2020年の国際社会の動向を予測する 「気候資金」を巡る最近の動きとは

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ESG投資』は、今や経済界や市民社会において広く認知されつつある概念だが、とりわけ注目すべきは2020年のダボス会議の重要テーマのひとつともなった気候変動分野といえる。気候変動枠組条約締結国会議(COP)や、国際機関(世銀等の国際開発金融機関やOECDなど)などにおける「気候資金(Climate Finance)」に関する取り組みや関連の議論は、ESG投資を巡る動向を理解する上でも重要な要素である。

COPにおける途上国支援としての「気候資金」

2020年は、パリ協定の実施の初年度という記念すべき年であるだけでなく、途上国への資金支援の観点からもマイルストーンとなる年である。パリ協定の成立に先立つ2010年のCOP16で決定された「カンクン合意」においては、「2020年までに先進国から途上国に対して年間1,000億ドルの気候資金を動員する」という目標が合意されおり、これが達成されるかが注目される。

気候資金とは、各国の公的資金や世界銀行等の国際開発金融機関を中心とするもので、その対象事業は温室効果ガスの排出抑制等の対策(地球温暖化対策〔緩和策〕)と気候変動の影響に対応する被害の防止等の対策(適応策)からなる。気候資金も(広義の)ESG投資の一部を構成するものであるが、あえて両者の特徴を区分すると下記の表のとおりとなる。

この資金目標の達成については、OECDが先進国や国際開発金融機関等の協力を得つつ、2013年以降の実績額の集計を進めており(右頁図参照)、2017年の動員額は約712億ドルと報告されている(Climate Finance Provided and Mobilised by Developed Countries in 2013-17, OECD)。

こうしたデータの収集・分析については、10年近くにわたり、OECDや国際開発金融機関の共同作業によって、「気候資金」の定義の明確化、データの客観性・透明性の確保等が進められている。こうした活動の蓄積が、後に触れるESG投資の「標準化」の議論の土台になっているようにも思える。

ESG投資と「気候資金」の特徴

  主体 供与形態 集計手法
ESG 投資 実際の資産運用に関しては金融機関、運用機関等の民間主体が中心(公的機関も排除されない)。 途上国向けに限らず、また新規・既往すべての事業・資産・活動が含まれる。証券投資形態も多い。 フローも用いられるが、ストック(投資残高)で表現される場合が多い。
COP における「気候資金」 国際開発金融機関や先進諸国の援助資金・輸出信用機関等の公的資金及びその協調融資等の民間資金1) 途上国における新たな事業等に対する出融資もしくはそのための資金調達(債券等)。 基準年(2020年ないし 2025年)における年間の供与額(フロー)。

1) 日本政府によるActions for Cool Earth(ACE)2.0による途上国支援が含まれる。

継続する気候資金支援と注目される「適応策」

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(出所)OECD なお、2015 年の民間資金額はN.A.

パリ協定が締結されたCOP21(2015年)では、カンクン合意を引き継ぐ形で、2025年まで年間1000億ドル途上国支援の継続を決定しており、これを背景に、2019年9月の国連「気候アクションサミット」においては、2025年までに行う資金提供のコミットが相次いだ。

たとえば国際開発金融機関(9機関)が2025年までに協調融資を含め年間1,750億ドルの資金提供を行う旨を表明し、また、24の国・地域の援助機関・開発金融機関からなる「国際開発金融クラブ」(IDFC)は、低炭素事業に2025年までに総額1兆ドル以上を資金供与することを表明している。

さらに、カンクン合意により設立された「緑の気候基金(GCF)」(当初拠出金約103億ドル。なお、日本は15億ドル拠出しており筆頭拠出国である)は、2019年10月にパリでプレッジング会合を行い、日本を含む29カ国から約98億ドルの増資コミットを得ている。

気候資金の対象は、これまで再生可能エネルギー事業等の緩和策が中心であったが、近時、気候変動の影響が深刻になりつつあることから、適応策の重要性が繰り返し指摘されている。GCFの対象分野は、緩和策と適応策を各50%とすることが決定されているほか、OECDでは「Climate-resilient Infrastructure」への取り組みが提唱されている。

こうした考えによれば、今後のインフラ整備においては、強大化する気候現象への強靭性・柔軟性が必要となるが、気候変動の適応策と、我が国が力を入れる防災対策では共通する要素が多いという。我が国は、「自然災害への強靭性」にも配慮した「質の高いインフラ」投資を促進しており、今後とも、日本の経験や強みの発揮が期待される。

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