なぜ生物多様性に取り組まなければならないのか
企業の持続可能性を高めるために、気候変動対策と並び重要視されつつある生物多様性。『企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)』事務局長を務める足立直樹氏に、生物多様性とビジネスの関係や、グローバルな動きなどについて弊社の教育講座『脱炭素ビジネスライブラリー』内で解説をお願いした。その模様の一部をご紹介したい。フルバージョンをご覧になりたい方は、今すぐ脱炭素ビジネスライブラリー』をチェック!
ネイチャーポジティブへ向け企業にも大きな責任
2022年12月、生物多様性条約のCOP15がカナダ・モントリオールで開かれる。そこで、生物多様性に関する国際的な目標の採択が予定されるが、「2030年までの世界目標は、おそらく『ネイチャーポジティブ』になるでしょう」と足立氏。
WWF(世界自然保護基金)は『生きている地球レポート2022』で、生物多様性の豊かさは 『過去50年で69%損失』と発表し、気候変動と生物多様性の危機の同時解決へ向けた緊急の対策の必要性を訴えている。
自然破壊をくい止め、2030年へ向け自然を今より増やしていくためには、保護策だけではなく、企業活動、経済の仕組みを変えていく必要がある。
「ほとんどすべてのビジネスは生物多様性に依存しています。企業が生物多様性に与えている大きな負荷の1つが原材料の調達。たとえば、天然の林を切り拓いて栽培されたパームオイルを使用して商品を作ることは、森林破壊とみなされます。森林や海、生態系を破壊しない、きちんとトレーサビリティのある原材料を使っていくことが、今後求められていきます」
英国では先行して法整備も進んでいる。森林破壊のもとに作られた原材料(パームオイル・大豆・コーヒー豆・茶葉など)を使った製品・商品は、英国内では販売できない。数年後にはEUでも同じようなルールができる予定だ。
「EUと英国をまとめるとかなり大きな市場になると思いますが、そこでは森林破壊をして作られた原材料を使う商品は売ることができなくなります。こうした動きはおそらく、中国をはじめ、アジアのいくつかの国も追随すると見られています」
生物多様性への対応を重要視変化する金融機関の動き
一方で、経済を支える機関投資家や金融機関の動きも大きく変化しつつある。生態系への負荷の大きな原材料を使っている企業へは投融資をしない、生物多様性への対応に起因するダイベストメントも実際に起きている。
企業活動が自然や生態系へ与える負荷を見える化し、コントロールしていく動きはすでに始まっており、TNFD(自然関連財務情報開示タクスフォース)もその仕組みの1つ。欧州で企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかどうかを判定しグリーンな投資を促す『EUタクソノミー』にも、気候変動だけでなく生物多様性が対象に含まれており、そのルールもこの3月に発表されている。つまり、生物多様性にも配慮しなければ、『EUタクソノミー』的にはグリーンにはならないのだ。
さらに、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、サステナブル会計基準をまもなく策定する。
「これはTNFDのようなボランタリーなものとは違い義務ですから、企業は会計報告時に生物多様性のことも含め開示しなければならなくなるでしょう」
生物多様性への対応は経営マターで戦略的に
こうした世界の大きな動きのなか、グローバルにビジネスを展開する大企業においては特に、生物多様性への対応は欠かせないものとなっていく。
「日本企業においては、こうした国際ルールの情報をいち早くキャッチし、準備をしていくことが重要です。ただ、その準備は、環境部やサステナビリティ推進部ではなく、経営マターとして進めていく必要があります。どんな原材料をどこから買うのか、どんなサプライヤーと付き合うのか、もっといえば、今後、どんなビジネスモデルにし、どんな製品を作っていくのかまでを含めた戦略・判断を、経営が行っていくことが重要です」
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