マイクログリッド

マイクログリッドとは、特定の地域や施設内にある発電設備、蓄電池、電力需要設備などをネットワークで結び、一体的に制御・運用する小規模な電力システムのこと。一般的な電力系統と接続して電力を融通する「系統連系運転」と、外部の電力系統から独立して電力を供給する「自立運転」が可能なシステムである。
太陽光発電などの再生可能エネルギー(再エネ)を地域内で有効活用できるほか、停電時の電力供給確保やエネルギーコストの削減などにも役立つ。工場や大学キャンパス、商業施設などの限定された敷地内から、住宅や公共施設を含む地域単位まで、さまざまな規模で導入される。
日本では特に、地域の再エネを活用しながら、災害時には電力系統から切り離して地域内の電力供給を継続する「地域マイクログリッド」の構築が進められている。
マイクログリッドの仕組みと主な構成要素
一般的な電力供給システムは、大規模な発電所で発電した電力を送配電網を通じて各需要家へ届ける仕組みを基本としている。これに対してマイクログリッドは、電力を消費する場所の近くにある分散型電源を活用し、一定の範囲内で電力の供給と消費を一体的に管理する。
その中心となるのが、分散型エネルギーリソース(DER)とエネルギーマネジメントシステム(EMS)である。DERには太陽光発電などの電源だけでなく、蓄電池や電力需要を調整できる設備も含まれる。EMSは各設備の運転状況や電力需要、発電量などを監視・制御し、需給バランスを調整する役割を担う。
マイクログリッドを構成する主な設備・機能には、以下のようなものがある。
- 電源設備:太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、小水力発電、コージェネレーションシステム(CHP)など。地域や施設の条件に応じて組み合わせる。
- 需給調整設備:蓄電池や、EV(電気自動車)の電力を建物などへ供給するV2X設備など。再エネの出力変動を吸収し、電力供給と需要の差を調整する。
- 制御・通信設備:EMS、電力計測機器、通信ネットワークなど。発電・蓄電・消費の状況を把握し、各設備の運転を統合的に制御する。
- 配電・保護設備:電力を需要家に届ける配電線、開閉器、保護継電器、系統から切り離すための遮断装置など。系統連系運転と自立運転の切り替えにも関わる。
- 需要設備:工場、オフィスビル、公共施設、住宅、病院など。電力供給先としてだけでなく、設備によっては電力消費量を調整する機能も担う。
なお、マイクログリッドは必ずしも再エネだけで構成されるものではない。非常時の安定供給を目的として、ガスエンジン発電設備などを組み合わせる場合もある。
平常時の系統連系運転と、停電時の自立運転
電力系統に接続されたマイクログリッドでは、平常時は外部の電力系統から電力を購入したり、地域内の発電設備から電力を供給したりしながら、需要に応じた電力利用を行う。再エネの発電量が多い時間帯には地域内での消費や蓄電池への充電を優先し、発電量が不足する時間帯には系統から電力を受けるなどの運用が可能となる。
一方、大規模災害などで外部の電力系統が停電した場合には、マイクログリッドの対象エリアを系統から切り離す「解列」を行い、エリア内の発電設備や蓄電池による自立運転に切り替える。これにより、外部の送配電網が復旧するまでの間も、一定範囲の需要家へ電力を供給できる。
ただし、太陽光発電設備や蓄電池を設置するだけで、自動的にマイクログリッドとして自立運転できるわけではない。一般的な系統連系型の太陽光発電設備は、系統停電時には安全確保のため運転を停止する。自立運転を実現するには、電圧・周波数を維持するための電源や制御機能、適切な保護設備などが必要となる。
また、自立運転中に供給できる電力量は、発電設備の出力や蓄電池の容量などによって制限される。このため、非常時には病院や避難所など重要施設への給電を優先し、その他の電力需要を制限する運用も想定される。
地域マイクログリッドとは?一般的なマイクログリッドとの違い
地域マイクログリッドとは、マイクログリッドの仕組みを地域単位のエネルギー供給に応用したもので、特に再エネの地産地消や災害時の電力確保を重視したシステムを指す。
経済産業省・資源エネルギー庁が2021年4月に公表した「地域マイクログリッド構築のてびき」では、地域マイクログリッドを「平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による大規模停電時には自立して電力を供給できるエネルギーシステム」と定義している。
一般的な「マイクログリッド」は、工場や大学などの施設内に構築されるものも含む幅広い概念である。一方、日本の政策で用いられる「地域マイクログリッド」は、既存の配電網を活用し、一般送配電事業者と地域の事業者・自治体などが連携して、非常時に地域の電力供給を確保するモデルを中心としている。
地域マイクログリッドの主な導入目的は、次の3点に整理できる。
- 災害時の電力供給確保:外部の電力系統が停電しても、地域内の電源を使って避難所や公共施設、住宅などへ電力を供給し、地域のレジリエンス(災害への対応・回復力)を向上させる。
- 再エネの地産地消と脱炭素化:地域にある太陽光発電や小水力発電などを地域内で消費し、再エネの利用拡大や温室効果ガス排出量の削減につなげる。
- 地域経済の活性化:地域内で生産したエネルギーを活用することで、エネルギー関連費用の域外流出を抑え、地域エネルギー事業の創出や関連産業の育成につなげる。
特に山間部、半島部、離島などでは、災害時に外部からの送電が途絶えると停電が長期化するおそれがある。このような地域では、分散型電源と蓄電池を活用して一定の電力供給を維持する仕組みとして、地域マイクログリッドの導入が期待される。
系統線活用型と自営線型の違い
マイクログリッドを地域や複数の施設にまたがって構築する場合、電源と需要設備をどのような配電インフラで接続するかが重要となる。主な方法として、既存の一般送配電事業者の配電線を活用する方式と、事業者などが独自に配電線を敷設する方式がある。
系統線活用型:既存の配電網を利用する方式
系統線活用型は、一般送配電事業者が保有・運用する既存の配電網を利用し、地域内の分散型電源と需要設備を連携させる方式である。
新たな配電線の敷設を最小限に抑えられるため、初期投資や工事負担を軽減できる可能性がある。経済産業省が推進してきた地域マイクログリッドも、この方式を中心としている。
ただし、既存の配電網は通常、広域の電力系統と連携して運用されている。そのため、災害時に特定エリアだけを安全に切り離して自立運転させるには、一般送配電事業者との協議が不可欠となる。解列箇所や保護装置、停電復旧時の再接続手順、運用責任の分担などについて、詳細な検討が必要である。
自営線型:独自の配電線で施設や電源を結ぶ方式
自営線型は、民間事業者や自治体などが独自に敷設する電線(自営線)を使い、複数の需要施設と発電設備、蓄電池などを接続する方式である。
一般送配電事業者の配電網を経由せずに地域内の電源と需要設備を直接結べるため、既存系統への逆潮流が難しい地域でも、再エネを地域内で活用する手段となる。また、自営線の範囲内で電力を融通できることから、工業団地や公共施設群などでの導入も想定される。
一方で、電線の新設に伴う初期投資や、用地・道路占用などの調整、設備の保守管理費用などが課題となる。一般送配電系統とも接続する場合には、系統連系に関する技術要件や保安上の調整も必要となる。
なお、両方式はマイクログリッドの配電インフラに着目した分類であり、必ずしも「地域マイクログリッド」という政策用語の内部区分と一致するわけではない。経済産業省の地域マイクログリッド構築支援では既存系統線の活用が重視されてきた一方、環境省は「自営線マイクログリッド」として、独自の配電網を活用した再エネの地産地消モデルを推進している。
関連制度と国の支援事業
日本では、地域の再エネ導入拡大と電力供給の強靱化を目的として、経済産業省や環境省がマイクログリッドの導入支援に取り組んできた。
経済産業省は、地域マイクログリッドの計画策定や設備構築を支援する事業を実施してきたほか、「配電事業等の参入を見据えた地域独立系統の構築支援事業」などを通じて、地域の分散型電源や配電網を活用する取り組みを後押ししてきた。
一方、環境省も、地域における再エネの地産地消や防災力強化の観点から、自営線マイクログリッドの普及を推進している。2026年2月には「地域の再エネを活用した地産地消の自営線マイクログリッドのはじめかたガイド」を改訂し、設備構成、導入手順、事業性の評価方法、導入事例などを紹介している。
こうしたシステムは、地域単位の脱炭素化を進める脱炭素先行地域などでも活用が考えられる。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画でも、地域と共生した再エネ導入や、分散型エネルギーリソースの活用、災害時のレジリエンス向上などが重要な政策課題として位置づけられている。
配電事業ライセンス制度との関係
地域分散型の電力供給に関連する制度として、2022年4月に開始された「配電事業ライセンス制度」がある。
これは、一般送配電事業者とは別の事業者が、特定地域の配電網を維持・運用し、託送供給などを行うことを可能にした制度である。従来は一般送配電事業者が担っていた配電網の運用に、地域の事業者などが参入できる仕組みとして導入された。
ただし、配電事業と地域マイクログリッド事業は同じものではない。経済産業省の整理では、地域マイクログリッド事業は、平常時の系統運用を一般送配電事業者が担い、災害時には関係事業者が連携して自立的な電力供給を行うモデルを基本とする。
これに対して配電事業は、ライセンスを取得した配電事業者自身が、対象地域の配電網を継続的に維持・運用する仕組みである。配電事業者が分散型電源を活用したマイクログリッドを運営することも考えられるが、地域マイクログリッドを構築するために、必ず配電事業ライセンスが必要になるわけではない。
マイクログリッドの導入事例:静岡市・清水港日の出地区
地域マイクログリッドの具体的な導入事例の一つが、静岡県静岡市清水区の清水港日の出地区で構築された「日の出地域マイクログリッド」である。
電源開発(Jパワー)、鈴与商事、鈴与電力、静岡県、静岡市、中部電力パワーグリッドの6者が連携して構築したもので、太陽光発電設備、大型蓄電池、EMSを組み合わせて地域内の電力供給を管理する。
同地区では、太陽光発電設備(3地点合計で直流出力1008kW)と、出力1950kW・容量5484kWhの系統用大型蓄電池を導入。平常時は再エネの地産地消を促進し、台風などによる長期停電時には、中部電力パワーグリッドの配電系統から切り離して自立的に電力を供給する。
2026年2月15日には、対象エリアの約半分を実際に系統から切り離す発動試験を実施した。太陽光発電設備と大型蓄電池を用いた自立運転により、約3時間にわたって23件の需要家へ電力を供給できることを確認した。
対象エリアには防災施設の清水マリンビルも含まれており、災害時には給電スポットとして開放することが想定されている。この取り組みは、地域の電力供給確保と再エネ活用の両立を目指す事例といえる。
マイクログリッドの普及・事業化に向けた課題
マイクログリッドは再エネの有効利用や災害対策に役立つ一方、導入・運用には技術面、制度面、経済面の課題がある。特に地域マイクログリッドでは、複数の事業者や自治体、需要家が関わるため、設備の設計だけでなく事業全体の運営体制を構築する必要がある。
平常時の収益性と非常時の防災価値をどう両立するか
最大の課題の一つは、設備投資に見合う事業採算性の確保である。
マイクログリッドには蓄電池やEMS、保護・制御設備などの導入費用がかかる。ところが、非常時の自立運転は災害などの発生時に限定されるため、防災機能だけでは投資回収が難しい場合がある。
そのため、平常時にも複数の用途で設備を活用する「マルチユース」が重要となる。具体的には、再エネの自家消費による電力購入費の削減や、ピーク需要の抑制、デマンドレスポンス(DR)への参加、電力市場での取引などが考えられる。
ただし、DRや市場取引から収益を得るには、設備側の技術要件に加え、契約条件や市場参加要件を満たす必要がある。また、非常時に使用するための蓄電池残量を確保するなど、防災機能と平常時の収益機会との調整も求められる。
自立運転時の安全確保と系統復帰
技術面では、外部系統から切り離した際に、マイクログリッド内の電圧と周波数を安定させることが重要となる。太陽光発電など天候によって出力が変動する電源を多く導入する場合には、蓄電池やその他の調整可能な電源を組み合わせ、需要と供給のバランスを維持しなければならない。
また、系統線活用型では、停電した配電網の作業区間などに意図せず電圧がかかることを防ぐため、解列箇所の管理や保護協調が不可欠となる。外部系統の復旧後には、電圧・周波数・位相などの条件を確認し、安全に再接続する仕組みも必要である。
自立運転を開始する際の起動手順、設備故障時の対応、定期的な発動訓練、保安管理体制の整備なども重要な検討事項となる。
地域の関係者との合意形成と運用体制
地域マイクログリッドでは、自治体、一般送配電事業者、発電事業者、設備所有者、需要家など、複数の関係者が協力する必要がある。
特に、災害時にどの施設へ優先的に給電するか、供給可能な電力が不足した場合にどの需要を制限するか、設備の維持費や更新費用を誰が負担するかなど、運用上のルールをあらかじめ決めておくことが重要となる。
また、自治体の地域防災計画との整合性を確保し、非常時の運用責任者や連絡体制を明確にすることも求められる。
マイクログリッドの普及には、災害時の電力供給という公共的価値と、平常時の経済的価値を両立させる事業モデルの確立が欠かせない。今後は、再エネや蓄電池の普及に加え、高度な制御技術の活用や地域事業者間の連携を通じて、地域特性に合った持続可能な電力供給システムを構築していくことが重要となる。
参考
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 地域マイクログリッド構築のてびき(2021年4月)
- 環境省 ― 地域の再エネを活用した地産地消の自営線マイクログリッドのはじめかたガイド(2026年2月改訂)
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― エネルギー白書2025 第2部第3章第2節 再生可能エネルギーの長期電源化に向けた取組
- 経済産業省 ― 令和3年度 産業保安等技術基準策定研究開発等事業報告書(地域マイクログリッド事業と配電事業の比較を含む)
- 米国エネルギー省(DOE) ― Microgrid Systems
- 鈴与商事・電源開発 ― 清水港 日の出地域マイクログリッド発動試験の実施について(2026年3月9日)
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