建物だけじゃない? グリーンビルディングの環境価値と企業・地域が取り組む意義

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サステナブルな建物環境や地域コミュニティ環境の日本での推進を目指し、2013年に設立したグリーンビルディングジャパン(GBJ)。日本におけるLEED認証やWELL認証の普及・推進を進める。“グリーンビルディング”の定義、企業や地域で取り組むことの重要性について、GBJ共同代表理事の木下泰氏と柳瀬真紀氏に聞く。

建物ではなく生活環境そのもの “グリーンビルディング”

日本でまだほとんどグリーンやサステナビリティの議論がされていなかった当時、米国発の総合環境認証LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)をツールとし、日本のグリーンビルディング、すなわちサステナブルな建物環境や地域コミュニティ環境を推進するべく設立したGBJ。

LEEDを運営する米国グリーンビルディング協議会(U.S. Green Building Counsil)と密接な連携を取りながら活動を開始し、資料の日本語化、適用基準の技術的同等性提案をはじめ、シンポジウムや各種セミナー、データの提供などを行う。

「LEEDに加え、人の健康とウェルビーイングの観点から空間を評価するWELL認証なども取り込みながら、活動の範囲をサステナブル社会に関わるグローバル基準全般へと広げてきました」(木下氏)

そもそもグリーンビルディングとは、単に建物だけを指す言葉ではない。脱炭素やネットゼロの実現を目指しつつ将来世代にわたり持続可能な環境と生活の質の向上を目指した、健康で豊かな「Built Environment」(ビルト・エンバイロメント)の構築を意味する。

「LEEDやWELL認証を使って、立地選定から設計、建設、運用管理、保守メンテ、改修、解体、再利用まで、ライフサイクル全体を考えながら、自然資源効率やエネルギー効率が良く、人にとっても生態系にとっても健康で豊かな建築環境、ビルト・エンバイロメントを作っていく。そうした状態をグリーンビルディングと定義づけています」(柳瀬氏)

ビルト・エンバイロメントは、「建てられた環境」を意味し、建物だけでなく空間、街や都市、インフラなど人間が手を加えて作ったものは全て包含される。

「世界でグリーンビルディングが議論される時には、人間の作った文明そのものというくらい広い視野があるという認識を広めていきたいと思っています。人間は、人生の90%を建物環境の中で過ごします。そうした点において、環境性能だけでなくウェルビーイングも含めた暮らしやすさも、グリーンビルディングの中に含まれるというのが、世界的な潮流です」(木下氏)

グリーンビルディング化が企業価値向上に

企業においてグリーンビルディング化に取り組むことのメリットは大きい。

1つはブランド価値の向上。特にBtoCの企業にとって、サステナブルな取り組みへのステークホルダーの評価は非常に高い。次に世界的に高まるESG投資への対応。グリーンビルディングは投資家にとって、〈環境〉への取り組みを評価する重要な基準となる。さらに、エネルギー効率を向上することはコスト削減となり、ウェルビーイングの観点で従業員のモチベーションや満足度を上げることで生産性向上にも寄与する。コストが減って生産性が上がれば、結果として企業の競争力は上がる。

一方で、環境規制は今後ますます厳しくなっていく。グリーンビルディングへの取り組みは、新たな規制が発生することによる経営リスクに関するリスクマネジメントにも繋がる。

グリーンビルディングへの取り組みの第一歩は「立ち位置を知ること」(柳瀬氏)。エネルギーや水の使用量、廃棄物量、温室効果ガスの排出量、さらに室内環境の状態や従業員の満足度などを具体的に数値化した上で、検証可能な形で取り組んでいくことがポイントだ。

「やるべきことは組織マネジメントと一緒で、その対象が建物環境になるだけです。LEEDやWELLでは個別の問題点とその解決方法である様々なモジュールが提供されていて、100項目ほどから企業や組織に合わせて必要な項目を選び、KPIを設定し、可視化、スコアリング、フィードバックのPDCAを回していく。それほど特殊なことをしているわけではなく、やるべきことは、企業運営と変わりません」(木下氏)

国際イベントやグローバル企業の誘致にも

「グリーンビルディングの概念は単体の建物だけでなく、それらの点をつなげて面にしていくことで、一個のブロック、街区、コミュニティ、都市というところにまで広がります」(柳瀬氏)

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地域やコミュニティにおいてグリーンビルディングを進めることは、暮らしやすさを高めることに繋がる。エネルギー効率が良く、資源循環型で環境にも社会にも人にも配慮したまちづくりが、地域の経済を活性化しそのまち自身の競争力を高め、オリンピックをはじめとした国際イベントやグローバル企業の招致にも効いてくる。

2023年11月に誕生した『麻布台ヒルズ』を中心とする『虎ノ門・麻布台プロジェクト』は、“多様な都市機能を有する複合開発”“広場を中心にしたウオーカブルな街”“再エネによる電力供給”などが高く評価され、LEEDのエリア開発を対象としたカテゴリーにおいて、最高ランクのプラチナ予備認証を取得している。都市部の複合開発でのプラチナランク取得は、世界的にも稀な事例となっている。

「建物を建てるだけでなく、運用する人、使う人、周りに住む人、全てのステークホルダーで目標を共有し利害調整をしていくことが、グリーンビルディングの認証では必要です。非常に大変ですが、そのプロセスを経たものは確実にいいプロジェクトとなっています」(柳瀬氏)

グリーンビルディングが脱炭素化に果たす重要な役割

建物環境は世界の温室効果ガス排出量の約40%を占めており、グリーンビルディングの取り組みは、社会全体の脱炭素化に非常に重要な役割を果たす。

「人は人生の90%を建物環境、ビルト・エンバイロメントの中で過ごしているわけで、その脱炭素化が進めば、確実に地球全体の脱炭素化は進みます」(木下氏)

通常、ビルなら70~80年はもつ。つまり、2000年に建築されたビルは2050年にも当然、立ち続けている。2050年のカーボンニュートラルへ向けては、新築の建物だけでなく既存の建物の環境性能を上げ、グリーンビルディング化していくことも非常に重要だ。

「既存のテクノロジーからグリーンなテクノロジーに社会を変えていくには、極めて巨額な資金が必要です。現在、トランジションファイナンスが注目されていますが、グリーントランジションをサポートする産業や技術に優先して資金を付けていく仕組みを国が率先して作っていく必要があると思います。また、地域においては行政が音頭を取り、地域レベルのファイナンスの仕組みを整えていくことが重要です」(木下氏)

脱炭素は企業にとって経済的メリットであり、社会的責任でもある。そして、ビルト・エンバイロメントは地域において、未来のコミュニティの基盤となるものだ。

「グリーンビルディングを理解することも含め、様々なことを測定し、自分の立ち位置を知るところから始めていただきたいです」(柳瀬氏)

「GBJではデータもノウハウも提供していますので、グリーンビルディングに取り組む企業、自治体が今後も増えていってほしいと思います」(木下氏)

グリーンビルディングジャパン共同代表理事の木下泰氏(左)と柳瀬真紀氏(右)
グリーンビルディングジャパン共同代表理事の木下泰氏(左)と柳瀬真紀氏(右)
NTTファシリティーズ

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