スーパーゼネコンが造った史上最も小さくて安い橋「アニマルパスウェイ」(3ページ目)

  • 印刷
  • 共有

アニマルパスウェイを世界へ

パスウェイへの誘導
付近に、樹上動物が好む樹種を植樹。巣箱を置いたり枝で誘導したりしてパスウェイの利用を促した。巣箱は企業の研修やボランティアの協力でつくられている。参加者延べ200名でつくられた合計1200個の巣箱が設置されている

2007年、「アニマルパスウェイ研究会」と市役所の担当者らが一緒になって、手作りでの作業が始まった。

「ボランティアでも組み立てられる単純なものを目指した」とポイントを語る清水建設の岩本氏。クレーンが入るのは最後に橋を吊り上げるときのみだ。

吊橋を固定するのは高さ9mの電柱。その周囲を樹皮で覆ってヤマネたちが登りやすいように工夫した。電柱を伝うように3方向から枝の道の導入路も設置。また、2台のビデオカメラを設置し、キープやまねミュージアムまで通信ケーブルを敷設、映像データを伝送し保存できるようにした。

リスやヤマネが通過
リスやヤマネが通過:映像ではヒメネズミ同士のけんかが映っていることも。樹上動物の生態調査としても貴重なデータとなっていくことが期待されている。(撮影:大竹公一氏)

建設後17日目にはヒメネズミが、翌日にはヤマネが通過した。それを確認した瞬間、「これまでの苦労も吹き飛んだ」と湊氏は感慨にふける。

以来、湊氏は世界にAPを広げるべく、イギリスで行われた国際ヤマネ学会で発表、メディアを通じて積極的にPRしてきた。そうした活動が奏功し、2009年からはNTT東日本も参加することに。電柱工事におけるノウハウや工事車両の提供による協働が可能になり、高所作業が容易になった。さらに、モニタリングによる24時間監視について、NTT光ケーブルによるICT技術を活用し、することが可能だ。

COP10が開催される今年は、飛躍のチャンスだ。

「今後全国に普及させていくためには、たとえば、道路建設時にAPを条件化するといった国の仕組みも必要になってくる。多様な生き物が通過できる大型のオーバーパスウェイにもチャレンジしたい」と大竹氏は構想を練っている。

一方、湊氏は、環境教育やエコツーリズムなど、ソフトの価値に注目する。企業や学校で、環境教育に携わってきた経験から「人は年齢に関わりなく、生物と関わることで五感が刺激され、感性が豊かになる」と湊氏。豊かな感性は、柔軟で新しい発想を生む。これこそ、ビジネスや学術研究などさまざまな分野で求められているものだろう。

今年3月、待望のAP2号機が公道に誕生した。すでに1号機と2号機合わせて、3ヵ月で約3,000回以上の樹上動物の通過が確認されている。実験当時と比べると、驚くべき変化だ。

こうした成果を受けて、湊氏はいま、2つのことを計画中だ。ひとつは、インターネットのライブ映像で誰でもヤマネを観察できる「あなたも調査員」プロジェクトで、秋にはスタートする予定だ。もうひとつは、COP10で、APをアピールすること。会場での展示のほか、エクスカージョンプログラムで、内外の研究者に現地を訪れてもらう。

「森を分断している道路や線路は世界中にある。今回のCOP10は、研究成果を国内外に発信する最高のチャンス。世界の人々に知らせたい」と語った。

この記事にリアクションして1ポイント!(※300ポイントで有料記事が1本読めます)