東アジアで着々と進む洋上風力計画、各国の取り組みを解説
東南アジア諸国の電源構成に占める自然エネルギーの割合は、シンガポールの5%未満から、カンボジア、ラオス、ミャンマーの約50~55%あり、ベトナムは太陽光の普及率で世界のトップクラスにある。洋上風力発電の開発状況は、ベトナム、フィリピン、オーストラリアにおいては、各種プロジェクトの計画発表が行われている。
中国が牽引するアジア洋上風力事業
2021年が中国における洋上風力発電プロジェクトへの補助金支給の最終年であったことから、中国は一気に多数の洋上風力発電を完成させた。2021年の洋上風力発電新設設備容量は16.9GWと、2017年から 2020年の合計9.1GWを85%上回った。
「再可能エネルギーデータベース」(RIN:Renewable IntelligenceNetwork)を基に、洋上風力発電所数を見ると、最も多いのは中国である。現在は稼働中105カ所、開発中36カ所、可能性あり128カ所、計画中・ライセンス済23カ所で、合計292カ所となっている。
2番目に多い英国(148カ所)に次いで、ベトナムが147カ所で3番目。同国は稼働中は18件と、少なく、開発中、可能性ありの数が多い。しかし外国企業からの関心も高く、可能性がある案件が87件となっている。
高まるASEANの洋上風力開発
2022年時点のASEANの風力発電容量は、ベトナムの3.5GW、タイの1.6GW、フィリピンの0.6GWの順に多い。しかし、各国の気象条件(風速)や地理(海岸線の長さ、周辺の水深)、関連政策の有無などに鑑みると、洋上風力では、特にベトナム、フィリピン、インドネシアのポテンシャルが高いという。
各国の共通課題としては、洋上風力発電設備(着床式、浮体式)の設置が周辺海域の海底ケーブル、航路、漁業区域と重なる場合、関連業界との調整が必要となることがある。開発に際しては、自然環境への配慮も新たな取り組みが必要になる。
半導体に次ぐ産業に向けて、台湾では洋上風力開発がターゲット
台湾は、洋上風力発電を半導体に次ぐ主力産業化するために、野心的な計画を掲げている。2025年までに台湾海峡に700基以上の洋上風力を設置させる。そのためには、推定200億米ドル以上の投資が必要となるため、魅力的な補助金付き金利を準備し、世界各国の洋上風力に関するリーディング企業の参加を呼びかけている。
2025年までに総発電量に占める再エネの割合を20%に、再エネ発電の設備容量を29GWに引き上げる計画を打ち出し、再エネ、天然ガス発電の拡大、火力発電の削減、脱原発を主軸としたエネルギー転換政策が推進中である。
洋上風力発電の設備容量は5.7GW以上となる見込みで、2022年末までに累計200基の風力原動機の建設が完成、2025年までに累計設備容量5.6GWを目標として、戦略的な推進を図っている。これにより、内需市場を創出し、国内サプライチェーンの技術力向上を図るとともに、洋上風力発電産業の現地化を実現し、台湾がアジア・太平洋地域の洋上風力発電産業クラスターの要となろうとしている。
政府支援で内部ニーズを拡大して関連企業を育成
台湾にはこれまで洋上風力発電開発の実績がなかったが、風力タービンシステムサプライヤー、海洋エンジニアリング会社、ケーブルメーカー、風力発電所運営などのサプライチェーン産業が急拡大している。
政府は洋上風力発電の開発を促進するために「洋上風力発電実証奨励条例」を制定した。この規制は、洋上実証用風力発電所を設置する企業に資金援助を提供するものである。実証用洋上風車の設置費用の最大50%を補助する。経済省は洋上風力発電の現地化という目標を達成するために、外国投資を誘致するために100%外資を認め、徐々に内部ニーズを拡大して地元関連企業を育成している。
日本からも大手商社をはじめ、数々の投資が進んでいる。
三井物産は、カナダの電力会社と台湾の洋上風力発電プロジェクトに参加を発表した。台湾西部の彰化県の海岸から45から70kmの範囲に73基の風車を建設することが含まれる。風力発電所が完成すれば、100万世帯に十分な電力を供給できるようになるはずだ。なお、プロジェクトには約9600億円の費用がかかると見込まれており、そのうち5400億円はカナダと日本の輸出金融機関から資金提供される。三井物産は1700億円を拠出する。
フィリピン、再エネ事業に関する外資規制を完全撤廃
フィリピンは世界有数の気候変動の影響を受けやすい国である。2022年10月に発生した台風では、洪水や土砂災害等で死者数が112人に上った。
台風以外にも、水面上昇、干ばつが発生することも多い。このような課題に対応するため、2023年度の政府予算(国家歳出プログラム)は、気候変動対策に4531億ペソ(約1兆円強)を割り当てる案が議会に提出された。マルコス大統領は気候変動対策への支出を年平均15%以上増加する意向を示しており、予算額は前年度比56.4%の増額を実施した。
注目すべきは、再エネ事業に関する外資規制を完全撤廃したことだ。従来は再エネ事業への外資の出資が40%までと制限されていたが、2019年にバイオマス発電事業、2020年に大規模な地熱発電事業について、それぞれ100%の外資参入を認め、2022年には太陽光、風力、水力及び海洋・潮力発電事業における外資の出資制限も撤廃に踏み切っている。
電源構成を2030年までに、洋上風力発電を含む再エネが占める割合を35%、2040年までに50%とする目標を打ち出しているフィリピン政府は、洋上風力発電の開発プロジェクトを実施するにあたっての申請手続きを合理化し、必要な許認可の承認を迅速化させ、洋上風力発電の開発を促進させていく狙いだ。
島国ならではの風力発電の実績
フィリピンは、大小7000以上の島からなる島国のため、洋上風力の活用ポテンシャルが高いうえに、2005年以来陸上風力発電による実績を積んできていることから、建設技術や運営面でのスキルを積んでいる。このため、洋上風力エネルギーへの取り組みへの期待値は高い。
世界銀行グループが発表した洋上風力開発のロードマップでは、フィリピンは2040年までに洋上風力によって最大21GWの電力を生成する可能性があるとしている。これは、同国の総エネルギー供給量の約21%を占めることになり、2040年までに再エネ依存度50%を掲げるフィリピン政府にとって、洋上風力への依存度は高まっている。
外資が続々参入を表明
同国における洋上風力発電事業には、すでに各国が関心を示しており、たとえば、デンマークのファンドマネージャーと総容量2GWの洋上風力エネルギー開発プロジェクトに関する3件の契約を締結したと発表している。
日本企業やスペイン企業などによる外資100%による参入計画がある。2023年には、PilipinasOffshore Wind Energy ResourceInc.(POWER)と名付けられた事 業プロジェクトに、Acen Corporation(ACEN)、The Blue Circle(TBC)、BlueFloat Energy(BlueFloat)、Citicore Renewable Energy Corp.(Citicore)、Ignis ZA Global(イグニス)、およびMarubeni Asian PowerPhilippines Corporation(丸紅)のエネルギー企業6社が連携参入した。
国内勢においても、財閥系列の再生可能エネルギー発電会社が2030年までに国内初の洋上風力発電所(発電容量約4GWを稼働する見通しを立てている。
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