事業拡大を前提とした目標設定を行う
コラム連載第2回では、『温室効果ガス排出量の算定』についてお伝えしました。温室効果ガス排出量を算定し、現状を把握した後は、目標設定を行います。
ある企業では、2030年までの温室効果ガス削減量の目標値を設定し、年次目標・月次目標に分解して管理していました。しかし、この企業が販売した新製品がヒットし、生産量が伸びていたため、温室効果ガス排出量は削減されるどころか、増えてしまっていました。
製品の生産量・販売量を無視して、温室効果ガス排出量のみで目標管理してしまった結果、これまで実施してきた温室効果ガス削減活動の良し悪しを判断できず、PDCAを回せない状況に陥っていたのです。
このような状況に陥らないためには、事業の拡大を考慮して、温室効果ガス削減目標を設定する必要があります。事業拡大を前提とした場合、仮に温室効果ガス排出量の削減活動を何もしなければ、温室効果ガス排出量は増えることになります。これをBAU(Business as usual;現状趨勢シナリオ)と呼びます。
図1に2030年までのBAUと、温室効果ガス削減目標のシナリオを図示しています。現状と2030年目標との差分(α)を削減目標とすると、(β-α)分だけ削減量が足りなくなってしまいます。したがって、現状と2030年目標との差分から削減活動計画を立案するのではなく、BAUと2030年目標の差分(β)から、温室効果ガス削減計画を立案する必要があります。
図1 目標設定の考え方
“GHG効率”で目標を管理する
企業は何のために存在するのでしょうか。
「利益をあげるため」、「より環境負荷の小さい商品・サービスを提供するため」、「従業員に働く場所や働く意義を与えるため」、「株主に適正な配当金を支払うため」など、企業によって色々な考え方がありますが、少なくとも企業の温室効果ガス排出量削減だけを目的としているわけではありません。温室効果ガス排出量を削減しながら、経済価値、社会価値、組織価値といった提供価値を高めることで、企業価値を高めることができます。そのため、目標を管理する際も、温室効果ガス削減量だけを管理するのではなく、提供価値も考慮しなければいけません。
提供価値を考慮しながら温室効果ガス排出量目標を管理するには、「GHG効率」という指標が有用です。GHGは温室効果ガス(Green House Gas)の略です。
GHG効率は、以下の式で表されます。

式中の「提供価値」は、GHG効率の適用先の粒度によって異なります。企業レベルであれば、「提供価値」は「企業が提供する社会的価値」と読み替えることができ、売上高、営業利益、付加価値額、生産量などを用いることができます。製品レベルであれば、「提供価値」は「製品・サービスの価値」と読み替えることができ、製品のスペックや価格などを用いることができます。分母は、Scope3を含むサプライチェーン排出量を用いることが望ましいと言えます。
企業レベルのGHG効率

製品レベルのGHG効率

次に、製品レベルでGHG効率を適用する方法を、太陽光パネルの開発を例にご説明します。太陽光パネルの便益は多数ありますが、重視されるものの1つがモジュール変換効率です。モジュール変換効率とは、太陽光パネル単位面積当たりの変換効率のことで、太陽光パネルの発電能力を表す指標です。
ここで、旧製品と比較して、新製品の方が、温室効果ガス排出量が少しだけ増える代わりに、モジュール変換効率が大幅に向上されるケースを考えるといかがでしょうか。
図2に示す通り、温室効果ガス排出量のみで管理される場合、新製品は販売するべきではありませんが、「モジュール変換効率」を分子としてGHG効率を計算すると、新製品の方が優れていることが分かります。
モジュール変換効率が高い太陽光パネルは、パネル設置スペースが限られている企業ニーズや、化石燃料からの脱却を図る社会のニーズに応えることができます。
図2 GHG効率の算出例
留意点として、GHG効率のみで目標管理してしまうことは避けなければいけません。なぜなら、「提供価値を高めさえすれば、温室効果ガス排出量を削減しなくても良い」という誤解を生みかねないためです。温室効果ガス排出量とGHG効率の双方を管理し、企業や製品の提供価値向上と、温室効果ガス削減を同時に目指すことが、社会から求められるのです。
次回は、温室効果ガス低減手段について解説します。
【参考】
・稲葉敦『LCAの実務』(2005年、産業環境管理協会)
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