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【第6回】収益性と環境負荷抑制を両立させる サーキュラーエコノミーの実践

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環境問題への取り組みが活発化する現代では、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニア型の経済システムに代わり、「サーキュラーエコノミー」の実現が求められている。今回は、企業が環境負荷抑制と経済成長のどちらも達成するために必要なポイントについて、ビジネスモデルの検討段階から解説する。製造業の脱炭素支援を行うITIDによる、ビジネスマン必見のコラム連載第6回。これまでの記事はこちら

「サーキュラーエコノミー=リサイクル」ではない

コラム連載第5回では、『温室効果ガス削減施策の実行優先度』についてお伝えしました。今回は、循環型のビジネスへと事業を変革しサーキュラーエコノミーを実現するためのポイントをご紹介します。

まず、サーキュラーエコノミーとは、「循環型経済」と呼ばれる経済システムのことです。リサイクルや再利用を前提に製品・サービスを設計することで、新たな資源の消費量抑制、新たな部品・製品の生産量抑制を実現します。

企業の方々と会話すると、「サーキュラーエコノミーってリサイクルのことでしょ?」、「うちの製品はリサイクル率が高いから、サーキュラーエコノミーを実現できている」という声が時々聞かれます。

しかし、これらは誤りです。リサイクルはサーキュラーエコノミーに含まれる要素の1つでしかありません。図1は、リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの違いを図示したものです。

図1 リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの違い

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出典:エレン・マッカーサー財団「サーキュラーエコノミーバタフライダイアグラム」を基にITID作成

リニアエコノミーでは、資源採取から、材料・部品メーカー、加工・製品メーカー、製品・サービス提供者、利用者とモノが流れ、最終的に廃棄物として処理されます。一方で、サーキュラーエコノミーでは、赤矢印のようにモノが循環します。

ここでポイントとなるのは、循環の矢印はリサイクルだけではないということです。①アップグレードサービスやシェアリングエコノミーのように、製品を長期間使い続ける矢印、②サービスとしての製品(Product as a Service ; PaaS)のように、製品・サービス提供者が製品を回収し、別の利用者に再提供する矢印、③リマニュファクチャリング事業のように、加工・製品メーカーがパーツを回収し、別製品に再利用する矢印、④リサイクルの矢印、の4つの循環形態があります。

当然、リサイクルを実施するだけでは、部品や製品の生産量、部品や製品の輸送量は減らないため、環境負荷の抑制効果は限定的です。したがって、図1に示す4つの循環形態のうち、内側の矢印を優先的に実行することが求められます。

また、サーキュラーエコノミーは、サービス化などを通じて付加価値を最大化し、環境負荷抑制と経済成長の好循環を目指す概念です。リサイクルなどの3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組めば、環境負荷抑制に貢献できますが、経済成長にはあまり寄与しません。収益性を高めるためには、経営戦略・事業戦略として、循環型の製品・ビジネスを展開する必要があります。

環境と経済の好循環を実現するビジネスモデルを検討する

サーキュラーエコノミーは、環境と経済の好循環を目指す概念ですので、稼げるビジネスモデルを考えなければいけません。そのために、ビジネスモデルを以下の3つの要素に分解し、その組み合わせを考えます。

・サービス提供方針
・長期利用化の仕組み
・製品回収形態

「サービス提供方針」としては、表1に示すように、従来の売り切り型に加え、製品のサービス化(PaaS)に代表されるサブスク型やレンタル型、シェアリング型、プーリング型などが挙げられます。

表1 サービス提供方針

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次に、「長期利用化の仕組み」としては、製品耐用年数が長くなる設計(長寿命化)、製品の故障を予防するメンテナンスサービス、製品故障時の対応を行う修理サービス、製品やそれに含まれるパーツ、ソフトウェアを更新するアップグレードサービスなどの方策があります。

最後に、「製品回収形態」としては、主に「製品として回収し、再提供する」、「パーツとして回収し、再利用する」、「素材として回収してリサイクルする」の3種類があります。

「サービス提供方針」と「長期利用化の仕組み」の各要素を組み合わせて収益性が見込めるビジネスモデルを立案し、さらに「製品回収形態」を検討して環境貢献性も高めます。

自動車を例に考えると、表2に示すように、「サービス提供方針」と「長期利用化の仕組み」を組み合わせることにより、従来から見られる売り切り型のビジネスモデルの他に、燃料従量制サブスクリプション、カーシェアリングビジネス、レンタカービジネス、と言った具体的なビジネスモデルを立案できます。

表2 自動車におけるビジネスモデル検討イメージ

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そして、それぞれのビジネスモデルに対して、「製品回収形態」を考慮し、「消費者から返却された自動車を回収して再利用できないか」、「回収した自動車を分解して、リサイクルできないか」などを考えます。

ビジネスモデルの中に、温室効果ガスを低減させる仕組みを入れることもできます。例えば、通常の自動車のサブスクリプションサービスは、月額定額料金を消費者が支払う仕組みですが、月額定額料金に加えて、燃料使用量に応じて支払金額を増減させる仕組みを導入すると、消費者には燃費の良い運転をする意識が生まれ、製品使用時における温室効果ガス排出量低減に繋がります。

ビジネスモデルを立案した後は、図2に示すように、収益性、環境貢献性、実現性の3軸でモデルを評価します。

図2 ビジネスモデル評価のイメージ

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収益性は、売上、利益、製品1台当たりの付加価値額などの観点で評価します。サーキュラーエコノミーは、初期投資(製品としての価格)をメーカーが負担し、継続的に収益を上げるモデルですので、長期的な視点で評価します。

環境貢献性は、製品ライフライクルにおける温室効果ガス排出量、製品やパーツの生産量・物流量などで評価します。

実現性は、消費者における製品利用状況管理の仕組みを構築できるか、海外も含めて製品回収スキームを構築できるか、といった事業としての実現性や、技術的な達成確度、モデルへの適社度などで評価します。

ビジネスモデルを検討・比較した後は、ビジネスモデルに関わるステークホルダー要求を整理し、製品要件に落とし込みます。

図3 ビジネスモデルと製品要件の整理の例

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製品要件を整理した後は、あらゆる設計手法を用いて、実現手段を検討します。ここは製品開発者の腕の見せどころとも言えます。コラム連載第4回で解説したFA法などを用いて、実現手段を検討することができます。

このように、まずビジネスモデルを検討し、それを実現するための製品要件を整理することで、「立案したビジネスモデルを実現するために、どのような製品を開発すればよいか」が具体化されます。これにより、事業企画・製品企画・製品開発が連携でき、収益性と環境貢献性の双方を高めることに繋がります。

次回は、「温室効果ガス低減施策の効率的な検討」について解説します。

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