商社マインドから探るGXビジネス

GXビジネス動向 ~双日編~

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2050年へ向けた長期ビジョン『サステナビリティチャレンジ』を掲げ、取り組みを進める双日。脱炭素社会への移行をリスクと機会の両面で捉え、再エネ、省エネ、EV、SAF、CCS、CCUSやDACなど、幅広い事業を展開する。総合商社で初めて、原料炭を含む石炭権益の2050年までの撤退を表明した同社の、グリーンビジネスへの挑戦は…。

双日 サステナビリティ推進部 部長 佐藤 崇氏

脱炭素社会への貢献は責務

双日は「新たな価値と豊かな未来を創造すること」を企業理念に、事業基盤の拡充や持続的成長といった双日が得る価値と、地域経済の発展や環境保全など社会が得る価値、の2つの価値の実現を目指す。

2018年には、脱炭素社会実現への挑戦と、サプライチェーンを含む人権尊重の2本柱からなる長期ビジョン「サステナビリティチャレンジ」を策定した。

「社会の得る価値として、気候変動への対応で脱炭素社会の実現が望まれています。総合商社としてCO2を排出する多くのサプライチェーンに関わる我々としては、脱炭素への貢献は責務だと考えています」と、サステナビリティ推進部の佐藤崇氏。

脱炭素社会の実現へ向けた具体的な目標としては、自社で排出するCO2(スコープ1・2)について、2030年までに2019年度比6割削減(スコープ2はネットゼロ)、2050年までのネットゼロ。スコープ3については、海外に持つ石油権益を2030年までに全て手放すとともに、製鉄用の原料炭からも2050年までの撤退を表明する。総合商社で原料炭権益からの撤退を表明したのは同社が初となる。

自動車やプラント・エネルギー・化学品・金属資源・食料資源など、7つの事業領域を持ち、全世界でビジネスを展開する同社。

「脱炭素社会の実現、循環型社会を見据えてビジネスという意味では、全事業本部が関わってきます。SAF(持続可能な航空燃料)1つとっても、複数の事業部がそれぞれの商材に関わるSAFを追求できるのが商社としての強みです。ポートフォリオとして、CO2負荷の高いブラウン事業を減らし、世の中のCO2削減に貢献するためのグリーン事業の比率を高めていくというのが、基本的な戦略となります」(佐藤氏)

あらゆる領域へアンテナを張る

近年は、既に国内や海外で広く展開している再エネ事業に加え、ESCO(Energy Service Company)事業と呼ばれる省エネルギーサービス事業に注力。米国や豪州で事業を開始している。

ESCO事業では、顧客の光熱費や維持費の削減・効率化に向け、空調や照明の交換などの補修プランを提案し、設計や機器調達、取付工事などのサービスを行う。

双日は2021年12月、米・ペンシルベニア州のESCO事業者であるマクルーア社を連結子会社化し、今後、大きな成長の見込まれる米国市場でのESCO事業に参入。2023年5月には、豪州ビクトリア州とクイーンズランド州を中心に空調設備設計・施工及び省エネルギー事業を行うエリスエア社を連結子会社化し、豪州での省エネルギー事業も開始した。

また、環境省の実証事業として豪州でグリーン水素を製造し、パラオ共和国で活用する事業を2021年度から開始。豪州クイーンズランド州で太陽光発電の電力により製造したグリーン水素をパラオ共和国へ輸送し、小型船舶の燃料の水素への転換やバックアップ電力用の小型蓄電池の普及などを進めている。

一方、国内では、2023年5月、神戸市、アサヒグループジャパンとPETボトルキャップの水平リサイクル実現に向けた事業連結協定を締結。プラスチック資源循環についての社会課題解決の早期実現を目指す。

「2050年のカーボンニュートラルは世界共通の目標です。ただ、そこへ向けたアプローチやパスは多様かと思います。我々としてはあくまで“社会が得る価値”と“双日が得る価値”の両方を見ていく。社会貢献事業ではなく、我々が得る価値が何か、社会が得る価値が何かを見極め、あらゆる領域へアンテナを張り、進むべき道を見定めていく必要があると考えています」(佐藤氏)

ナノ分離膜を使ったDAC技術に注目

脱炭素社会の実現へ向け、次世代技術として注目するのが、大気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)技術。 DAC技術では、化学薬品を使用し液体や固体にCO2を吸収・吸着させるのが主流だが、双日が着目したのは、九州大学が研究開発を進めるナノ分離膜を使ったCO2回収技術『m-DAC™(membrane-based DAC)』。2022年2月に九州大学と覚書を締結し、藤川教授の膜を用いたDAC技術の社会実装に向けた連携を開始した。

「限られた制約条件の中で大規模なプラントを建てるのではなく、小規模分散型でCO2を回収できるのが、このDAC技術の特徴です」と、Carbon Xtract社の髙馬氏。  溶液吸収や固体吸着といった主流のDAC技術では、化学薬品、熱、水を利用する為、プラント設備として一定のスケールが必要となり、人のいない土地と大量の水・熱が供給できる限られた立地要件となってしまう。

一方、膜を使った装置は、真空ポンプで膜に大気を吸い込んでCO2を濾し取るシンプルな構造で、システム設置における制限が大きく緩和され、多様な装置やサイズでオフィスビルや商業施設など人のいる場所も含め、様々な場所への設置が可能だ。

2023年6月には、『m-DAC™』の早期の製品実用化と社会実装に向け、新会社『Carbon Xtract』を設立。ナノ分離膜によってエアーフィルターのように大気からCO2を回収・濃縮し、様々な有用物質(合成メタン、液体燃料やエチレンなど)に変換する装置『DAC-U(Direct Air Capture and Utilization)システム』の開発と2029年度までの社会実装を目指す。

「社会実装のイメージとしては、短期的には回収したCO2の直接利用から進んでいくと考えています」と、石炭・カーボンマネジメント事業部の日下氏。

例えば、家庭で大気中からCO2を回収し、炭酸飲料の炭酸ガスとして使う。ビニールハウスで作物の成長を促進させるためのCO2を、大気からのクリーンなCO2を回収して活用していく。

一方、長いスパンで見た場合には、変換利用の社会実装が進んでいく。

「走行しながら大気中のCO2を回収し、その場で液体燃料に変換して走行燃料にする炭素回収バスなど。全く新しいプロダクトの登場やイノベーションが起きることを期待しています」(日下氏)

開発する『DAC-U』は、小型から大型まで、用途やニーズに合わせ、スケーラブルに変えていける装置となる。

「将来的なカーボンニュートラルへ向けては、大規模なDACシステムだけでなく、小型分散型で地産地消のようなカタチでのDACの社会実装も必要になっていくと考えています。必要な場所で必要な分だけのCO2を回収できる技術として、『m-DAC™』は世の中で唯一といっても過言ではない技術だと思っています」(髙馬氏)

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