サステナビリティ推進

サステナ推進担当者座談会 社内浸透どう進める? (後編)

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企業が持続的に成長していくためには、経営の中核にサステナビリティを据えることが求められている。そこで、環境ビジネスは今回、企業のサステナビリティ戦略を牽引するキーパーソンたちを集め、経験を共有する座談会を開催。企業が直面する課題や取り組みの成果を持ち寄りながら、サステナビリティの社内浸透を中心に、経営層との連携、社内イベントの活用といったテーマについて議論を展開した。(前編はこちら

社員参加型イベントを開催し課題を身近に感じてもらう

ヤマト運輸 秋山 佳子氏(以下、秋山):社員参加という意味では、セミナーに限らず、イベントの開催も効果がありそうです。

DM三井製糖 大久保 直子氏(以下、大久保):当社のメイン商材は砂糖で、和菓子業界とも深い関係があります。そこで、業界を応援するために髙島屋のカリスマ和菓子バイヤーの方と、代表取締役社長が全国和菓子協会の会長である榮太樓總本鋪よりご助言と支援を受けて、本社の中庭で「和菓子縁日」というイベントを開催しました。全国47都道府県の和菓子を販売するこのイベントでは、本店限定で販売されている、通常は2時間並ばないと購入できないようなお菓子あるいは貴重な和菓子を単品で購入ができたこともあり、大盛況となりました。

これまで当社が主催した11回の開催では、サステナビリティ推進室のメンバー全員が、呼び込みやレジ対応、袋詰めなどを担当し、さらに、色鮮やかなデザインの法被をオーダーメイドで用意しました。のぼりを立て、テントを設置するなど、準備にも力を入れました。

最初は、「何か変わったことをやっているな」と思われていましたが、次第に「参加したい」と言ってくれる社員が増え、役員が法被を着て呼び込みをしたり、本部長クラスの方々が協力してくれたりするようになりました。結果的にミドル層や若手社員も自然と加わり、みんなで汗を流しながらイベントを盛り上げたことで、社内の結束力が高まり、思いがけないインナー効果が生まれました。

住友重機械工業 小川 陽子氏(以下、小川):社内公募の話もそうですが、もともと社員が積極的に参加する企業風土があるのでしょうか?

大久保:皆さんの会社に比べると規模がコンパクトであり、本社スタッフの人数もそれほど多くないという点もあるかもしれません。

サステナビリティ活動においても、たとえば千葉工場の有志の社員が集まり、サステナビリティや気候変動に関する勉強会を開いたり、九十九里浜の海岸清掃を行ったりと、自主的な動きが広がったのには驚きました。

社員の理解を深めるため、さまざまなイベントを行うようにしています。たとえば、ダイバーシティ・インクルージョン(D&I)研修ではワークショップ形式で学びを深め、国際女性デーには女性執行役員によるオンラインのトークセッションを実施したりしています。

さらに、一昨年度には本社の全部署を対象に「ラウンドテーブル」を行いました。これはいわば「ローラー作戦」のようなもので、各部署を回りながらサステナビリティについての対話を重ねました。最初は「SDGsって何だっけ?」という状態で、話題はエコバッグやマイボトルなどの身近な取り組みが中心となりましたが、次第に「自分の業務の中にサステナビリティをどう取り入れるか?」といった視点が芽生えていきました。

従業員エンゲージメントと一人ひとりの幸福度に着目

大久保:サステナビリティの推進においては、社員のエンゲージメントを高めることも非常に大きな役割だと思います。皆さんはどのような取り組みをしていますか?

NTTデータグループ 立開 さやか氏(以下、立開):社員の意識を把握するために定期的にアンケートを実施し、結果を社員へフィードバックしています。また、管理職が自分のチームと全社のデータを比較し、傾向をつかんだりするのに活用しています。

秋山:サステナビリティの観点から「マテリアリティ(重要課題)」を特定し、KPIを設定して取り組んでいます。その中で「労働」については社員が生き生きと活躍できる職場環境づくりを取り組みテーマとして、社員のエンゲージメント向上をKPIの一つとして定め、組織の活性化を図っています。これまで社員意識調査は年1回でしたが、2024年からは2回に増やしています。社員エンゲージメント向上のため、職場での円滑なコミュニケーションによる相互理解、多様な考え方、価値観を尊重する職場づくりを目指して、「職場ディスカッション」や社員意識調査の結果を活用した改善サイクルの取り組みを実施しています。

電通グループ 吉澤 庸子氏(以下、吉澤):当社では、サステナビリティ戦略を5つのマテリアリティに分けており、各マテリアリティには統括責任者の役員がアサインされています。その中でエンゲージメントは、人事(HR)が中心となって統括しています。その一環として、職場ディスカッションを積極的に取り入れ、役員と社員が直接対話できる場を設けたり、その機会を増やしたりすることで、組織の活性化につなげています。

小川:社員エンゲージメントの調査を2年に1回実施しています。ただ、スコアはほぼ変わらず、一定の水準を維持していることが課題です。また、調査結果を見ると、本社部門と工場部門で認識に大きな差があり、本社側が十分にそのギャップを把握できていないという課題もあります。

大久保:当社では社員エンゲージメント調査とは別に、サステナビリティ推進室が主導する「幸福度アンケート」を始めました。社員が自身の幸福について定期的に振り返る機会を提供するためのもので、シンプルな5択形式の質問を設けています。

たとえば、「あなたは幸せでしたか?」「職場で達成感を感じましたか?」「自身の成長を感じましたか?」といった感じで、それに自由記述欄を設けました。

回答を分析する中で、「隣の人が幸せだと言えば、自分も幸せに感じる」というような効果がみられることが分かりました。また、定期的に幸福について考える時間を設けることで、職場の雰囲気や個人の意識にも変化が生まれているようです。

回答に対して個別の対応は行いませんが、トップがその内容を読み込み、主要な意見についてメッセージを発信することで、社内コミュニケーションを取っています。また、「幸福のために何が必要か」との質問に「健康」「お金」という回答が多かったことを受け、健康増進のための施策にもつなげました。

吉澤:お話を伺っていて、従業員一人ひとりの視点に落とし込み、「もっとこうすれば良くなる」という機動的な対応をしている点が素晴らしいですね。とても本質的な部分に手が届いていると思いました。

小川:公募で集まったことも関係しているのでしょうか?

大久保:そうですね。社内公募で集まったメンバーは、非常に高いモチベーションを持っていて、意欲的に活動しています。その熱意が、取り組みを推進する大きな力になったと思います。

ウェルビーイングへの発展と意見交換から得た気づき

小川:今回、全く異なる業種の皆さんとお話ができて、とても参考になりました。「幸福度アンケート」や女性をテーマにしたセッションの開催などを参考に、社内で新たな取り組みを検討してみたいと思います。

立開:サステナビリティの取り組みを進めていくと、最終的に「ウェルビーイング」の考え方につながっていくように感じています。

これまでサステナビリティに関心がなく、セミナーにも参加していなかった社員や当社の大半を占める、関心はあるけれどまだ行動に移せていない社員に向けたイベントや施策を考え、興味を持つ、行動に移してもらうきっかけを作りたいと思いました。

吉澤:サステナビリティは経営理念と一体だと言われていますが、その手触りのあるイベントがまだ少ないと感じていました。しかし、今回お話を聞いて、実際に社員の関心を高め、社内を動かす力になると改めて認識しました。ぜひ、私たちもトライしてみたいと思います。

秋山:当社は主にトラックで荷物を運んでいるため、以前から環境負荷の低減に取り組んできました。特に、事業を通した気候変動緩和と適応を図るため、温室効果ガス(GHG)排出量削減に力を入れており、EVや太陽光発電設備の導入などの取り組みを積極的に推進しています。さらに環境対策を進めることを機会として捉え、自社排出量の削減だけでなく、他社のEV導入などを支援するサービスや再エネ電力を調達する新会社の設立など、事業化する動きも出始めています。一方で「幸福度」や「ウェルビーイング」に関する発信はまだ十分ではなく、今回のイベントやウェビナーの話は、とても刺激になりました。

大久保:立開さんのお話の4つのポイント「アクセス性」「定期性」「双方向性」「信頼性」について、なるほどと思いました。これらを意識しながら、情報開示なども充実させ、あらゆるステークホルダーの要望に応え、会社利益に貢献しつつ、社内の理解を深めるようにすることが私たちの大きなテーマです。本日は非常に勉強になりました。

環境ビジネス――皆さん、本日はご参加いただき、ありがとうございました。

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