カーボンナノチューブ(CNT)

カーボンナノチューブ(CNT)とは、炭素原子が蜂の巣格子状に並んだ平面構造(グラフェン)が筒状に丸まったナノメートルサイズの炭素材料である。炭素シートが1層のみの単層CNTと複数層が入れ子状になった多層CNTに大別され、極めて高い導電性、熱伝導性、軽量性、機械的強度を備える。基礎開発フェーズを経て、近年では電気自動車(EV)向け蓄電池の導電助剤などを軸に本格的な商業量産および市場導入が進んでいる。
構造と基本特性
直径は概ね0.4〜100ナノメートル(10億分の1メートル)であり、炭素原子の配列と筒状の巻き方(カイラリティ)により、電気を通す金属的な性質と半導体的な性質の双方が現れる。多層CNT(MWCNT)は導電性樹脂や電磁波シールド、一般的な電極材料として早期から普及してきた。一方、単層CNT(SWCNT)は極めて微量の添加で優れた導電ネットワークを形成できるため、高度な電池性能や電子デバイスが求められる分野で急速に需要が高まっている。
蓄電池分野を中心とする産業用途の進展
CNTの用途は当初想定されていた構造補強材や放熱材にとどまらず、リチウムイオン電池の正極やシリコン系負極における高性能導電助剤として不可欠な素材となっている。特に急速充電時の導電性維持や、充放電に伴うシリコン電極の体積変化の抑制、次世代の全固体電池における電極構造の保持に寄与する。
経済産業省は蓄電池を特定重要物資に指定し、「蓄電池に係る供給確保計画」を通じてサプライチェーンの国内基盤整備を支援している。これを受け、日本ゼオンが徳山工場で単層CNTの生産能力を大幅に増強する計画を進めるなど、車載電池向け素材の大型量産投資が具体化している。さらに、電池のみならず水電解装置の効率向上や耐久性改善に向けた名城ナノカーボンへの関西電力グループによる出資のように、水素活用など次世代エネルギーインフラへの応用も広がっている。
実務における安全管理と化学物質規制への対応
事業者がCNTを取り扱うにあたっては、材料自体の分散・配合技術の確立と同時に、労働安全衛生および国内外の環境規制への適合が実務上の必須課題となる。
CNTは微細な繊維状物質であるため、吸入時の呼吸器系への健康リスクが指摘されている。日本国内では労働安全衛生法第28条第3項に基づき、一部の多層CNTが「厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針」の対象物質に指定され、作業場所における局所排気装置の設置や適切な呼吸用保護具の着用といったばく露防止措置が求められる。また、欧州市場への輸出など国際取引においては、欧州化学品庁(ECHA)によるREACH規則のナノフォーム登録要件やCLP規則による発がん性分類の動向を把握し、安全データシート(SDS)の整備と適正な情報伝達を行う体制が不可欠である。
参考
- 経済産業省 ― 蓄電池に係る供給確保計画の認定について
- 厚生労働省 ― 労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針(多層カーボンナノチューブ)
- 産業技術総合研究所(AIST) ― 産総研 プレスリリース(単層カーボンナノチューブ関連)
- 欧州化学品庁(ECHA) ― Nanomaterials (REACH & CLP regulation overview)
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環境ビジネス編集部
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