クリーン燃料証書

クリーン燃料証書とは、合成メタンやバイオガス、持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代燃料が持つCO2排出削減効果といった環境価値を燃料本体から切り離し、証書として認証・取引可能にする公的制度のこと。
2026年10月時点において、経済産業省資源エネルギー庁を中心に詳細設計が進められている。高コストな次世代燃料のグリーンプレミアムを需要家が負担・回収できる仕組みを整え、物理的な輸送・供給インフラの制約を超えて早期導入を促進することを目的としている。
クリーン燃料証書の対象燃料と取引の仕組み
クリーン燃料証書制度が対象とする燃料種は、液体燃料と気体燃料の双方にまたがる。液体燃料では持続可能な航空燃料であるSAF、水素化処理植物油(HVO)、合成ガソリンなどのe-fuelが想定され、気体燃料では合成メタン(e-methane)やバイオガスが対象となる。
取引の基本構造は、環境価値を燃料現物から切り離して移転する「ブックアンドクレーム方式」と、化石燃料から次世代燃料へ原料転換した事実を移転先に適用する「属性取引」を組み合わせた形態をとる。国内製造拠点や輸入受入地点など燃料流通の上流で認証・証書発行を行い、登録簿システム(レジストリ)を通じて取引・管理される見通しである。
二重計上の防止や国内での実質的な排出削減寄与を担保するため、制度設計では製造地から日本到達までは燃料現物の調達を求め、国内受入から最終需要家までのサプライチェーンを証書取引の対象範囲としている。
実証事業の動向と政策目標
資源エネルギー庁の「次世代燃料の導入促進に向けた官民協議会」傘下の環境整備ワーキング・グループなどを中心に、2024年から2025年にかけて制度骨子の整理や国内外の先行事例調査が実施されてきた。
2025年度から2026年度にかけては段階的な実証が進められている。国土交通省と連携したSAFの実証に加え、HVOをはじめとするSAF以外の液体燃料でのサンプル実証が開始された。気体燃料分野においても、発行から償却までの一連のプロセスを検証するため、合成メタンやバイオガスの環境価値認証・移転制度構築に向けたBIPROGYの実証事業などが採択され、制度の実現可能性検証が進展している。
政策面では、エネルギー供給構造高度化法に基づく告示において、都市ガス事業者に対して2030年度にガス供給量の1%相当の合成メタンまたはバイオガス導管注入目標が課されており、同目標の達成手段としても証書制度の活用が期待されている。
導入検討における実務上の留意点
企業の脱炭素実務において、本制度は電化による脱炭素化が困難な「ハード・トゥ・アベイト(Hard-to-abate)部門」への有力な解決策となる。航空、海運、大型トラック輸送、高温の産業熱利用など、電力由来の非化石証書では相殺できないScope 1領域の燃料起源排出量を削減する手段に位置づけられる。
算定・報告の実務では、地球温暖化対策推進法(SHK制度)やGX-ETSにおける排出削減量としての算入可否や算定ルールが現在調整中である。また、GHGプロトコルやSBTi、CDPといった国際的な算定・開示イニシアチブにおける燃料のブックアンドクレーム方式の取り扱いルールには制約が存在するため、国際動向の改定状況を確認しながら活用方法を設計する必要がある。
ガス分野には先行する民間主導の「クリーンガス証書」も存在するが、国の主導するクリーン燃料証書は液体燃料を含めた統一的な認証基盤として整備が進められている点が異なる。
参考
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 第11回 環境整備ワーキング・グループ 配布資料「クリーン燃料証書制度の検討状況及び次年度の検討の方向性」
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会「クリーン燃料証書の検討状況及び今後の方向性について」
- BIPROGY ― 合成メタン・バイオガスの環境価値を認証・移転する「クリーン燃料証書制度」の構築に向けた実証事業を受託
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