脱炭素経営を成功へ導く 現場視点で始める本質的ソリューション

【第7回】効率的に温室効果ガス低減策を検討し、カーボンニュートラルの早期実現へ

  • 印刷
  • 共有

脱炭素経営に向けて、温室効果ガス排出量の目標設定や製品要件の整理などの具体的な準備を進めた後は実現手段の検討に入るが、多くの企業はこの段階で無数の壁にぶつかるという。特に、リソースが限られた中で、温室効果ガス低減施策を効率的に検討することが大事と、脱炭素経営支援のプロフェッショナルであるITIDは語る。カーボンニュートラルに取り組む企業人必見のコラム連載第7回。これまでの記事はこちら

温室効果ガス低減の攻めどころを把握する

これまで多くの製造業は、製品開発におけるQCD目標達成のために、品質管理プロセスや原価管理プロセスを整備してきました。今後は、温室効果ガス排出量などの環境目標達成も考慮に入れ、QCDG目標(GはGHG)を達成するためにプロセスを見直し、より高度かつ効率的にプロセスを遂行する必要があります。

製品企画段階で、新製品の温室効果ガス排出量目標の設定や、サーキュラーエコノミー実現のための製品要件の整理を実施した後は、実現手段を検討する段階に入ります。その際、多くの製造業の開発部門の前には、以下のような壁が立ちはだかります。

・温室効果ガス排出量目標の達成や、製品要件実現のために、ユニット設計担当者、部品設計担当者は何をすればよいか分からない
・温室効果ガス排出量の低減策を施した際に、他の製品要件への影響を見落としてしまう
・ユニットや部品の生産に伴う排出量の低減優先度が分からない
・他社製品の温室効果ガス排出量を分析できず、自社製品の開発に活かせない
・サーキュラーエコノミー移行の際、品質管理プロセスや原価管理プロセスをどのように変えればよいか分からない

本記事では特に「ユニットや部品の生産に伴う排出量の低減優先度が分からない」という課題に着目して解説します。

「ユニットや部品の生産に伴う排出量の低減優先度が分からない」といった問題解決のためには、部品重要度を定義するプロセスが有効です。これは目標原価の部品別割付けでよく行われるプロセス・手法の1つで、図1にも示す通り、以下の順序で行います。ここで記載している「部品」は、「ユニット」、「サブアセンブリ」などと置き換えても構いません。

1.製品要件の整理

まず製品要件を整理します。コラム連載第6回で解説したように、製品に関わるステークホルダーを抽出し、ステークホルダー要求から製品要件に落とし込みます。

2.要件重要度の定義

顧客の購買意思決定時の影響の度合い、製品を成立させる上で達成が必要な度合い(人命に影響を与えるレベルの安全性達成の重要度を高めるなど)、事業戦略上の重要性など、一定の基準で要件重要度を定量化します。

3.部品依存度の定義

製品要件満足に寄与する度合いから、部品依存度を定義します。例えば、部品Aは要件Ⅳ実現に大きく寄与しているため3点、要件Ⅰには少し寄与しているため1点といったつけ方をします。

4.部品重要度の定義

最後に部品重要度を定義します。これは、要件重要度×部品依存度の総和から算出します。例えば、部品Aであれば、

要件Ⅰ:3×1=3

要件Ⅲ:2×2=4

要件Ⅳ:3×3=9

となり、これらを足すと部品Aの重要度は16になります。

図1 部品重要度の定義

ITID図1_0227

このように、要件重要度から部品重要度を定義していきます。この部品重要度の比率に応じて、温室効果ガスの低減優先度を決めることで、顧客要求に基づいた優先度を設定できます。

すなわち、重要度が高い要件を実現するための部品は温室効果ガス排出量より性能や品質重視のため、低減優先度は低く、重要度が低い要件を実現するための部品は温室効果ガス排出量重視のため、低減優先度は高くなります。図2は、部品の生産・輸送に伴う排出量の低減優先度を見える化した例です。

図2 温室効果ガス排出量の低減優先度見える化の事例

ITID0227_図2

プロットは、製品を構成する各部品を示しており、縦軸は、Scope3カテゴリ1「購入した製品・サービス」、Scope3カテゴリ4「輸送、配送(上流)」の合計値です。この企業は、製品の組立のみを行っており、部品生産はすべて外製です。そのため、部品レベルでは、Scope1,2排出量はありません。

また、図内の直線は、製品としての温室効果ガス排出量目標を、部品重要度の総和で割って導出したもので、部品別の温室効果ガス排出量目標を決める際の参考値としています。

ハッチング部分の4部品は、目標GHG直線より上にプロットされており、部品重要度に対して温室効果ガス排出量が大きいことが分かります。

すなわち、これを温室効果ガス排出量の低減優先度が高い部品と特定して、低減施策を効率的に検討することができるようになります。

おわりに

連載コラム第1回~第7回まで、脱炭素経営実現のために必要なプロセスを現場視点で解説してきました。脱炭素の取り組みが必須といわれるものの具体的に何から行動すればよいのかわからない、ビジネスと両立させるためにそもそもどのような手段が有効か判断がつかないなど、現段階で様々な悩みをお持ちの方がいらっしゃるかと思います。

難解な印象を持たれやすい脱炭素の取り組みですが、これまで解説したように適切な段階を踏んで整理しながら進めていくことで、自社の製品やサービスに合致した最適なソリューションを導き出すことができます。今回の連載コラムが一人でも多くの現場の方々に届き、悩みを解決する糸口となれば幸いです。

続きは有料会員登録後にお読みいただけます。

  • オンラインでは実務に直結する有益なオリジナル記事を掲載
  • 登録月(購入日~月末)は無料サービス
  • 環境設備の導入・営業に役立つ「補助金情報検索システム」も利用可能
  • 本誌「環境ビジネス」の電子ブックも読み放題
月額
1,300円(税込)
年額
15,600円(税込)

関連記事