新ビジネス成功のカギとなるか!?じわり広がるESG地域金融とは

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パリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)などを契機に、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した資金の流れ、すなわちESG金融が急速に広がりを見せている。そんな中、国内ではCSRだけでなく、本業・ビジネスの面から地域の中長期的成長を目指す「ESG地域金融」の好事例が増えてきている。ここでは、滋賀銀行による水質浄化技術を用いたフグの陸上養殖の先進事例とともに、滋賀銀行 取締役頭取 高橋 祥二郎氏と、環境省 総合環境政策統括官 中井 徳太郎氏の両氏に、ESG地域金融の展望を聞いた。

画期的なビジネスの実現、その後押しとなった地域金融機関

2016年に発効した「パリ協定」以降、国内においても、環境と地域活性化につながる新規ビジネスの実現を模索する中小企業が増えてきているようだ。

ウイルステージ社は滋賀県草津市にある企業だ。地域活性化や、環境に配慮したまちづくり等のコンサルティングを行う一方、優れた水質浄化技術を有し、これまでに京都・平等院鳳凰堂や鎌倉・円覚寺の池、皇居外苑濠での水質浄化の実績を持っていた。

同社は、この水質浄化技術を活かし事業としてさらに展開させるため、子会社であるアクアステージ社を設立し、新たな挑戦を開始した。フグの陸上養殖事業である。今後、海上養殖による水質汚濁の問題や水産資源保護の必要性から、陸上養殖へのニーズが拡大し、売上増が期待できるという将来性や収益性に加え、水の使用量を抑制することでコストを通常の3分の1にカットできること、また天候により水不足が発生した場合にも影響を受けにくいという事業性でも大きなメリットがあると見込む。

この取り組みは、周囲の環境負荷を軽減するとともに、「毒をもたないフグ」という画期的な生育方法の確立につながり、薬剤や抗生物質を使わない安全な食糧自給手段になるなど、琵琶湖における新産業や新たな特産品の創出という地域活性化に貢献するものであったが、その裏では、新規事業を支援した『ESG地域金融』が大きな後押しとなった。同じく滋賀に拠点を構える滋賀銀行が、ウイルステージ社とアクアステージ社を、ESG地域金融により支援したのだ。

図1

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長期的な視点に基づき地域活性化を支援するESG地域金融

滋賀銀行取締役頭取 高橋 祥二郎氏

滋賀銀行 取締役頭取
高橋 祥二郎氏

ESG地域金融は、資金面だけでなく、情報提供やコンサルティングといった事業に対するサポートが得られる場合もあるため、新規事業にチャレンジする企業に大きな力を与えてくれる。

滋賀銀行は、ウイルステージ社(新規技術の開発などを支援するため優遇金利での融資)と、アクアステージ社(「しが6次産業化ファンド」を通じた出資)に対して、SDGsの観点から投融資を実施した。

同行は、ESG地域金融のフロントランナーとして知られている。2017年には地方銀行の中でいち早く「SDGs宣言」を行い、SDGsに貢献する社会的課題解決型のビジネスを応援する取り組みを行うなど、短期的な利益だけでなく、長期に亘って地域活性化に貢献する企業に対する金融支援を行っている。

その背景には、従来通りの価値観では、人口減少が進む時代に対応できず、ビジネスが成り立たないという危機感があったという。

「滋賀県は全国では数少ない人口増加県でしたが、ついに人口減少がはじまり、いままでのような銀行主体の目線でなく、中長期的な社会基点による取り組みが必要だと考えました。

ただ、長年取り組んでいる環境経営でさえ、初めから素直に受け入れられたわけではありません。まずは行員全体に、そしてお客様にと、ESG地域金融によってどういうチャンスが生まれるのかということを繰り返し伝えていくことが重要だと考えています」(滋賀銀行 取締役頭取 高橋 祥二郎氏)。

また同行は、環境やSDGsの取り組みを、ただのボランティアとは考えていない。あくまでもESG地域金融につながるビジネスとして推し進めることが肝要であるという。

「私たちは、『お金の流れで地球環境を守る』という気概で環境金融を進めています。SDGsもあくまでもビジネスと捉えて本業で取り組むようにしています。フィランソロピー(社会貢献)だけでは事業の継続性が疑わしくなってしまいます。長期的なビジョンの中で、しっかりと収益を上げながら好循環させることが重要です」(高橋氏)。

滋賀には「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の『三方よし』という商道徳がある。「商いは、当事者が良いだけではいけない。社会が良くなることが大切であり、ひいてはそれが自分たちに還ってくる」というものだ。 今回の投融資は、まさに三方よしの好事例であろう。

社会的課題解決という共通テーマに対し、地域金融機関と地域企業がともに挑む。そのうえで、それぞれが適正な利益を上げ、地域が元気になる。ESG地域金融は、これからの地域経済が生き残るための重要な足がかりとなるであろう。

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