小さなダニの研究から環境を考える
私はダニ学者として長年、ダニ類の研究に関わってきましたが、多くの人から、「そんな小さい生き物の研究なんて何が楽しいのか?何かの役に立つのか」とよく聞かれます。しかし、そんな小さな研究が、環境問題に重要な示唆を与え、人間社会を危機から救うことにもつながるのです。
今回は、ある日本人ダニ学者の「笹の葉に寄生するダニの研究」が中国に差し迫った竹林の危機を救った、というお話から、生物多様性の意義とは何かというところまで議論を広げてみたいと思います。
笹の葉に寄生するダニ
ハダニの仲間に、「スゴモリハダニ」という、竹の葉に巣を作って、家族のように生活するダニがいます。種名のスゴモリはまさに「巣篭もり」から取られています。
ダニ類は通常、単独で生活しますが、このスゴモリハダニの仲間は、ダニの中でも珍しく、巣作りをする種類なのです。笹の葉の裏側で糸を張り巡らして、ドーム型の巣を作り、その中で複数のメスとオスが寄り添って生活しています(図1)。
餌は竹の葉の体液で、巣が作られた部分を中心に、ダニに汁を吸われて葉が白化し、葉が枯死します。竹にとっては迷惑な害虫ということになります。
驚くべきことに、そのダニの巣の中では、メスたちが協働でせっせと清掃作業をして常に巣内を清潔に保つとともに、巣をカバーする糸の手入れと補強を行います。さらに、巣内に「カブリダニ」という捕食性の天敵ダニが侵入してくれば、同居するオスたちが命懸けで戦ってメスや卵を守るという行動をとるのです(図2)。体長1mmにも満たない小さなダニなのに、協力して巣を守るという、ちゃんとした社会行動を示すのです。
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