サステナビリティ推進

サステナ推進担当者座談会 社内浸透どう進める? (前編)

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企業が持続的に成長していくためには、経営の中核にサステナビリティを据えることが求められている。そこで、環境ビジネスは今回、企業のサステナビリティ戦略を牽引するキーパーソンたちを集め、経験を共有する座談会を開催。企業が直面する課題や取り組みの成果を持ち寄りながら、サステナビリティの社内浸透を中心に、経営層との連携、社内イベントの活用といったテーマについて議論を展開した。

経営へのアプローチや社内浸透における課題とは?

NTTデータグループ 立開 さやか氏(以下、立開):私は約15年前からSBTの2040年目標設定、CO2削減、TCFD対応など、気候変動対策に重点的に取り組んできました。現在、当社の社員数はグローバルも含めると約20万人にのぼりますが、その中で唯一「サステナビリティ・エバンジェリスト」を拝命しています。

NTTデータグループ コーポレート統括本部
NTTデータグループ コーポレート統括本部 サステナビリティ経営推進部 グリーンイノベーション推進室 サステナビリティ・エバンジェリスト 立開 さやか氏

住友重機械工業 小川 陽子氏(以下、小川):社内に、そのような資格があるのですか?

立開:はい、キャリアステップの一環として、ある一定の社外資格を取得した上で面談などの審査を経て、合格すると認定されます。具体的な業務内容としては、グローバル全体のCO2削減戦略を策定したり、外部の最新情報を社内に展開したり、お客さまとの打ち合わせの場に同席して自社の成功事例を共有したりしています。サステナビリティを企業経営にどう組み込むか、そして社内浸透をどのレベルまで進められるかが悩みどころです。皆さんは、どのような取り組みや工夫をされていますか?

住友重機械工業企画本部サステナビリティ推進部主査小川陽子氏
住友重機械工業 企画本部 サステナビリティ推進部 主査 小川 陽子氏

電通グループ 吉澤 庸子氏(以下、吉澤):当社でも、サステナビリティの浸透は課題です。当社のグローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー(GSusO)は、元々マーケティングのバックグラウンドがあるため戦略の「伝わる速度」や「どうすれば効果的に伝えられるか」に対する感度が高く、それらをわかりやすく伝えるためのキャッチフレーズをつけて、社内浸透を図るなどの工夫をしています。

また、たとえば世界経済フォーラム主催のダボス会議に参加した後には、電通グループの国内事業を担うdentsu JapanのCEOとGSusOに対談形式で「世界の変化をどう感じたか」「それが会社にとって、どんな意味があるのか」を社員に自身の言葉で発信してもらいました。経営トップがサステナビリティ戦略について語る機会を増やすことで、普段は忙しくてセミナーに参加できない営業職やマーケティング職の社員も、「社長が話しているなら聞いてみよう」と関心を持つきっかけになっています。

電通グループグループサステナビリティオフィスチームリーダー吉澤庸子氏
電通グループグループ サステナビリティオフィス チームリーダー 吉澤 庸子氏

DM三井製糖 大久保 直子氏(以下、大久保):当社は2022年に、「スプーン印」の三井製糖と「バラ印」の大日本明治製糖が合併し、誕生した会社です。合併直前の経営統合時、グループ全体のサステナビリティ戦略を推進するために、サステナビリティ推進室が発足しました。

この推進室のメンバーは、私も含めてほぼ全員が、自ら手を挙げる社内公募によって選ばれました。工場、営業、生産部門、システム担当など、多様な部署から参画しており、それぞれが専門知識を活かしながら活動しています。主務業務が7割、サステナ業務が3割の割合です。応募に際して上長の承認は不要で、正社員、契約社員、派遣社員など雇用形態の制限もありません。熱意のあるメンバーが集まったことで、効果的なシナジーを生むことができました。それに加えて、自分の部署に持ちかえりサステナに対する熱意の裾野を広げようと、自ら活動しています。

今年度からは、より専門的に、そしてフィジカルに運営を行うために、拠点となる事業部の課長クラスに兼務の発令がありました。

いろいろな施策を実施していますが、まずはトップの強い意思と、それを迅速に実行するための機動力がポイントとして挙げられると思います。

DM三井製糖広報室スペシャリスト兼サステナビリティ推進室副室長大久保直子氏
DM三井製糖 広報室 スペシャリスト兼サステナビリティ推進室副室長 大久保 直子氏

ヤマト運輸 秋山 佳子氏(以下、秋山):当社では2021年にサステナビリティ推進部を設置し、最初の3カ年計画「サステナブル中期計画2023環境・社会」を軸に、ガバナンス体制の強化に取り組みました。環境と社会の領域を分け、それぞれに専門の委員会を設置。社長を委員長とする体制のもと、具体的な施策の策定と事業への落とし込みを進めています。各部会では、関係の深い役員を部会長に選任し、その下に部長、課長クラスが参加する形で、事業への組み込みと「自分ごと化」を促し、様々な施策を通じてサステナビリティの浸透を図っています。

また、社員にサステナビリティを浸透させるため、全国に約300名の「サステナアンバサダー」を選任しています。サステナアンバサダーは、各地域で推薦を受けた社員がインフルエンサーとして、周囲の社員を巻き込みながら、地域のために何ができるのかを自ら考え、行動しています。サステナアンバサダーは、年間9回開催される「サステナカフェ」というオンライン勉強会に参加し、サステナビリティに関する事例や最新のトレンドを学びながら、意見交換や活動報告を行っています。社外から講師を招いて社内浸透のノウハウや成功事例について学ぶ回も設けています。

ヤマト運輸 サステナビリティ推進部長秋山佳子氏
ヤマト運輸 サステナビリティ推進部長 秋山 佳子氏

小川:私たちは、他部署からの問い合わせやヘルプに対して、真伨に対応することを心がけています。たとえば、CO2データを持つ部門と、問い合わせを受ける部門が異なることがあり、情報の所在が分かりづらいことがあります。そこで、他部署との円滑な関係を築くために問い合わせには迅速かつ丁寧に対応することで、社内の連携をスムーズに進めています。

社内への浸透には当社も苦労しています。若手社員は学校教育を通じてサステナビリティの知識があるため、「サステナネイティブ」とも言えるほど理解が深いです。一方で、経営層にとってはまだ新しい概念が多く、TCFDやTNFD、SBTなどの略語に対する苦手意識もあるため、丁寧に説明しながら理解を広げる工夫をしています。

多忙なミドル層や低関心層に情報をどう伝えるかがカギ

大久保:当社では、経営層と若手社員はサステナビリティへの関心が高く、モチベーションが高い一方で、忙しいミドル層の参画が悩みです。今年度、課長クラスに兼務を発令し、サステナビリティ経営推進の全社的な取り組みを進めたところです。

小川:今年1月に、カーボンニュートラルを経営戦略に組み込むためのプロジェクトを立ち上げました。EUでは2024年に「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令」が発効されるなど、経営に影響を与える大きな動きがいくつもあります。これらに対応するため、社内イントラネットに情報発信サイトを作成し、一元的に最新情報を届けられるよう、整備を進めているところです。こうした仕組みを活用しながら、社員の理解を深めていきたいと、試行錯誤しながら取り組んでいます。

立開:情報が必要なときに見られる「アクセス性」は大切ですよね。私たちは情報発信の際に「アクセス性」とともに、コンスタントに伝える「定期性」、フィードバックや質問にお答えする「双方向性・相互性」、そしてデータドリブンによる「信頼性」の4つのポイントを大事にしています。

社内では、たとえば月次でセミナーを開催していますが、積極的に参加する層と関心が低い層との間にギャップがあります。そのため、定期的な情報発信や時間が合わず参加できない方のためのセミナー動画・最新情報の一元化、そして「この人に聞けばいい」と思える専門家の認知向上などを意識して取り組み、その後で少しずつ現場の事業部の自立自走を進めていくというような形をとっています。

吉澤:セミナーを行っているということですが、ぜひ、どんなテーマを取り扱っているのか詳しく教えていただきたいです。

立開:基本的には、環境関連と社会関連のテーマを交互に取り上げています。オンライン会議ツールを活用し、1時間ほど、午後の時間帯に開催しています。

構成としては、前半は業界動向や最新の取り組みを専門家や社内コンサルタントが解説するインプットを中心としています。後半は、事業部やソリューション関連の取り組みを紹介する時間です。特に最近人気があったテーマは、IT機器のリユースに関する新しい仕組みの導入に関する講演でした。社内のあらゆるプロジェクトで使用済みのIT機器が発生するため、多くの社員が関心を持ちました。また、サステナビリティ経営推進部長、インクルーシブソサエティ推進室長、グリーンイノベーション推進室長が今年度の方向性について講演し、従業員にNTT DATAが取り組む施策について紹介する会も行いました。

秋山:参加者はどのような層が多いですか?

立開:参加者は100〜150名程度で、管理職層もいれば、若手やグループ会社の人もいます。どこか特定の層に偏ることはありませんが、講演者の組織のメンバーが関心を持って聞きに来てくださるケースはありますね。

吉澤:当社も1年ほど前から、月1回のセミナーを行っています。開催当初は900人くらい参加者がいましたが、今は500人程度で維持しています。普段参加していない層に興味を持ってもらうため、どんなテーマをどう扱うとよいのか毎回考えています。組織票という考え方は、とても参考になります。

立開:そうですね。環境関連のテーマだけでなく、最近は社会課題にも焦点を当てるようにシフトしています。「人権」や「ワークスタイル」など、自分たちにより身近なテーマにすることで、関心を持つきっかけを増やすことができると感じています。

(後編に続く)

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