水素社会

水素社会とは、利用時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素が化石燃料に代わり、日常のエネルギーや産業活動の主な選択肢として活用されるようになった社会構造のこと。
発電や産業用熱需要、運輸部門など幅広い分野で水素やその誘導体を導入し、温室効果ガス排出削減とエネルギー安全保障の両立を目指す構想である。
「水素社会」概念の拡張とクリーン水素の基準
当初の水素社会構想では燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池(エネファーム)など民生分野や小型モビリティの普及が中心視されていたが、現在では脱炭素化が困難な産業プロセス(製鉄・化学)や大規模発電、大型輸送部門(トラック・船舶・航空)といった領域での社会実装が重視されている。
これに伴い、対象範囲も水素単体に留まらず、エネルギーキャリアとしてのアンモニアや合成メタン(e-methane)、合成燃料(e-fuel)を含めた「低炭素水素等」へと一体的に拡張されている。
さらに、利用時だけでなく製造工程や輸送時の環境負荷も問われるようになり、製造から供給に至るライフサイクル排出量(Well-to-Gateで3.4 kg-CO2/kg-H2以下など)を満たすクリーン水素(再生可能エネルギー由来のグリーン水素や、化石燃料由来にCCSを組み合わせたブルー水素)の活用が国内外の政策要件となっている。
国の導入目標とコストロードマップ
日本政府が改定した「水素基本戦略」では、水素社会の実現に向けた導入量目標とコスト低減目標が具体化されている。第6次エネルギー基本計画においても、2030年度の電源構成のうち約1%を水素・アンモニア発電で担う方針が掲げられている。
| 項目 | 2030年目標 | 2040年目標 | 2050年目標 |
|---|---|---|---|
| 水素導入量(国内供給量) | 最大300万トン/年 | 1,200万トン/年程度 | 2,000万トン/年程度 |
| 水素供給コスト(CIF) | 30円/Nm3 | ― | 20円/Nm3以下 |
| 水電解装置導入目標(日本関連企業) | 15GW程度(国内外累計) | ― | ― |
水素社会推進法とサプライチェーン構築の実務
商用規模での普及に向けた最大の課題は既存の化石燃料との価格差とインフラ不足である。この課題に対応するため、2024年5月に「水素社会推進法」(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)が成立し、同年10月23日に施行された。
同法では、既存燃料との価格差を原則15年間にわたり補填する「価格差に着目した支援(差額支援)」と、大規模需要が見込める臨海コンビナート等におけるタンクや導管整備を10年間にわたり支援する「拠点整備支援」の2大制度が設けられた。GX経済移行債を活用し、官民合わせて今後15年間で15兆円規模の投資を呼び込む枠組みである。
実務面では、これらの支援制度を活用するにあたり、供給事業者と利用事業者(オフテイカー)が共同で事業計画を申請することが求められる。企業単体での取り組みではなく、製造から輸送・貯蔵・消費に至るサプライチェーン全体での連携体制構築が不可欠となる。
製造から貯蔵・輸送に至るサプライチェーン開発の動向については、川崎重工への取材を通じて水素サプライチェーンの現在地を整理した記事でも、液化水素を活用した「つくる・はこぶ・ためる・つかう」の実証から商用化への進展が示されている。また、既存技術を活かした移行期の選択肢として、物流分野における水素エンジン車への期待など、利用先を開拓・維持する多様なアプローチが検討されている。
参考
- 資源エネルギー庁 ― 水素社会実現に向けた取組
- 経済産業省 ― 「水素基本戦略」を改定しました
- 資源エネルギー庁 ― 水素社会推進法の概要
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