CDPが描く環境開示の未来 変革の2024年から「アクション」の2025年へ
2025年5月、国際的な環境非営利団体であるCDPは、先立って公開している「気候変動」「ウォーター」「フォレスト」3分野での2024年度Aリスト企業に加え、112の自治体と2つの州・地方政府をAリストに選定した。日本からは、東京都が4年連続で選定された。表敬訪問で小池都知事を訪れたCDP最高経営責任者(CEO)のシェリー・マデーラ氏をキャッチ。2024年の振り返りと2025年の戦略・展望などを聞いた。
2024年度は過去最多企業が回答 25年度は安定の年に
四半世紀にわたり、環境データの開示を通じ、環境問題への世界的な取り組みを支援してきたCDP。2025年1月、創立25周年を迎えるにあたり、ブランド・アイデンティティを「透明性からアクションへ」に刷新。透明性をブランドの中核に据えた上で、情報に基づくアースポジティブな意思決定とアクションを推進していく。
「2024年は、CDPにとって大きな変革の年でした」とシェリー・マデーラ氏。〈気候変動〉〈ウォーター〉〈フォレスト〉の3つの質問書を1つの質問書に統合。より効率的で使いやすい、新しいプラットフォームを提供した。さらに中小企業(SMEs)向けの質問書も導入した。
「大きな変革の後の1年として、2025年はそれらをより強固にする1年にしたいと考えています。質問書に関しては、前年に続き、IFRS S2(気候関連開示)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などとの整合性を高めていくことに注力していきたいと考えています」
日本企業が存在感 トリプルA3社含む160社がAリスト入り
2024年度は、過去最高の22,700社を超える企業にCDPのスコアが付与され、そのうちいずれかの項目でAリスト入りしたのは515社。日本企業においては、プライム上場企業の7割以上を占める2,100社超が開示した。
「日本においてはAリスト入りが160社以上。3つの項目すべてでAの『トリプルA』も3社ありました。特に、トリプルAに関しては、世界8社のうち3社が日本企業。素晴らしいことです」
東京都への表敬訪問も実施
自治体については、世界で約1,000自治体が環境データを開示。うち、752の自治体がスコアリングの対象となり、15%がAリストに選定された。日本では東京都が4年連続でシティAリストに選定されている。
「東京都は、積極的に気候変動の問題、サステナビリティに取り組んできた都市だと認識しています。新しい政策が功を奏しており、今後もリーダーとしての動きに期待しています」
マデーラ氏は、2025年6月、東京都の小池百合子知事を表敬訪問し、4年連続のAリスト入りに祝意を示した。小池知事は、2035年に2000年比で温室効果ガス60%以上削減の目標を紹介。新築住宅への太陽光設置義務化や、伊豆諸島でのGW級浮体式洋上風力発電、国際大会の環境配慮などの施策を挙げた。両者は、東京を脱炭素先進都市としてさらに発展させるため、連携強化の意向を共有した。

SMEs質問書へ確かな手ごたえ
初めてSMEsを対象にした質問書を導入したことについては、「サプライチェーンのオーナーが、スコープ3の観点でデータを見てリスクと機会を解析し、意思決定をしていくことが重要です。SMEsの質問書に対し、日本企業の反応は非常に良いと感じています」とマデーラ氏。
グローバルで、SMEsの質問書に回答した企業は約12,500社。アジア太平洋地域が25%を占め、日本からは約400社が回答した。
「中小企業においては、初めての情報開示ということで簡単ではなかったと思います。CDPとしても、2024年の結果から学び、この夏には日本でも、回答を促進するための様々なウェビナーを開催します。それによって、レポーティングの正確性・クオリティを高め、より多くの中小企業が回答できる形にしていきたい」
サプライチェーンオーナーから情報開示が求められるなか、CDPの質問書に取り組みデータを提供することは、中小企業自身の価値を高めることにもつながる。
「顧客企業の調達チャネルの中に留まれるというメリットだけでなく、資金調達の面においても、サステナビリティに関するデータを求められることが増えています。中小企業においては、それに応えることで、手間や費用に見合うリターンがあることを認識いただきたいと思います」
新たな企業評価を実施 カギは役員報酬とサプライヤー連携
また、2024年度では『CDPコーポレート・ヘルスチェック』も行った。同指標は、世界経済フォーラム(WFF)との協業で開発したもので、世界の時価総額の67%に相当する企業を対象に、気候と自然に関する透明性、目標、ガバナンス、戦略、インパクト削減の進捗状況を評価する。
「調査における分析の結果、〈役員報酬〉〈カーボンプライシング設定〉〈気候移行計画〉〈サプライヤーエンゲージメント〉が、ビジネスにおける主要な取り組みだと特定されています。特に、日本においては、CO2排出ターゲットに対する達成が予定通り進んでいる企業が41%と、世界平均の34%を上回っており、非常に良い進捗状況を示していると思います」

変わる情報開示の焦点 水・自然資本への関心の高まり
開示テーマは、気候変動だけでなく、自然資本や生物多様性など、時代に合わせて変化していく。例えば、自然関連の質問に渇する回答が、2024年は21%上昇しており、開示関連でも進化してきている。
「特にここ半年、水の利用に関する情報開示が、グローバルで非常に重要な意味を持ってきています。水は、あらゆる経済活動におけるインプットであり、様々なプロセスに対し大切な役割を果たしているからです」
代表例としては、AIとデータセンターだ。今後の世界の成長のカギとなるAIに欠かせないデータセンターにおいて、水はサーバーの冷却という面で重要な役割を果たしていく。
「CDPは水不足、水の利用に関し、ここ10年ほどデータを求めてきました。水に関するトレンド、経済に対する影響に関して、より多くの解析をしてきています」
CDPが掲げる「透明性からアクションへ」
2025年に創立25周年を迎えるCDP。2024年には、24,800以上の企業と約1,000の自治体がCDP質問書を通じて環境情報を開示し、世界の運用資産の4分の1を保有する金融機関が、投資や融資の意思決定のためにCDPデータを活用している。CDPの質問書で情報開示した企業は、2年以内にCO2排出量が7~10%削減されているという事実もある。
「評価測定できるものに関しては管理できる、マネジメントできるというのが、我々の変わらぬ信条です。ただ、必要なデータは時代により変わっていきます。そういう意味では、我々も変革していく必要があると考えています。新たに設定したブランド・アイデンティティには、CDPとして今後も透明性を求めながら、具体的なアクションを促していくという意思が込められています」
気候変動の影響で、年間38兆ドルもの損失が出ているといった数字も報告されている。
「それを防ぐためのアクションをとるためにはデータが必要で、何をすればその問題に対応できるのかを、データを集めて調査していく必要性があります」
日本の「GX先進国」としての役割に期待
日本に対しては、世界第4位の経済国家として、気候変動の問題に取り組む先進的リーダーとしての役割を期待する。
「特に、GX推進機構というプラットフォームを持つことで、ベストプラクティスを世界と共有していけるというメリットがあるかと思います。今後、気候変動のデータだけでなく、様々な自然に関するデータも、さらに日本から出てくることを期待しています。CDPとしては、今後も継続して日本市場へサービスを提供し、日本とともに、学び、成長していきたいと思っています」

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