廃食油を「道」というカタチで地域社会に還元し、カーボンニュートラルを実現する
2024年4月、田中鉃工が主導し立ち上げた、使用済み食用油を道路舗装に活用する「ロードカルSDGsプロジェクト」。テレビや新聞、雑誌とさまざまなメディアにも取り上げられるなど注目度は高い。取り組みの経緯や狙い、また今後の展望などを同社 代表取締役CEO 村田満和氏に話を聞いた。
■「廃食油」の利活用を軸に、脱炭素化を推進
田中鉃工は、1918年(大正7年)に福岡県久留米市で鍛造・製缶工場を設立した。創業当初は、炭鉱設備やゴム工業用機器の部品製作などを手がけていたが、1952年(昭和27年)にはアスファルトプラントを主とした建設機械の分野に進出し、現在は道路建設機械分野などを中心に事業を展開している。
同社の主力事業である「アスファルトプラント」は、道路を作る上で欠かせない製品であり、設計から製造、組み立て、メンテナンスまで全て自社で賄っている数少ない国内企業でもある。
これら事業を展開する中、同社では、脱炭素化に向けた取り組みを推進している。起点となっているのが、カーボンニュートラルの実現に向けての取り組みだ。「国内約1,000台のアスファルトプラントから排出されるCO2は現在、約140万トンとなっています。これを2030年までに、70万トン削減(カーボンハーフを実現)し、2050年までにゼロにするというのが弊社の目標です」(村田氏)
実現に向けては、省エネ化とともに、特に燃料転換が重要な鍵となる。アスファルト合材を製造する過程で、使用される燃料の約90%は重油が占める。
この重油を非化石燃料に転換していくことで、工場から排出されるCO2を削減していく。CO2フリーエネルギーは現在、水素やアンモニア、合成メタンなどさまざまなエネルギーがあるが、同社は、バイオマス燃料である廃食油(UCO)を最優先に特定した。
UCOが燃焼時に排出されるCO2は、原料の植物が生育時に光合成で吸収したCO2である。そのため、実質的なCO2排出量は限りなくゼロとなるという仕組みだ。
■「Roa(d)cal SDGs」プロジェクト始動
UCOは、食品工場やコンビニ・スーパーなどから排出される事業系と、家庭から排出される家庭系に分類されるが、同社が着目しているのは、家庭系UCOだ。同社によると、一般家庭系のUCOは現在、年間約10万トンくらい発生し、約96%(9万6,000トン)は未回収の状況だという。つまり4%(4,000トン)しか利活用されていない。
こうした中、同社は2024年4月26日、UCOを重油の代替燃料として利用する官民一体型プロジェクト『Roa(d)cal SDGs Project』(ロードカルSDGsプロジェクト)を発足し、長崎県大村市からスタートした。「以前から、カーボンニュートラル実現の鍵になるのは『ローカルSDGs』だと感じていました。地域の家庭や飲食店などから発生した廃食油を、地域でのアスファルト合材の製造に使用する重油の代替燃料として利活用し、その地域の誰もが利用する道路や歩道に還元する“地産地消”のスキームを構築します」(村田氏)
地域で消費されたものをリサイクルして、再び地域で消費する。まさに『地産地消型』サーキュラーエコノミーである。
■リサイクルによる社会貢献量の見える化を通じて、循環型社会への取組み拡大へ
取り組みの推進では、国内のUCOの約半数を取り扱う全国油脂事業協同組合連合会(UCO JAPAN)とのアライアンスなど、業界・エリアを問わず、さまざまなサプライチェーンとの協業を展開している。
また、現在は、全国で廃食油リサイクルを呼びかけるCMを放映中だ。北海道小樽市では、CMの前後半年間で家庭系UCOの回収量が約2倍(417ℓ⇒832ℓ)に増えたという報告が挙がるなど、市民のUCOリサイクルに対する関心度の高さを実感しているという。さらに同社はリサイクル全体の推進に向けて、廃食油のみならずトレーや牛乳パックなど、リサイクルによる社会貢献量(例えばCO2削減量)の見える化を、小売店や生協に提案している。
「市民が自分の取り組みにより、CO2がどのくらい削減できているのか、どのように社会貢献に役立っているのかなどを知ることで、市民のリサイクルに対する意識は大きく変わり、行動も変わることによって循環型社会が加速するドライバーになると思います。特にUCOについては、トレーサビリティやカーボンフットプリントが可視化できるサステナブルレポートの提供などを通じて、取り組みを拡大していきます」(村田氏)
■「制度設計と運用ルール」が、サーキュラーエコノミー実現の鍵を握る
循環型社会の実現に向けて、”制度とルール”・”意識と行動”・”技術とプロダクト”の3つの要素がそれぞれ具現化されることが必要であると、村田氏は指摘する。
「例えば現在UCOは廃棄物という前提で制度とルールが設計されていますが、廃棄物ではなく資源という前提で制度とルールを見直す必要があります。また、脱炭素や循環型社会の実現に向けて取り組んでいる企業や市民に経済的メリットを提供するために、どう設計してどう運用するかも重要な要素です。
省庁や行政と共創しながら効果的な仕組みづくりに着手していきたいと考えています。そうすることで”意識と行動”が変わり、”技術とプロダクト”も進化していき、循環型社会の加速につながります。”地域とともに循環型社会に貢献し、カーボンニュートラルを実現する”。このコーポレートメッセージを通して、”未来にある普通なこと”を1つでも多くステークホルダーと共創・共栄していきたいと思います」(村田氏)
田中鉃工株式会社
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