新しい価値を持ち、地域に愛される 次世代型データセンターの実現をめざす
情報通信技術の進展や生成AIの普及により、ICTサービスを支えるデジタルインフラとしての機能を担うデータセンターの需要が拡大している。高度化するニーズに応えるべく、NTTファシリティーズでは、高発熱化への対応とカーボンニュートラルへの貢献を同時に実現する、「次世代型データセンター」プロジェクトを進める。同社のめざす、未来のデータセンターの姿とは。
空冷から液冷へ 2030年へ向けプロジェクト推進
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進やクラウドサービスの拡大、生成AIの普及などを背景に、急速に増大するデータセンターの需要。膨大なデータの処理を求められるデータセンターの消費電力量が著しく増加する一方で、メガクラウドベンダーはデータセンターのカーボンニュートラルを掲げ、その実現へ向けた取り組みを進めている。
1992年の創立以来、多岐にわたる建築の企画・設計監理・コンストラクションマネジメント(CM)・維持管理などのエンジニアリングサービスを提供してきたNTTファシリティーズ。これまで20年以上にわたり、日本、北米、APACエリアの大規模データセンターの構築を手がけてきた。
2022年には、データセンターエンジニアリング事業本部を設置。営業から企画、設計、工事、空調機器や電力設備などの物品調達、またNTTグループ連携によるオペレーション、メンテナンスの実施まで、データセンターに特化した組織として一気通貫でサービスを提供する。
「世の中が脱炭素へシフトする中、巨大テック企業はそれぞれカーボンニュートラルを宣言しています。NTTグループとしても2040年をターゲットにめざしていますが、特にデータ使用量が膨大なデータセンターでは、どれだけ省エネできるかがポイントになってくると思います」と、データセンターエンジニアリング事業本部・設計エンジニアリング部長の齋藤貴之氏。
データ処理量が増大したデータセンターでは、高性能・高発熱なサーバーを効率的に冷却する仕組みが求められている。海外では、現在主流である空気で冷却する「空冷方式」に変わり、冷却液をサーバーに直接送り込んで冷却する「液冷方式」の普及が進んでいる。NTTファシリティーズでは2024年5月、全面的に「液冷方式」サーバーを採用し、消費電力を大幅に削減することでカーボンニュートラルへ貢献する、「次世代型データセンター」プロジェクトを開始すると発表。
「“空冷から液冷へ”というのが、データセンターの作り方としては大きな転換点となります。データセンター全体を液冷方式にするというのは、日本ではまだ実現していません。2030年頃までの実現を視野に、プロジェクトを進めていきたいと思います」(齋藤氏)
サーバー冷却用消費電力を約50%削減
現在、サーバー発熱の全てを液冷方式で冷却することは不可能なため、液冷と空冷を組み合わせることが想定される。同プロジェクトでは、データセンターに設置するサーバーを全て『液冷方式』サーバーにすることで、サーバー発熱量の約65%を液冷方式により冷却する(残り約35%は空冷方式)※。これにより、データセンター全体の約20%を占めるサーバー冷却用消費電力を約50%削減することができると試算する。
※発熱量の比率は一例でありサーバーにより異なる
「簡単に言えば、空気より水の方が熱を取りやすい。熱伝達の効率が水の方が圧倒的に大きいということをもとに、モデルプランを作っています。さらに、空気を送るファンより水を送るポンプの方が動力に使う電力量は圧倒的に少なく、冷媒を作る圧縮機なども必要ありません。空気から水へ冷却方法を変換することで、省エネへのアプローチがしやすくなります」と、設計エンジニアリング部・総括担当の向井太一氏。
サーバーを格納するデータホールは、液冷用のCDU(Cooling DistributionUnit)が設置される〈LCMR:LiquidCoolong Machine Room〉と、空冷を担う〈ACMR:Air Cooling MachineRoom〉を分けて配置。セキュリティを担保するとともに、各設備を混在させないことで十分な保守スペースを確保しメンテナンスの品質向上につなげ、サーバー増設時の拡張性も担保する。
「モデルプランでは、現行のデータホールの骨格を大きく変えることなく液冷化が可能な構成にしています。こうすることで、新設ではない既存のデータセンターに対し、一部フロアを液冷化するといったニーズにも応えます」(向井氏)
また、熱伝導率の高い銅管を用いたコイルを建物外周に張り巡らせることで、サーバーの熱で温まった冷却水を循環し外気による自然冷却を行う。建物周囲に水盤を取り入れることで、水盤からの気化熱で更に放熱を促進。冷却に必要な設備の消費電力量を低減し、冬季や中間季などの外気条件によってはコイルのみで冷却を完結することも可能だと見込んでいる。
地域に愛されるデータセンターに
NTTファシリティーズでは、液冷サーバーの導入で、サーバーを従来よりも高集積・高密度化できると予測。データホールの面積は約3分の1まで縮小できると試算しており、建築物全体のボリュームも低減でき、敷地の新たな利活用が可能と考える。
「様々な活用方法が考えられるが、新しくできたスペースを、オープンスペースとして地域住民に開放してはどうかというのが、データセンター事業者への我々の提案です」
データセンターは条件によっては住宅地の中に建設せざるを得ない場合もある。
「もちろん、設計の段階で地域環境には十分に配慮しますが、いかに地域に溶け込むか、地域に愛されるような建物にしていくかという発想は重要です」(齋藤氏)
モデルプランでは、周囲の水盤をはじめ、パブリックゾーンを配置し高いセキュリティを担保しつつ、地域と調和したデザインのデータセンターを構想している。
2024年5月のリリース以降、データセンター事業者からの引き合いは多い。NTTファシリティーズでは、各事業者のニーズをふまえつつ、技術的な検証、廃熱の利用方法の検討、さらなる省エネ性能向上などを進め、次世代型データセンター構想の早期実現へ向け、取り組みを進めていく。
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