光と植物と、エネルギーの話。

第二回:電気代高騰がもたらしたもの~「消費電力と野菜生産量」「野菜生産量と収益性」の話

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脱CO2、化石燃料の枯渇、電力不足…。我々を取り巻くエネルギーの状況が目まぐるしく変わる現代、「そもそもエネルギーとはなにか?」に立ち返り、学ぶことの意味合いが大きくなっている。光とLED研究の第一人者が解説する「植物×エネルギー×経済」の特別コラム第二弾!

はじめに

前回のコラムでは、人工光植物工場が「エネルギー変換工場」であることについて触れました。しかし、近年の急激な電気料金の値上げが、人工光植物工場事業の収益に悪影響を与えています。本稿では、この電気代高騰がもたらした影響に焦点を当て、電力消費と野菜生産量、そして野菜生産量と収益性の関係について考えてみたいと思います。

電力消費と野菜生産量の関係

人工光植物工場では、植物栽培用光源として太陽光は用いられません。代わりに「人工光源」を使用し、そのためには電気エネルギーが不可欠です。

ここで頭の体操をしてみましょう。一般的な人工光植物工場で利用されている疑似白色30W直管LEDランプ1本を点灯するために自転車をこいで自家発電しようとすると、何台必要になるでしょうか?

まずは、自転車1台で発電できる電力量を考えてみましょう。自転車のダイナモ*1の発電容量は約3W1)なので、1時間こぎ続けて発電できる電力量は3Whになります。疑似白色30W直管LEDランプを1時間点灯させるために必要な消費電力30Whの電力を自転車発電で作るには、30÷3=10台分の自転車が必要となります。実際の人工光植物工場で使用されている疑似白色30W直管LEDランプ数は、数千~数万本です。この例からも、私たちが当たり前に使用している電気エネルギーの貴重さを感じることができます。

植物にとって光の利用は、量も大切ですが、質が重要です。植物の種類や生理状態によって、適切な光の量は異なります。過剰な光や不適切な波長の光を当てると、光合成が妨げられ、生産量が減少する可能性があります。したがって、一次エネルギーにより生み出された貴重で限られた電気エネルギーを効率的に植物生産に利用することが求められます。植物が光をどのように利用しているかを理解し、植物生産効率向上を目標とした「エネルギー利用効率」を追求することが重要なのです。

LEDは一般照明で使われる際は「疑似白色」が多いですが、信号機に使われるような特定の狭い波長(スペクトル)域の光を単色光として照射することも可能です(図1)。

図1植物栽培用LEDのスペクトル

図1 筆者が開発した植物栽培用LEDの波長(スペクトル) 

※左から青色450 nm、緑色525 nm、赤色660 nm

私は電子技術の応用により、このLEDの特徴を活かした植物が吸収可能な光波長組成および光照射パターンの操作をするための「LEDコントローラー」を製品化しました(図2)。

図2RGB独立調光型LEDコントローラー

図2 筆者が開発したRGB独立調光型LEDコントローラー

これにより、植物の生育段階や種類に応じて最適な光条件を提供し、生産量を最大化することができます。また、光エネルギー変換効率の高いLED光源を使用することで、電気エネルギーの浪費を抑え、経済的な運営が可能となります2

一方、人工光植物工場では、光だけでなく他の環境条件も最適化する必要があります。ここで重要なのは、植物の生育に必要な環境条件は「最も不足している条件」により規定されるということです(図3)3)。それは、どんなに他の要素が必要十分以上にあっても、不足している要素が制約となる、ということを意味します。図3では、温度、水、光がそれぞれ必要十分ですが、CO2が律速条件となり、光合成量が頭打ちとなることを表しています。

植物が吸収可能な光波長組成および光照射パターンの操作を実現することで、LEDから放たれる光子が植物の光合成色素や光受容体により効率的に吸収され、植物生産に活用されます。その結果、無駄な空調負荷を減らし、電力使用効率を向上させることに貢献します。

図3光合成に及ぼす環境要因

図3 光合成に影響を及ぼす無機的条件

野菜生産量と収益性の問題

野菜生産量の増加が直接的に収益性向上につながるわけではありません。仮に設備の原価償却費、人件費、管理費などの経費が一定だったとしても、電気料金が高騰すると同じ野菜生産量でも生産コスト増加により、最悪の場合は赤字になる可能性があります。人工光植物工場におけるランニングコストの約25%(電気料金高騰以前)は電力消費によるものです4)。したがって、植物の生育段階や種類に応じて最適な光条件を実現し、より高付加価値な植物の生産を行うことが経済合理性を高める上で重要です。

また、植物が吸収可能な光波長と光照射パターンの適切な制御によって、LEDの消費電力と植物生産効率にどのように影響するのかを明らかにすることが必要です。これにより、より効率的で環境に優しい植物栽培方法が開発され、電気エネルギーの無駄遣いが抑えられ、収益性も向上するでしょう。    

筆者は植物が吸収可能な光波長組成および光照射パターンの操作に関する研究成果を「植物工場向けに電気代削減と生産量増加を同時に実現する栽培照明最適化技術『エコブーストLEDソリューション』」として発表しました。具体的な内容については次回以降でご紹介いたします。

まとめ

人工光植物工場はエネルギー変換工場であり、電気代高騰はその収益性に影響を与えています。適切な光の利用と効率的な電力消費によって、生産量と収益性の両立を図ることが重要です。持続可能な植物工場の経営を目指すためには、エネルギー利用効率の追求と技術の進化が欠かせません。私たちは、電気代高騰の課題に対して、経済的な視点と環境への配慮を持ちながら、持続可能な植物工場の実現を追求していきます。

 

【参考】

*1 ダイナモは自転車が動いたときに電気を作る装置で、自転車が走るときに、タイヤと一緒にリム(タイヤの金属の部分)が回る。リムダイナモは、そのリムが回る力を利用して電気を生成する小さな発電機のようなもの。

リムダイナモは小さなゴムのローラーと磁石とコイルが組み合わされた装置で、自転車が動き始めるとタイヤのリムがリムダイナモのゴムのローラーを回転させ、ローラーが回転するとリムダイナモの中にある磁石も一緒に回転する。この磁石が回転することでコイルの周りに磁場が作られ、磁場の変化が電気エネルギーを生む。その電気がライトを光らせる力となるため、自転車が高速で走るほどたくさんの電気が作られて、ライトが明るく光る。

【引用文献】

1)一般財団法人環境イノベーション情報機構. 「明かりにまつわるエコライフ(3)」

      https://www.eic.or.jp/library/ecolife/energydir/energy21.html ,(2023-06-27参照)

2)古在豊樹, et al. "人工光型植物工場に関する生産性指標の種類, 定義, 計算式および注釈." (2019): 661-672.

3)山本良一、櫻井直樹、絵とき植物生理学入門(オーム社)光合成と代謝192(2007)図3を改変。

4)殿崎正芳. 企業のコスト競争力に関する内的要因の研究: 完全制御型植物工場における栽培工程と人工栽培技術を中心として. Diss. 法政大学 (Hosei University), 2019.

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