マスバランス方式

マスバランス方式とは、原料から製品への加工・流通工程において、バイオマス由来原料や再生資源原料などの特定の特性を持つ原料と化石燃料などの従来原料が混合される場合に、投入した特定原料の量に応じて、生産された製品の一部へその特性を帳簿上で割り当てる管理手法のこと。
物質収支方式やマスバランスアプローチとも呼ばれる。分別生産流通管理が技術的・経済的に困難な大規模連続生産プロセスにおいて、既存のインフラや製品品質を維持したまま、持続可能な素材への転換を段階的に進めるための制度的枠組みとして国際的に標準化されている。
国際規格における位置づけと物質収支管理の仕組み
サプライチェーンにおける加工流通過程の管理規格である国際規格「ISO 22095:2020(Chain of custody — General terminology and models)」において、マスバランス方式はチェーン・オブ・カストディ(CoC)管理モデルの1つとして明確に規定されている。さらに2026年1月には、個別要求事項およびコミュニケーション規律を定めた規格「ISO 22095-2:2026」が発行され、国際的な運用基準の標準化が進んでいる。
本手法では、同一の製造プラントや貯蔵タンクにバイオマス原料や廃プラスチックの油化原料と、石油由来の化石原料を一括投入・混合処理する。製造工程内で物理的に両者が均一に混ざり合って分離できなくなった状態であっても、投入した環境配慮型原料の物質収支(マスバランス)を厳密に計算・記録し、その投入量に相当する割合・数量を特定の製品群に対して「バイオマス由来100%」あるいは「再生材100%」といった環境価値としてクレジットのように集約して割り当てる。
- 化学品・プラスチック:ISCC PLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)やRSB認証に基づくバイオナフサ・再生油化原料の割当
- 林産物・木材・紙:FSC認証(FSCミックス)やPEFC認証における持続可能な森林資源の管理
- 油脂・農産物:RSPO認証(持続可能なパーム油)やフェアトレード認証原材料の流通管理
- 鉄鋼・金属:水素還元製鉄等の低炭素製造プロセス導入に伴う低炭素鋼材(グリーンスチール)の環境価値割当
産業界における導入メリットと実装動向
マスバランス方式の最大の利点は、環境配慮原料専用の受け入れタンクや別系統の重合・成形ラインを新設する分別管理(セグリゲーション方式)が不要な点にある。これにより事業者は、莫大な初期設備投資を回避しつつ、少量の脱炭素原料・再生原料からでも迅速にサプライチェーンへ投入できる。また、得られる製品は従来の化石原料由来品と物理的・化学的に同等の物性や純度を保つため、顧客側でも既存の成形加工条件や安全基準を一切変更せずに導入できる。
日本国内でも政策的な後押しが進んでおり、2021年1月に策定された「バイオプラスチック導入ロードマップ」において早期導入のための有効な手法として位置づけられたほか、2023年5月の「カーボンフットプリント(CFP)ガイドライン」でもGHG排出量算定における留意点が整理された。2026年7月には経済産業省が「再生プラスチックの利用計画の作成及び定期の報告に関するガイドライン」を策定し、第三者認証を前提としたマスバランス方式の取り扱いを明確化している。
社会実装の現場でも採用が拡大しており、例えばコンビニエンスストアのローソンがマスバランス方式のバイオ&リサイクル素材を用いたレジ袋を導入した事例では、廃食油由来のバイオマス特性とケミカルリサイクル技術による再生特性を帳簿上で割り当てることで、製品の物性を保ちながら環境配慮素材100%の表記を実現している。
実務担当者が留意すべき表示基準とグリーンウォッシュ対策
マスバランス方式の適用製品を市場へ供給する実務においては、エンドユーザーや調達先に対する適切な情報伝達が極めて重要な課題となる。マスバランス割当品は「物理的にその比率でバイオマスや再生材が含まれている」ことを意味しないため、単に「植物由来100%配合」や「再生プラスチック100%使用」などと物理的含有を誤認させる表示を行うと、景品表示法上の優良誤認やグリーンウォッシュと批判される法的・社会的リスクを抱えることになる。
2024年9月に環境省が策定した「プラスチック資源循環におけるマスバランス方式の活用に関する基本的な考え方」では、事業者が満たすべき指針として「①環境効果の把握」「②環境価値の適正な管理」「③適切な表示・コミュニケーション」の3要素が提示されている。製品表示やサステナビリティ報告においては、「マスバランス方式によりバイオマス/再生材の特性を割り当てた製品である」旨を注記・明記することが不可欠である。
さらに、自社の主張(クレイム)をサプライチェーン全体で正当化するためには、原料調達から中間加工、製品販売に至るすべての事業者がISCC PLUS等の第三者機関によるCoC認証を取得し、帳簿上の物質収支やインプット・アウトプットの整合性について定期的な監査を受ける体制構築が求められる。
参考
注目情報(PR)
この記事にリアクションして1ポイント!
(※KAIGI ID登録でポイントを貯められます)












