洋上風力発電の大規模開発で注目される ヘリコプターによる作業員の輸送

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洋上風力発電において風車の設置や維持・管理作業が占めるコストは大きく、着床式で1/3、浮体式では40%以上を占めるとも試算されている。その意味でも、我が国に適した経済性の優れた洋上風力発電の整備体制の強化が求められる。太平洋側は大きなうねり、日本海側の冬季は荒海が続き、波傾斜が大きくなる。このような日本の厳しい自然条件を鑑みると、洋上作業の人員輸送ソリューション、運転保守戦略及びツールの準備も重要となってくる。

レオナルド社(伊)ヘリコプターAW169
写真提供:三井物産エアロスペース
欧州(北海)では、海洋油田開発等で長年にわたりヘリコプターによる作業員の輸送が行われてきた実績から、広い海域に立ち並ぶ洋上風力のO&M等に運用されている。写真はレオナルド社(伊)ヘリコプターAW169
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作業員輸送ヘリコプターの活用は発電事業の経済的な選択肢

洋上風車の設置海域が、より沖に深く厳しい海象環境に移行するにつれて、設置工事や稼働後のO&Mも、その過酷さが増してくる。このような状況下で、風力タービンのメンテナンス作業員を風車に輸送するための洋上ヘリコプターサービスの需要が高まると予想される。

レオナルド社(伊)ヘリコプターAW169
写真提供:三井物産エアロスペース
欧州(北海)の洋上風力発電で活躍するレオナルド社(伊)ヘリコプターAW169

 

洋上風力発電業界向けの洋上ヘリコプターサービス

国が掲げる、2040年までの洋上風力の開発目標値は30~45GWであることから、これから十数年で、日本の沿岸に合計3,000~4,500基もの洋上風車が建てられる。当然のことだが、離岸距離が遠い深海での開発が増え、波浪の影響を多大に受けやすい中で、風車の安定した運用・維持管理が発電事業者にとっては重要になる。

そこで、急ピッチで開発を進める洋上風力発電の運用・維持管理を支える要として、ヘリコプターによる作業員の輸送に注目したい。

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(イメージ)

ヘリコプターは、主にメンテナンスを行う作業員を風車へ輸送するために使用される。国内の洋上風車は、欧州に比べ設置海域の気象、海象はより厳しく、変化が激しいことから、多くのダメージを受けやすい。風車自体も過酷な環境に直面しているため、陸上に比べ洋上はより頻繁なメンテナンスを必要とする。

洋上風力発電開発がより離岸し、深い海域になり、より過酷な環境に移行するにつれて、風車のメンテナンス、洋上風力発電業の安定操業に向けた、洋上ヘリコプターによる作業員の輸送サービスの需要が高まってくると考えられる。

 

厳しい自然環境下で風車の維持管理も過酷になる

政府の洋上風力発電に対する大きな目標に対して、日本国内での導入は始まったばかりだ。そのため先行する欧州から学ぶことは多いが、環境や社会、技術など日本固有の課題も多く、欧州のノウハウをそのまま導入することは難しい。たとえば環境面で言えば、日本の海は欧州よりも自然環境(気象・海象・地形)が厳しい。日本には年に数回、必ず台風が襲来する。最近は爆弾低気圧のようなイレギュラーな悪天候も珍しくない。

風車の設置工事や稼働後の保守点検の点から見れば、日本海の夏季は穏やかで、工事に適した好条件の日が多いが、冬季になると波が高くなり、風速も悪条件となる。さらに、冬季には雷が多発する。一方、太平洋側は年間を通して波が高く、うねりも大きいことから、まとまった施工期間を取ることさえも難しい。

また、地形的には日本は欧州よりも遠浅の海が少ない。設置可能面積でいえば約7,200km2と言われており、これはイギリスの約8分の1に過ぎない。これらの悪条件を前に、日本での洋上風力は、風車の設置工事や点検修理などの工期管理は未知の部分が多すぎる。

 

洋上風力発電事業の課題

洋上風力発電を主力電源の核にするためには、供給電力のコスト削減と電力の安定供給の維持が絶対条件である。発電コストが高くなれば、それを利用する国民の負担は大きくなり、日本の経済力や海外に対する産業競争力にも悪影響が及ぶことになる。そこで重要となるのが、風力発電のサプライチェーンで最大の費用を占める運用・維持管理(O&M)だ。このコストを削減することが、そのまま電気料金の低減につながる。

 

作業員の輸送はヘリ&船で挑む

効率の良いO&Mを実現する重要なピースとして、注目されているのがヘリコプターだ。洋上に風車や変電所を設置し、運用・維持管理するとなれば、当然、作業員が頻繁に現場に行かなければならない。そこで重要となるのは、アクセスの手段だ。

洋上風力発電の風車は大型化しているため、1基ごとに設置場所の距離を離さなければならない。数十基の風車がひとつの海域にあれば、全体として数十km単位の広さが必要になる。さらに陸から離れた場所に設置されていれば、港からの距離も移動距離にプラスされる。つまり、船で数十の風車を管理するには、アクセスするだけでも多くの時間が必要となる。浮体式洋上風車は、着床式よりも、さらなる沖合への設置が予想される。そうなれば、アクセスのための移動距離は、より長大なものになる。

そこで有用なのがヘリコプターだ。すでに欧州では、海洋油田開発等で長年にわたりヘリコプターが実績を積んでいる。作業員や資材の輸送にヘリコプターを利用すれば、距離と時間の問題は簡単に解決できる。ヘリコプターの移動スピードは船よりも圧倒的に速い。船では数時間となる数十kmの移動もヘリコプターであれば30分以内で済む。

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(イメージ)

短時間で風車ナセル上に作業員を届ける

ヘリコプターであれば、風車ナセル上にピンポイントで作業員を届けることができる。この方法はホイスト運用と呼び、機外に装備したホイスト装置からワイヤーを使って、人員をヘリから目的地へ乗降させることが可能だ。ホイスト運用により、離着陸できない場所への輸送も可能となる。これまで日本では、商業用のホイスト運用は許可されていなかったが、2021年11月に航空法が改正され、商業用運用が可能となった。

悪天候により船の出航が難しい場合、ホイスト運用できるヘリコプターを採用することで、洋上風力発電の設置や運用・維持管理にかかる労力と時間を大幅にカットできる。時間が短縮されれば、人件費だけでなく、風車を停める時間も短い。それは発電ロスの低減、ひいては発電コストの低減にもつながる。

もちろん迅速なメンテナンスが可能になることは、電力の安定供給にもつながる。そして、万一の事故のときもヘリコプターがあれば即応ができる。洋上というリスクの多い場所での作業の安全を高めるにも大いに役立つ。

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