長期脱炭素電源オークション

長期脱炭素電源オークション(LTDA:Long-Term Decarbonization Auction)とは、2050年のカーボンニュートラル達成と電力の安定供給を両立させるため、巨額の初期投資と長期の資金回収を要する脱炭素電源への新規投資を支援する入札制度である。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する容量市場の特別枠として2023年度に創設された。落札した電源に対して原則20年間にわたり固定費の回収を保証する一方、他市場で得た収益の一定割合を還付させる仕組みを備えている。
制度の骨格と収益・還付の仕組み
オークションは電力広域的運営推進機関が主催・約定を行い、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会が応札価格や手続きの適正性を監視する体制をとる。入札方式には、電源種を混合して募集し、各電源が応札した個別の価格で約定するマルチプライス方式(上限価格あり)が採用されている。
落札事業者には、投じた設備投資などの固定費水準に相当する容量収入が原則20年間にわたり支払われる。この支払原資は、全国の小売電気事業者および一般送配電事業者が拠出する容量拠出金によって賄われる。
長期脱炭素電源オークションの大きな特徴が、リクープメカニズムと呼ばれる他市場収益の還付ルールである。落札事業者が卸電力市場(JEPX)や需給調整市場、非化石価値市場などで限界費用を上回る収益を得た場合、その約9割を事後的に国(制度側)へ還付しなければならない。事業者の過度な超過利潤を抑制しつつ、国民負担を軽減するためのバランス調整弁として設計されている。
対象電源の区分と参加要件
支援対象は、温室効果ガスを排出しない電源の新設や更新だけでなく、過渡期の脱炭素化を促す改修事業まで多岐にわたる。一般電源は原則10万kW以上、系統用蓄電池は1万kW以上といった最低入札容量が設けられており、一定規模以上のプロジェクトが想定されている。すでにFIT電気やFIP認定を受けている電源、一般容量市場で固定費を確保している電源は原則として対象外となる。
- 脱炭素電源の新設・リプレース:太陽光、風力、地熱発電、バイオマス発電専焼、原子力、系統用蓄電池、揚水発電など
- 既設火力の脱炭素化改修:アンモニア混焼、水素混焼、バイオマス混焼、CCS(二酸化炭素回収・貯留)設備の付加など
- トランジション対応の特例措置:将来の水素混焼やCCS導入などの脱炭素化ロードマップ策定を条件とした、LNG(液化天然ガス)専焼火力の新設・リプレース
事業戦略における実務インパクトと最新動向
長期脱炭素電源オークションの創設は、系統用蓄電池や再エネ事業者の事業環境を大きく変えた。20年間にわたり確実な固定収入が得られるため、市場価格の変動リスクを抑えたノンリコースローン(プロジェクトファイナンス)の組成が容易になった。実際に台湾の泓徳能源(HDRE)が約160MWの系統用蓄電池を落札した事例のように、外資系事業者を含めた大型蓄電所の投資が活発化している。
一方で、事業計画の策定にあたってはリクープメカニズムを織り込むことが不可欠である。需給逼迫時に卸市場や調整力市場で得られる一時的な高収益の大部分は還付対象となるため、アップサイド収益に依存しない収支シミュレーションが求められる。
また、建設や資機材調達の遅延リスクにも厳格な管理が必要となる。容量確保契約で定められた期日までに供給を開始できない場合、ペナルティが課される。2026年度オークションの募集要綱案では長周期蓄電池(LDES)などの供給力提供開始期限が延長されるなど、実態に即した制度改定が随時行われているため、最新の要件変更を継続して把握することが重要である。
さらに、本制度で事業者に支払われる容量収入は小売電気事業者の容量拠出金に反映される。将来的な託送料金や電力調達コストの上昇要因となるため、需要家側のコーポレートPPA組成や電気料金リスクの評価においても注視すべき要素となっている。
参考
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO) ― 長期脱炭素電源オークション
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 長期脱炭素電源オークションについて(基本政策分科会 審議会資料)
- 電力・ガス取引監視等委員会 ― 長期脱炭素電源オークションの監視業務
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