光と植物と、エネルギーの話。

第一回:植物工場は「エネルギー変換工場」である。

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脱CO2、化石燃料の枯渇、電力不足…。我々を取り巻くエネルギーの状況が目まぐるしく変わる現代、「そもそもエネルギーとはなにか?」に立ち返り、学ぶことの意味合いが大きくなっている。光とLED研究の第一人者が解説する、「植物×エネルギー×経済」の特別コラム第一弾! エネルギーの本質は植物がヒントをくれる。

はじめに 

近年、農業就労者の減少や気象災害の頻発により従来農法の課題がクローズアップされ、人工光植物工場はその課題解決に有効な手段として注目され普及が進んできました。しかしながら、昨年からの急激な電気料金の値上げが人工光植物工場事業の収益を悪化させています。人工光植物工場は、温度、湿度、二酸化炭素濃度、風量等が制御された閉鎖環境内で植物生産を行うため、エネルギー利用効率の高い植物生産システムの選定と運用が事業収益性に深く関わっています。

本コラムでは、太陽光を用いた露地栽培とは異なる"人工光植物工場"にて野菜等の生産を行う上で、「エネルギー変換効率の向上」が如何に重要な視点であるかを解説します。

光合成でわかる「エネルギー利用効率」

植物は動物と異なり、一箇所に固定された生活を送るため、環境への順応性と適応性を発展させてきました。例えば、葉緑体は一般的に葉の中で静止していると思われがちですが、実際には青色光を感知し、弱光下では葉の表面に集まり、光をより多く集めることができます。また、過剰な光を避けるために、葉緑体の向きを変えるといった動きも行っています。

では、植物に当てる光は強いほど生産量が増えるでしょうか?光が強ければ強いほど良いわけではないのです。植物の種類や生理状態によって、適切な光の量は異なります。光合成は、光のエネルギーを電子の動きに変換し、その電子を使って過激なほどの化学反応を引き起こします。光合成の原料である水が不足し、萎れた状態で強い光が射し込めば、葉は光合成反応が進められないまま、光エネルギーの容赦ない攻撃を受け続けることになってしまいます。低温の状態で強い光を当てるのも禁物です。低温では植物の生理活性が低下し、化学反応が遅くなるからです(図1)。

図1温度・光と光合成速度

図1 温度・光と光合成速度 引用文献1)より作図

地球で生まれた緑色植物は、太陽光を浴びることで光合成を行い、進化の歴史を辿って来ました。そのため、一般的に太陽光と同じ性質の光が必須と思われていますが、現実は必ずしもそうではないのです。電気代が無償で電力は使い放題という条件下では、疑似太陽光の照明が使われるかもしれません。しかしながら現実は、電力会社にkw/hあたり○○円の電気料金を支払い、電力を使用するので、限られた電気エネルギーを効率よく野菜等の植物生産に利用することが求められます。そこで大切なのが、植物は光をどのように利用しているかというメカニズムを理解して、「エネルギー利用効率」を追求することです。つまり、光合成の主役である“光”を植物がどのように使いこなしているかが理解できなければ、事業として植物工場を経営することは非常に困難です。

日光の1/10のエネルギーでも、なぜ栽培できる?

私は人工光植物工場を「エネルギー工学」の視点から評価すべきと考えています。人工光型植物工場では、電気エネルギーを発光デバイスにより光エネルギーに変換し、その光エネルギーで光合成を行うことで葉野菜等を生産しています。このため、発生させた光エネルギーを如何に効率よく光合成に利用させるかは極めて重要な課題なのです(図2)。

図2人工光植物工場のエネルギー工学的概念

図2 人工光植物工場のエネルギー工学的概念

電気エネルギーは二次エネルギーなので、一次エネルギーはさまざまなものが利活用されています。火力発電を例に挙げれば、天然ガス等に含まれる炭化水素が持つエネルギーの40%程度しか電気エネルギーに変換されません。その電気エネルギーを人工光源で光エネルギーに変換する際、省エネ自慢のLEDでも量子効率は40%程度です。光に変換されなかった残余のエネルギーは熱として栽培施設内に排熱され、それをまた電気エネルギーを使用して冷房(空調)しているのが実情なのです。つまり、各エネルギー変換段階における効率を極限まで高めない限り生産原価に占める電気料金は下がらず、結果的に収益性が悪化するのは自明と言えるでしょう。

真夏晴天時の直射日光は強烈で、関東地方では一般的な人工光植物工場の約10倍の光エネルギーが降り注ぎます。実際に植物の葉に照射される光のうち、光合成によって糖を生成するとき、化学エネルギーに変換されるのは、葉に注がれた光エネルギーの僅かに1/100程度なのです(図3)。日光の1/10程度の光エネルギーしか得られない人工光植物工場でも葉野菜の促成栽培が可能なのは、適切に制御された生育環境により、必要以上に熱や蒸散に光エネルギーを消費する必要がないメカニズムのおかげです。

葉における光吸収効率が高く、光合成産物をより多く生産し得る波長の組合せが可能なLED栽培光源が、経済合理性の観点からみても人工光植物工場には不可欠と言えます。

図3入射光と光エネルギーの収支

図3 入射光と光エネルギーの収支 引用文献引用文献2)より作図

【引用文献】

  • 山本良一、櫻井直樹、絵とき植物生理学入門(オーム社)光合成と代謝191(2007)     図5.28を改変。
  • 山本良一、櫻井直樹、絵とき植物生理学入門(オーム社)光合成と代謝164(2007)     図5.1を改変。

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