「浜松市域『RE100』」への挑戦(前編)
浜松市は2020年3月、市エネルギービジョンの改定とあわせ、2050年までの二酸化炭素排出実質ゼロを目指すことを表明し、「浜松市域“RE100”」を宣言した。どのように目標の達成をめざしていくのか。
2020年12月に開催した環境オンラインEXPOで、「国土縮図型都市浜松市におけるエネルギー政策と『浜松市域“RE100”』へのチャレンジ」をテーマに、浜松市産業部エネルギー政策課 課長補佐(専門監) 松野 英男氏が解説した。
浜松市は静岡県西部に位置する人口約80万人の都市だ。面積1558.06km2、市町村別面積は全国2位で、静岡県の伊豆半島よりも大きい市域を有している。2007年に政令指定都市に移行した。市域の約7割を山林が占め、都市形成・課題とともに全国の市町村が抱える課題を凝縮した「国土縮図型都市」といわれている。
浜松市は製造業を中心とした街で、市内のエネルギー消費状況をみると、下図の通り、かなり電力依存度が高い都市といえる。

(出所:浜松市)
こうしたなか、市は東日本大震災を契機とした電力の安定供給に対する懸念の全国的な高まりや、国によるエネルギーミックス実現への検討などを背景に、2012年4月、新エネルギー本部を設置した。
翌2013年4月には、エネルギー政策の羅針盤となる「浜松市エネルギービジョン」を策定。2020年4月に、さらなる取り組みの推進を目的に同ビジョンの改定を行った。
現行の浜松市エネルギービジョンが掲げる4つの柱は、「再生可能エネルギー等の導入」「省エネルギーの推進」「スマート化の推進」「環境・エネルギー産業の創出」。これらの取り組みにより、エネルギーに対する不安のない強靭で低炭素な社会「エネルギー・スマートシティ」の実現をめざしていく考えだ。

(出所:浜松市)
完全自給自足が可能な再エネポテンシャル
市は当初エネルギービジョンで、電力自給率を2030年に20.3%とする目標を掲げていた。2020年4月の改定時は、新たに2050年度目標値として50.6%を定めるとともに、2030年の目標値を30.6%へ上方修正した。
なお、2019年実績は16.0%。既存の市内にある大・中規模水力発電を含めると61.7%に達している。
2013年度に市が実施した調査では、市内の太陽光発電、大型風力発電、バイオマス発電、小型水力発電を合わせた利用可能量は、最大で273万MWh/年になると推計された。市域の総電力使用量の52.9%に相当する規模だ。これに大・中水力発電量(46.6%)を加えると、市内の再エネ利用可能量は約100%に達し、エネルギーの完全自給自足が可能な都市になる。
また、再エネの導入にあたっては、市域が広く7割が中山間地域という地域特性を生かすことで、「エネルギーベストミックス」による電力の確保が見込めることも特徴といえる(下図)。

(出所:浜松市)
図が示す通り、浜松市は市町村別再エネ導入容量が全国第1位(2020年3月末時点)。これを牽引するのが太陽光発電で、既存の風力発電とあわせ、導入容量は449,306kW(2020年6月時点)と、こちらも全国1位となっている。
2050年までに「二酸化炭素排出実質ゼロ」を宣言
さらに、エネルギービジョンの改定とあわせて、市は2020年3月30日、「浜松市域“RE100”」を宣言した。この「RE100」は市独自の定義によるもので、市内の総電力使用量よりも多い電力を、再エネ電源で生み出すことができる状態にしようというものだ。
「浜松市域“RE100”」戦略の3本柱は、「再生可能エネルギーの導入利用拡大」「徹底した省エネ+イノベーションの推進」「森林の二酸化炭素吸収」であり、エネルギー・環境・林業の各政策と連携し、2050年までの二酸化炭素排出実質ゼロを目指す。
一方で、再エネの導入を推し進めるだけではなく、太陽光・風力発電の事業者の責務を規定した条例を定め、地域との共生に向けた環境整備を推進している。地域住民等へ事業計画の周知等を義務化したガイドラインも見直しを行った。

(出所:浜松市)
さらに、風力発電では、環境省事業の採択を受けて、導入可能性のあるエリアの抽出・課題等を明確化するゾーニング調査を2017年・2018年に行った。また、木質バイオマス発電については導入可能性調査を2017年に実施した。
こうした調査のデータは、適正なエリアに対する再エネの導入を推進すること、また、再エネ事業を民間事業者に実施してもらう誘導策の一つとして公表している。
(後編へ続く)