「地球が唯一の株主」 理想で終わらせないパタゴニアの本気度(後編)

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ここ数年で企業の経営における環境に対する意識は飛躍的に向上している。特に欧米企業はその動きを大きく牽引しているが、なかでも「パタゴニア」「Faith in Nature」は世界を驚かすような環境経営を実践する。ジャーナリストの栗田 路子氏が同社の取り組みを紹介する。(前編はこちら)

取締役会に「自然」を座らせた化粧品会社

2022年9月23日、パタゴニアの英断とほぼ同じ頃、大西洋の反対側では、「自然」を正式な取締役のひとりに任命した企業があった。Faith in Nature(フェイテゥ・イン・ネイチャー)、つまり、「自然信仰」あるいは「自然への信頼」というその名のとおり、『自然』を中心に据えた英国の化粧品会社だ。「自然」は常に同社の「マントラ」であった――。だが、実際のところ、口先だけでなく、どうしたら本気で「自然」を企業経営上の中心にできるのかを、1年以上かけて模索してきたのだという。

筆者は、欧州で昨今、環境本位を本格化することがいかに規制当局に強く求められ、社会、投資家、消費者に重視されているかをよく知っている。たとえば、化粧品大手のロレアル、トイレタリー大手のユニリーバやP&Gなどでも、また、スタートアップやベンチャー企業でも、小手先のやってるフリでは済まされない徹底したグリーン化を打ち出さなければ、ビジネスとして成立しなくなっている。化粧品分野の先駆的「エコブランド」としてリーダー役を担ってきた「フェイテゥ・イン・ネイチャー※」が、こうした流れのなかで、他と明確に差別化するために、会社経営のなかに正式に「自然」を位置付けようとするのは当然の帰結かもしれない。

同社も、パタゴニアとほとんど同じ1974年、英国に設立された。創始者のリヴカ・ローズ氏は、カリフォルニア出身のアロマセラピストだ。当時、自然志向のスキンケアやヘアケア製品が英国に存在しなかったことに気づいたローズ氏が自ら立ち上げたのは、自然素材ベースで効果の高い、ヴィーガン化粧品・トイレタリーブランドだった。日本ではまだまだ意識する消費者は少ない「クルエルティ・フリー(動物実験をしていない)」、や「パラベン(防腐剤)やラウリル硫酸(SLS)を用いない」も最初から前面に打ち出された。大手企業ではありがちな「グリーンウォッシュ」的賢いマーケティングに終わらない徹底ぶりだ。

だが、同社のもうひとつのモットーは、「手頃な価格」でもある。いくら自然志向・環境志向を徹底させたくても、ビジネスとして成立させるには、妥協が必要なことはビジネスの常だ。でも、そんなとき、「自然」はなんというだろう。「自然」を企業理念の中心に置く同社にとって、経営判断を行う取締役会に「自然」を座らせて、その利害を充分組み込んだ決定をすべきだと考えるに至ったのだ。

※カタカナにすると「フェイス・イン・ネイチャー」だが、フェイス=顔と間違えられてしまいそうなので、あえて、フェイテゥ・イン・ネイチャーと表記する。

法的人格のない「自然」をどうやって?

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