「地球が唯一の株主」 理想で終わらせないパタゴニアの本気度(前編)

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ここ数年で企業の経営における環境に対する意識は飛躍的に向上している。特に欧米企業はその動きを大きく牽引しているが、なかでも「パタゴニア」「Faith in Nature」は世界を驚かすような環境経営を実践する。ジャーナリストの栗田 路子氏が同社の取り組みを紹介する。

背広の襟元にはSDGsバッジ、ESG成果に紐づけた役員報酬――日本でも環境配慮や気候危機への対策が「見える化」されるようになってきた。だが、それらは地球や自然について確信犯的な企業からみると、有名コンサルや広告代理店が考案した「グリーンウォッシュ」に過ぎないように見える。欧米で「地球」や「自然」を理念の根幹に置く「エコ・セントリック」な企業のなかには、定款や組織をいじって事業形態ごと変革するところが出てきている。

スポーツ衣料米大手パタゴニアと英国の化粧品会社「Faith in Nature」がとった大胆な方策を紹介する。前者は「地球」を株主に、後者は「自然」を取締役に、正式に据えてしまったのだ。

筋金入りのエコロジスト企業パタゴニア

パタゴニアが「地球」を唯一の株主にすると宣言したのは、2022年9月14日のこと。世界のビジネス界をはじめ、投資家や消費者が一斉に「え?」と耳を疑った。あの日から早くも1年余りが経過した。

パタゴニアは、イヴォン・シュイナード氏が1973年にカリフォルニア州ヴェンチュラに創業。自分と仲間のために登山用ギアを手作りして売ったのが始まりで、今では関連会社を通して、アウトドアスポーツのための用具やウエア、食品、書籍、マルチメディア企画など幅広い製品を製造・販売し、その高い品質と環境活動で知られている。今では推計年商15億ドル(約2300億円)、世界各地で製造し、日本を含む世界10カ国に販売拠点を持つ国際企業だ。日本でも根強い顧客層をつかんでいる。

創業者のシュイナード氏は、若き頃からの登山家で、根っからのエコロジスト。当初から、環境を重視し、環境負荷の少ない素材だけを厳選する、売り上げの1%を環境保護団体に寄付するイニシアティブ「1% for the Planet」を立ち上げて自社が最初の賛同企業となるなど、これまでもさまざまな形で自然環境保護をリードしてきた。

イヴォン・シュイナード氏は若い頃から登山家として活躍した(提供:パタゴニア、by Tom Frost)
イヴォン・シュイナード氏は若い頃から登山家として活躍した(出所:パタゴニア、by Tom Frost)

カリフォルニア州が定めるベネフィットコーポレーションとして認められ、米NPO「B Lab」によるBコープ認証も受けた。ベネフィットコーポレーションは、会社が申告する情報に基づいて認定されるが、Bコープは、独立した第三者機関が、環境配慮面ばかりでなく、従業員や消費者といったさまざまなステークホルダーへの便益・透明性などを基準として精査し認証するものだ。

だが、これでも不十分と、シュイナード・ファミリーが、評価額30憶ドル(約4600億円)と見込まれるこの国際ビジネスをとうとう「地球」に捧げると決めたのだ。家業や家督を相続し、成長させ続けることこそが徳と考え、政治家ですら世襲だらけの日本の感覚では、想像しにくいかもしれない。現実的にはどういうことなのだろう。

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