排出量取引、26年度に本稼働へ CO2賦課金は28年度めど 経産省案

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経済産業省は12月14日、企業などに対してCO2排出量に応じたコスト負担を求めるカーボンプライシング(CP)について、導入時期や制度設計などの具体策(案)を示した。多排出産業などにCO2排出量の限度を設定し、排出削減分を取引する「排出量取引制度」については、2026年度頃から本稼働させる方針だ。

また、化石燃料ごとのCO2排出量に応じて、化石燃料輸入事業者等が賦課金を支払う制度を2028年度頃から導入する。賦課金は当初低い負担で導入し、徐々に引き上げていく。さらに、排出量取引では、2033年度頃から発電事業者に対し、EU等と同様の「有償オークション」を段階的に導入していく。

「成長志向型CP構想」で炭素に対する賦課金・排出量取引制度を導入

(出所:経済産業省)
(出所:経済産業省)

同日開催した審議会で、将来導入するCPの段階的発展(案)などを提示した。

政府は今後10年で、150兆円の官民によるGX(グリーントランスフォーメーション)投資を引き出すことを成長戦略の柱としている。

そのために、先行投資支援と将来のCP導入を予め示すことで脱炭素投資を引き出す「成長志向型CP構想」を打ち出している。CPについては、「炭素に対する賦課金」と「排出量取引制度」を導入する。また、CP導入の結果として得られる将来の財源を裏付けとした「GX経済移行債(仮称)」を発行し、これにより、大胆な先行投資支援することとしている。

制度設計(案)で示された方向性の概要は以下の通り。

化石燃料輸入事業者等にGXサーチャージを導入

「炭素に対する賦課金(GXサーチャージ)」は、化石燃料の輸入事業者等を対象に導入する。代替技術の有無や国際競争力への影響を踏まえ、直ちに導入するのではなく、GXに取り組む期間を設けた後に導入する。具体的には、今後10年間で150兆円超のGX投資を実現していく中で、前半5年間、GXに集中的に取り組む期間を設け、その間にGX進展により石油石炭税に係る負担が減少していくこと等を踏まえて、2028年度頃を目途に導入する。負担水準などは、最初は低い負担で導入し、徐々に引き上げることとする。

この制度の導入に向けて、CO2排出の実績測定・検証・追跡等を可能とする、いわゆるカーボン・フット・プリントの実現に向けた取組や検討も必要だと指摘している。

成長志向型カーボンプライシングの中長期的イメージ

「成長志向型CP」に係る新たな制度は、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入することを基本とする。そのために、同一の主体が、「排出量取引制度」と「炭素に対する賦課金」を一体的に運用していくことが求められる。

エネルギーに係る負担としては、例えば、石油石炭税や、再エネ賦課金などがあげられる。 石油石炭税については、今後、GXの進展により、負担総額が減少していくことが想定される。再エネ賦課金についても、再エネ電気の買取価格の低下等により、ピークを迎えた後に総額が減少していく。発電事業者に対する「有償オークション」は、その後から段階的に導入していくことを想定している。

(出所:経済産業省)
(出所:経済産業省)

3つのフェーズで排出量取引を段階的に発展

排出量取引の段階的発展のイメージ(出所:経済産業省)
排出量取引の段階的発展のイメージ(出所:経済産業省)

排出量取引(GX-ETS)は、試行段階の第1フェーズ(2023年度~) 、排出量取引市場の本格稼働する第2フェーズ(2026年度頃~)、さらなる発展を目指す第3フェーズ(2033年度頃~)の3つのフェーズで、段階的発展させていく。

第1フェーズ

第1フェーズでは、GXに積極的に取り組む企業等による「GXリーグ」を2023年度から開始する。企業が自主設定・ 開示する削減目標達成に向け、排出量取引を導入し、発展させていく。

GXリーグは、カーボンニュートラルへの移行に向けた挑戦を果敢に行い、リーダーシップを発揮する企業群が、GXを牽引する枠組みで、既に日本のCO2排出量の4割以上を構成する約600社が賛同している。この枠組みの下で成長と排出削減に果敢に取り組む多排出企業に対しては、「GX経済移行債(仮称)」による支援策のあり方を含めた検討していく。

企業毎の状況を踏まえた野心的な削減目標に基づく排出量取引市場の本格稼働を見据え、2023年度からの試行においては、国・参画企業が連携し、必要なデータ収集や知見・ノウハウ蓄積、政府指針の検討等を行う。また、制度 に係る各種実務を円滑に進め、中長期に渡り制度を安定的に運営するための公的主体についても検討が必要だとしている。

第2フェーズ

第2フェーズでは、(1)政府指針を策定した上で、 企業が設定した目標が指針に合致しているか等を民間第三者機関が認証する仕組みを導入し、目標からの超過削減分を取引対象とするとともに、(2)制度濫用者に対する指導監督等の規律強化を検討する。

第3フェーズ

GX-ETSの発展形として、発電部門について、段階的な有償化を先行させることを予め明確化する。具体的には、2033年度頃から発電部門について段階的な有償化(オークション)を導入する。その際、排出枠の価格を上昇基調に誘導することと併せて、有償比率の引き上げの道筋を示しつつ、制度の効果や負担の状況等を踏まえ、有償比率について一定の見直しができるようにすることを検討する。

なお、発電部門は、専ら売電の用に供する事業者を想定。詳細については、排出量取引を発展させていく中で検討を行う。

第3フェーズの開始前後から、発電部門は排出には同量の排出枠が必要とした上で、政府がまず排出枠を無償交付することを検討する。無償交付する排出枠の量は、排出量の見通しや発電効率(ベンチマーク)等を基礎に、企業のGXの移行状況等を踏まえ算定する。こうした制度発展に向けて、制度間の重複等を排除するため、既存の高度化法等との関係整理も必要だとしている。

参考としたEU等の「有償オークション」

EU等と同様の「有償オークション」を導入することとしており、参考として、EUや諸外国の排出量取引制度について紹介している。

EUの排出量取引制度では、大規模排出者に参加義務づけている。排出権(排出量)総量に上限を設け段階的に引き下げるもので、排出権の割当方法は、業種ごとに代替手段の有無や貿易集約度等の状況を踏まえて区別している。発電部門については、再エネ・原子力等の代替手段が存在し、かつ非貿易財であることから、2013年より (制度開始から8年後)、全量有償オークションによる割当を行っている。オークションによる政府歳入は毎年約2兆円となっている。また、排出権の余剰を抱える事業者が、不足する事業者に排出権を売却するなど、市場で排出権取引を実施している。

「排出権」の交付方式 【イメージ図】(出所:経済産業省)
「排出権」の交付方式 【イメージ図】(出所:経済産業省)

諸外国の排出量取引制度では、一定規模以上の排出事業者に、排出に応じた排出枠の調達を義務付けた上で、政府は排出枠を(1)オークション販売(有償オークション)、(2)対象施設ごとに、過去の実績や生産活動の効率性等を踏まえ、無償で交付(無償割当)、の手法で排出事業者に交付する。

全体の排出枠総量を減少させつつ、企業間で排出枠の過不足を取引することで、社会全体として費用効率的に削減を進めるものだ。

諸外国における排出量取引制度 イメージ(出所:経済産業省)
諸外国における排出量取引制度 イメージ(出所:経済産業省)

予見可能性を高め、企業投資を促進

排出量取引制度では、市場価格が過度に変動すると、カーボンプライスとしての予見可能性が低下するのが課題となる。そこで、諸外国の事例も踏まえ、取引価格の価格帯を予め定め、かつ長期的に上昇させることを示すことで、予見可能性を高め、企業投資を促進する案を示した。

これらの水準(上限・下限価格)を定める際は、価格水準がGX移行に向けて行動変容を促す効果や、カーボン・クレジット市場での取引価格(来年度からの市場創設を目指し、現在、東京証券取引所で実証中)、国際的な炭素価格等も踏まえ、排出量取引市場が本格稼働する2026年度以降に設定する。その際は、予見性を高めるため、5年程度の価格上昇の見通しを定めつつ、経済情勢の変動等を踏まえ、一定の見直しが可能とすることとしている。

市場価格安定化措置のイメージ(出所:経済産業省)
市場価格安定化措置のイメージ(出所:経済産業省)

【参考】

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