東急不動産の脱炭素経営に学ぶ、企業価値を高める再エネ導入のポイント

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総合不動産デベロッパーの東急不動産は、再エネ発電所の開発やPPA(電力購入契約)などの再エネ事業を通じて、脱炭素経営と企業の付加価値の向上を両立している。価値の向上につながる脱炭素化の取り組みとはどのようなものか、再生可能エネルギー事業企画部統括部長の中原靖雄氏が講演した。※本記事は2023年9月27日開催の環境ビジネスフォーラムレポートです。

「地域共生」の企業風土を活かし再エネ事業に参入

なぜ総合不動産デベロッパーである東急不動産が再エネ事業に取り組むのか。同社は、区画整理事業として国内最大級の「あすみが丘ニュータウン(千葉県)」やパラオでの環境保全型リゾートホテルなど、国内外で自然環境と生活との調和を図るまちづくりに取り組んできた。「再エネ発電施設の開発も自然豊かで広大な土地を開発する点はまちづくりと同じ。地域共生という当社の強みが活きると考え、2014年度から再エネ事業に参入しました」と中原氏は話す。

東急不動産株式会社 戦略事業ユニット インフラ・インダストリー事業本部  再生可能エネルギー事業企画部 統括部長 中原 靖雄 氏

再エネ開発で地域の課題解決や活性化を目指す

同社の再エネ事業では「ReENE(リエネ)」というブランドを掲げ、不動産事業と同様にコンセプトやクオリティを約束している。開発した再エネの事業規模は合計1,625MW(2023年9月末時点)。一般家庭約74万世帯の電力使用量に相当する。

農業と再エネの両立に向けたソーラーシェアリングでは、2022年12月に「リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所(埼玉県)」を運転開始した。農業の効率を考慮したパネルの角度などの実証実験を行っている。再エネ導入の適地が限られる都心部では、建物の屋根上を対象としたルーフトップ事業を展開。2023年2月には、横浜市立の小中学校に太陽光発電を設置するPPA事業者に採択された。

2019年には、同社の大型風力発電の舞台である北海道松前町と「再生可能エネルギー事業の推進と地域活性化」に関する協定を締結。少子高齢化や産業衰退などの地域課題を解決するため、町とともに再エネを軸としたまちづくりに取り組んでいる。

松前町と東急不動産による「再エネによる地域活性化」に関する協定調印式(出所:東急不動産株式会社)

短期契約のオフサイトPPAも実証中

企業が脱炭素に取り組む手法には、大きく分けて「環境価値の活用」「自家消費・自己託送」「PPA(電力購入契約)」があるが、中原氏は「いずれの手法でも脱炭素化は実現できるが、長期的に考えると、初期費用が不要で安定的な電力調達が可能なPPAという手法がトータルでメリットが大きい」と説明する。

栃木県所在の民間施設においては、同社の投資で屋上に太陽光発電を設置し、発電した電気はすべて自家消費するオンサイトPPAを実施。余剰電力を出さず送電網に接続しないため、工期が約3ヶ月と比較的短期間で導入できたという。千葉県習志野市の物流施設では、広大な屋根を最大限活用してオンサイトPPAで太陽光発電を導入。発電した電気は入居テナントに直接売電することで、テナントのCO2削減に貢献している。

一方で、契約期間が15〜20年間などの長期にわたるPPAには、長期契約のリスクを懸念する声もある。そこで、前述の「リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所」では、高島屋2店舗と2025年までの短期契約によるオフサイトPPAの実証に取り組んでいる。高島屋店舗を活用したエンドユーザーへの環境取り組みの訴求など、再エネ調達によって需要家の付加価値を向上する取り組みも検討しているという。

再エネ導入は「コストではなく投資」

「再エネ導入のポイントは、関連のある地域の産品をお客様に提供するなど、対外的に付加価値を訴求すること。コストではなく投資と捉えるのが重要」と中原氏は強調する。付加価値が高まることで企業のイメージアップが図られ、安定的な電力調達やCO2削減という従来の目的を超えたメリットの創出につながる。 「需要家と力を合わせて新たな価値を創造していきたい」と中原氏は力を込める。

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