日本の官民が水素やアンモニアといった化石燃料の低炭素化につながる燃料の導入に向け、本格的に動き始めた。日本は電源の約7割が化石燃料を多用する火力発電であり、脱炭素に向けてまず「低炭素」をめざす戦略だ。だが、アンモニアや水素はコストの問題に加え、化石燃料温存との批判が強い。日本の「化石大国」返上は可能だろうか。
目次
1.政策動向:水素・アンモニアで電源構成1%目指す
2.産業動向:官民で水素・アンモニアの供給体制強化の動き
3.展示会:水素・アンモニア技術、エネルギー系展示会で紹介
4.展望・分析:「化石燃料の温存」批判乗り越え「脱炭素」本気度示せ
(1)政策動向:水素・アンモニアで電源構成1%目指す
政府は石炭や石油といった化石燃料の代替燃料として、水素とアンモニアの事業拡大を目指している。水素の導入拡大で「化石燃料に十分な競争力を有する水準となることを目指す」とし、質量、価格ともにガス火力並み、つまり石炭や石油に代わる水準での普及拡大を想定。2023年には電源構成のうち1%程度を水素・アンモニアとする目標を掲げる。水素については2030年に国内導入量最大300万トン程度、2050年に2000万トン程度を目標に設定した。
水素の活用によって、どんな利点があるのだろうか。将来的に水素を使った低炭素の火力発電が普及することで、価格も安定しやすくなる可能性があるという。仮にコスト低減が実現した場合、家庭電力料金に換算すると年間で約8600円相当の支出抑制効果があると経済産業省は試算する。

水素関連技術で国際競争力磨く
普及を加速させるため、日本は水素関連技術を磨いて国際競争力を強化。水素発電タービンの実証支援、定置用燃料電池の発電効率や耐久性向上のための研究開発に取り組む。燃料電池(FC)トラックの商用化の加速に向けた実証実験に加え、輸送・貯蔵技術の早期商用化とコスト低減の両立を目指す。
水素輸送関連設備の大型化、水素輸送関連機器の国際標準化、水電解装置のコスト低下に向けた取り組みや技術支援なども将来に向けた有力な政策であり、民間企業も水素関連の事業化を加速させている。

アンモニア、2050年までに混焼率50%目標
水素と並んで政府が期待をかける低炭素燃料が、アンモニアである。火力混焼用の発電用バーナーに関する技術開発を進め、2030年までに石炭火力にアンモニアを20%混焼させるなど導入を拡大。2050年までに混焼率50%達成を目標にする。アンモニアも水素と同様、コスト低減が実現すれば低炭素かつ安定した火力発電を提供できる可能性がある。
燃料アンモニアについては、いかに低コストで供給できる体制を構築するかが今後のカギを握る。コスト低減のための技術開発やファイナンス支援を強化するほか、国際標準化や混焼技術の開発を通じて、東南アジアマーケットへの輸出を促進。東南アジアの石炭火力に混焼技術を導入し、約5,000億円規模とされる燃料アンモニア市場の獲得を目指す。
(2)産業動向:官民で水素・アンモニアの供給体制強化の動き
水素やアンモニアを巡っては、供給体制を強化する官民の動きが相次いでいる。低酸素燃料としての水素・アンモニアへの期待が高いことの証左だろう。

世界初・商用規模の液化水素サプライチェーン基地建設へ 川崎市扇島で
日本水素エネルギー(JSE/東京都港区)は2025年5月26日、世界初となる国際水素サプライチェーンの国内基地建設に着手したと発表した。施工は、川崎重工業(同)・大成建設(同・新宿区)・東亜建設工業(同)の共同企業体(JV)が担う。
豊田通商、名古屋港で水素供給インフラ整備へ 安全性などを検証
豊田通商(愛知県名古屋市)は2025年6月から、東邦ガス(同)、大陽日酸(東京都品川区)とともに、名古屋港とその周辺地域で、水素供給インフラの設計・検証を行う事業を開始する。2025年度中に技術面・事業面の検証を行う。
住友ゴム工業と山梨県、白川工場で水素製造の実証開始 年間100トン生産
山梨県は2025年5月8日、民間企業と共同開発した水素製造装置を住友ゴム工業(兵庫県神戸市)の福島県白河市にある「白河工場」に設置し、実証を開始したと発表した。同工場では今後、再エネ由来の電力と水を基にグリーン水素を製造するP2Gシステムを24時間稼働させ、年間最大約100トンの水素を生産する。この取り組みにより、輸送を含むサプライチェーン全体(スコープ1・2・3)によるCO2排出量は年間約1000トン削減できる見込みだ。
東京都、空港臨海部で水素利用と供給体制構築へ 調査・予備設計で事業者公募
東京都は2025年5月28日、空港臨海部でのパイプライン敷設などを伴う大規模な水素利用や水素供給に向けて、「水素需要の点を創出」「水素需要の点を拡大」「水素供給体制を構築」の3つのステージに関する実現可能性調査(FS)・予備設計などを実施する事業者を公募すると発表した。応募者は参加申込書と事業者提案書を作成し提出する。提案書期間は6月6日から6月25日まで。

丸紅、米国でクリーン水素&アンモニア製造 年間25万tを国内企業に供給
丸紅(東京都千代田区)は2025年5月8日、米国の石油大手エクソンモービルが開発を進める低炭素水素・アンモニア製造プロジェクトに参画すると発表した。丸紅は、このプロジェクトで生産された低炭素アンモニアのうち年間約25万トンを、コベルコパワー神戸(兵庫県神戸市)が所有・運営する神戸発電所などに供給する。
JERAと三井物産、米国に世界最大のアンモニア工場 年間140万t製造
JERA(東京都中央区)と三井物産(同・千代田区)は2025年4月9日、米国ルイジアナ州で世界最大規模となるアンモニア工場を建設すると発表した。総事業費は約40億ドル(約5715億円)で、年間140万トンを生産する。
(3)展示会:水素・アンモニア技術、エネルギー系展示会で紹介
水素・アンモニア関連の技術・製品は、主にエネルギー系の展示会で紹介される。主な展示会は以下がある。
ジャパンエネルギーサミット(2025年6月18~20日、東京ビッグサイト)
スマートエネルギーウィーク【秋】(2025年9月17日~19日、幕張メッセ)
スマートエネルギーウィーク【関西】(2025年11月19日~21日、インテックス大阪)
(4)展望・分析:「化石燃料の温存」批判乗り越え「脱炭素」本気度示せ
政府は水素・アンモニアの国内導入量目標として、2030年の電源構成のうち1%程度を水素・アンモニアにするとエネルギー基本計画に明記した。しかし、アンモニア・水素燃料に依存することには「化石燃料の温存だ」との批判が根強い。アンモニアや水素を燃料にする場合、結局石炭や石油などの化石燃料が完全になくなるわけではないためだ。日本は電源構成の7割程度を今も火力発電に依存するなど「化石大国」と言われており、特に海外からの目は厳しい。
アンモニアや水素の活用があくまでも脱炭素に向けた「つなぎ」の有効な手段として世界で認められるには、日本政府や企業の本気度を行動で示すしかなさそうだ。