HEP(ハビタット評価手続き)

HEP(ハビタット評価手続き)とは、特定の野生生物の生息環境(ハビタット)に着目し、土地や開発事業が生態系に及ぼす影響を客観的・定量的に評価する手法である。英語の「Habitat Evaluation Procedure」の略称で呼ばれる。複雑な自然生態系の価値を、指標種の生息適性に基づき「質」「空間(面積)」「時間」の3つの軸を掛け合わせて数値化する点に特徴がある。
HEPの基本構造とハビタットユニット(HU)の算出
HEPは、米国魚類野生生物局(USFWS)によって1970年代から開発が進められ、1980年に基本体系が標準化された。従来は主観的になりがちだった生態系の評価に対し、科学的・数学的な根拠を持たせる枠組みとして確立された経緯を持つ。
評価の中核となるのが「ハビタットユニット(HU: Habitat Unit)」と呼ばれる定量的指標である。対象区域における野生生物の生息適性を0(不適)から1.0(最適)までの数値で表すハビタット適性指数(HSI: Habitat Suitability Index)を「質」とし、これに対象「面積」を乗じて算出する。さらに将来にわたる経年変化を「時間」軸として考慮し、事業を実施した場合と実施しない場合の累積HUを比較することで、生態系への純影響(ネットゲイン/ネットロス)を定量化できる。
- ハビタット適性指数(HSI):既存文献や現地調査を基に、餌場・繁殖環境・隠れ場などの条件から生息適性を0〜1.0でモデル化
- ハビタットユニット(HU):HSI(質)× 面積(空間)によって算出される生態系価値の単位
- 累積ハビタットユニット(Cumulative HU):将来の環境変化や緑化の成熟など存続年数(時間)を掛け合わせた総合スコア
実務における活用領域の拡大とJHEP認証
かつてのHEPは、大規模土木工事の環境アセスメントや開発に伴う代償ミティゲーション(生物多様性オフセット)の検証ツールとして主に用いられてきた。しかし近年では、企業の工場敷地や社有地の保全管理、都市再開発ビルにおける公開空地の緑化、不動産の環境性能評価など、民間企業の事業活動へ適用対象が広がっている。
日本国内では、公益財団法人日本生態系協会が2008年に日本版のハビタット評価認証制度として「JHEP認証」を創設した。50年間の年平均ハビタット得点と過去の基準値を比較し、生態系の質や回復度合いを客観的に評価してランク付けを行う。実際の企業事例として、日立ハイテク「サイエンスの森」における生物多様性保全の取り組みが最高ランクAAAを更新した実績などがあり、自社の環境保全活動を社外へ説明する客観的エビデンスとして活用されている。
ネイチャーポジティブやTNFD対応における重要性
2030年に向けたネイチャーポジティブ(自然再興)の国際目標や「生物多様性国家戦略2023-2030」の策定を受け、生物多様性の損失を止めて純増へと転換させる取り組みが企業に求められている。また、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が提唱するLEAPアプローチにおいても、自社拠点やサプライチェーンが自然に与える影響や依存度を把握する手段として、HEPの評価体系が注目されている。
環境省が進める「30by30」目標達成に向けたOECM(民間の取り組み等によって生物多様性が保全されている区域)や「自然共生サイト」の申請・モニタリングにおいても、定量的な生息適性の評価は説得力のある説明資料となる。ただし、HEPは選定した指標種(傘種やキーストーン種など)の条件に結果が左右されるため、指標種の妥当性に関する合意形成が重要である。近年では、特定種の生息環境モデルだけでなく、環境DNA調査や衛星リモートセンシングなどの最新技術と組み合わせた総合的な評価実務が定着しつつある。
参考
- 環境省 ― 環境影響評価情報支援ネットワーク(HEPについて)
- 環境アセスメント学会 生態系研究部会 ― HEPとは
- 国土交通省 国土技術政策総合研究所 / 土木研究所 ― ハビタット評価手続き(HEP)の道路事業への適用に関する研究
- 公益財団法人 日本生態系協会 ― JHEP認証制度
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