水素社会推進法(低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)

水素社会推進法とは、脱炭素化が困難な産業やエネルギー分野において「低炭素水素等」の供給および利用を早期に促進し、エネルギーの安定供給と脱炭素成長型経済構造(GX)への移行を両立させるために制定された法律である。正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(令和6年法律第37号)で、2024年5月に成立、同年10月23日に施行された。化石燃料との価格差支援や拠点整備支援などのファイナンス措置と規制緩和を組み合わせ、商用規模のサプライチェーン構築を国家規模で後押しする枠組みを定めている。
「低炭素水素等」の定義と炭素集約度基準
水素社会推進法では、単に水素を利用するだけでなく、製造から利用に至る環境負荷を重視している。対象となる「低炭素水素等」は、水素およびその化合物(アンモニア、合成メタン、合成燃料等)のうち、製造工程等に伴う温室効果ガス排出量(炭素集約度)が国の定める基準値以下であるものと規定されている。
設定された具体的な炭素集約度の基準値は以下の通りである。
- 水素:3.4 kg-CO2e/kg-H2以下(化石燃料改質水素比で約70%のGHG排出削減に相当し、G7合意などの国際基準に準拠)
- アンモニア:0.84 kg-CO2e/kg-NH3以下
事業認定と2大ファイナンス支援スキーム
本法の中核となる仕組みが、主務大臣による「低炭素水素等供給等事業計画」の認定制度である。低炭素水素等を製造・輸入する「供給事業者」と、発電や鉄鋼・化学などで消費する「利用事業者」が連携して計画を策定・申請し、認定を受けることで手厚い支援措置が適用される。
財源には「GX経済移行債」などが充てられ、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて主に以下の2つの助成金交付が行われる。
- 価格差に着目した支援(差額支援):既存の化石燃料(LNGや石炭等)と低炭素水素等との間にあるコスト差(パリティ価格差)について、原則15年間にわたり差額を補填する。
- 拠点整備支援:受入基地、貯蔵タンク、パイプラインといった大規模・共用インフラの詳細設計(FEED)および整備(EPC)に関わる投資費用を補助する。
規制の特例措置と事業環境の整備
大規模な水素・アンモニアインフラの整備を迅速化するため、法的な手続きの簡素化や特例措置が導入された。
具体的には、高圧ガス保安法に基づく完成検査・保安検査の手続き円滑化、港湾法に基づく港湾施設の一体的利用手続きの簡素化、道路法に基づくパイプライン敷設時の道路占用手続きの特例などが盛り込まれている。さらに、一定規模以上の供給事業者に対しては低炭素水素等の取扱比率向上に関する判断基準が設けられ、事業者の自主的な移行を促す仕組みも整えられた。
企業の調達・脱炭素投資における実務ポイント
本制度を活用して事業参画や燃料調達を検討する企業の実務担当者にとって、留意すべき点は供給側と利用側の一体的な連携である。事業計画の認定には、製造から供給、需要家のオフテイク(長期引取契約)までサプライチェーン全体が確立されていることが重視される。
また、価格差支援を受けるにあたっては、15年間の支援期間終了後も経済的に自立し、さらに10年間継続して供給・利用を行う義務(自立化コミットメント)が課される。加えて、原料採掘から輸送までのサプライチェーン排出量を厳格に算定・証明できるトレーサビリティ管理が必須となるため、長期的な事業性シミュレーションと認証体制の確保が求められる。
参考
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立
- 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC) ― 価格差に着目した支援 : 水素等
- 衆議院 ― 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(法規原文)
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