを開始し、非常に良い感触を得られています」(高橋 宏行氏)
