脱炭素経営を成功へ導く 現場視点で始める本質的ソリューション

【第1回】「組織価値」を高め、カーボンニュートラルを実現する 

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これまで多くの製造業の脱炭素経営を支え続けてきたITID。製造業においてカーボンニュートラルを実現するためには、組織価値を高め、現場視点で推進することが不可欠だという。実績に裏付けられた考え方やノウハウを現役コンサルタントが綴る、ビジネスマン必見のコラム連載第1回。

※組織価値:組織が目標を達成するための基盤となるもの。ビジョンと戦略の整合性、従業員の仕事への熱意、スキル、業務プロセス、ITシステム、インフラなどを指す。

企業が抱える課題

現在多くの企業がカーボンニュートラルに取り組んでいる、あるいは取り組もうとしていますが、まだまだ多くの課題を抱えているのが現状です。

ひと昔前までは、経営企画部門や環境部門の方々から、カーボンニュートラルに関する悩みの声が多かった一方で、製品開発現場からの悩みの声はあまり多くありませんでした。しかし、今では、製造業の商品企画部門、開発部門、生産部門のような現場部門の方々から、以下のような悩みが聞かれるようになりました。

・カーボンニュートラル実現に向けて、現場部門(ライン部門)として何から取り組めばよいか分からない
・全社の環境方針や戦略を、現場部門(ライン部門)のアクションプランに落とし込めない
・製品単位や工程単位で温室効果ガス排出量を算定できない
・グリーンイノベーションを創出できない
・カーボンニュートラル実現に向けて、製品開発プロセスをどう変えればよいか悩んでいる
・従業員の行動変容を促せない
・脱炭素と利益向上の好循環が得られない

これは、カーボンニュートラルが経営課題としてだけでなく、オペレーションレベルの課題として認識され始めていることを示唆しています。また、最近は「グリーンウォッシュ」といった言葉も出てきています。グリーンウォッシュとは、企業や商品などが、環境に配慮しているかのように見せかけ、実態が伴わないことを指します。

以前、ある製造業の生産部門長の方とお話ししたところ、「私の企業は環境問題に対する取り組みを社外にPRして、表彰されたこともあるが、実態は、環境部門が体よく数字を見せているだけで、現場は何も変わっていない。」と、悲嘆の声をお聞きしました。最近は、グリーンウォッシュを疑われた企業に対して、消費者からの批判や株価下落が見られるようになり、訴訟問題まで発展するケースもありました。そのため、今後は見せかけだけの対応ではなく、開発現場や生産現場がカーボンニュートラル実現に向けて真摯に取り組んでいく必要があると言えるでしょう。

経営と現場をつなぐ「グリーンイノベーションコンパス」

では、企業はカーボンニュートラルに向けて何から取り組めばよいでしょうか。特にものづくり企業がカーボンニュートラルを実現するには、現状把握、目標設定、対策立案、実行管理といったプロセスを高度に遂行しなければいけません。そのためには、プロセス整備、ツール整備、組織力・人材力強化といった組織価値を高めるアプローチが有効です。組織価値を高めるための解決策を考えるうえで、製品開発現場が普段直面している開発課題について考えてみます。

「開発した製品の不具合が多発している」「目標原価を達成できない開発プロジェクトが多い」といった悩みは、多くの製造業が経験してきていると思います。そして、これらの悩みの解決のために、DR(デザインレビュー)プロセスの高度化、FMEAのような品質管理ツールの導入、PLMやBOMといったITシステム導入、設計スキルを高める人材教育などにより、組織価値を高めて、問題を解決していると思います。

カーボンニュートラル実現に向けたアプローチについても、品質問題やコスト問題同様に、「プロセスの整備・遂行」「ツール整備」「組織力・人材力の強化」の3点が重要です。これらの組織価値を高めるための羅針盤となるフレームを「グリーンイノベーションコンパス」といいます。

下記は、グリーンイノベーションコンパスの概略図です。

グリーンイノベーションコンパス0106

プロセスの整備・遂行

カーボンニュートラル実現に向けたプロセスは、大きく以下の3つに分かれます。

STEP1|正しく問題を把握する

現状を把握し、目標を設定します。まず現状の温室効果ガス排出量の算定や、気候関連リスク・機会の特定によるシナリオ分析を行います。次に、ロードマップを策定して、現場目標に落とし込みます。

STEP2|有効な対策を立案する

STEP1で得られた目標を達成するための対策を立案します。製品の温室効果ガス排出量低減手段を検討し、その対策案に投資すべきかどうか意思決定を行います。また、サーキュラーエコノミー実現のためのビジネスモデル検討、気候関連の新たなビジネスの創出についても検討します。

STEP3|継続的に実行・管理する

STEP2で立案した対策を継続的に実行・管理します。対策により温室効果ガス排出量が計画通りに下がっているかを管理するための仕組みを構築します。また品質・コスト・納期・温室効果ガス排出量のバランスを見ながら、継続的に製品開発を進めるためのプロセスを整備します。

ツール整備

前述のプロセスをより高度かつ効率的に回すためにはツールの整備も重要です。たとえば、温室効果ガス排出量を製品開発段階でより精度高く見積もるために、排出原単位テーブルを整備します。製品設計において、部品サイズや溶接長を検討する際、排出原単位テーブルに記載された「部品重量1kg当たりの温室効果ガス排出量」、「溶接長1mm当たりの温室効果ガス排出量」などの情報を用いて、温室効果ガス排出量を見積もることができます。

また温室効果ガス排出量低減策の投資判断や、従業員の行動変容を促すためには、インターナルカーボンプライスの導入が有効です。温室効果ガス排出量1kgあたりの価格をあらかじめ社内で決めておくことで、経済と環境の両面を考慮して投資判断しやすくなります。

さらに投資判断した後は、温室効果ガス排出量が計画どおりに削減できているか、継続的に管理します。しかしこの作業を全てエクセルで行うには限界があります。そのため、温室効果ガス排出量の管理システムを導入することで、より効果的なプロセス遂行が期待できます。

組織力・人材力の強化

ここまでプロセス、ツールといったハード面の話をしてきましたが、プロセスを遂行するのも、ツールを使用するのも人です。組織力・人材力が伴わなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。

組織面では、組織体制を構築し、「誰が」「いつまでに」「何をするか」といった役割を明確にします。また自社内だけでなく、サプライヤーや自治体、関連団体などとの連携体制も整えます。

人材面では、従業員の環境意識を高めなければいけません。「なぜカーボンニュートラルを目指すのか」といった組織ビジョンや、「カーボンニュートラルに取り組まないと企業や従業員はどうなるのか」といった組織に纏わるリスク・機会を、組織全体で共有します。また、環境教育を実施し、プロセスを遂行するためのスキルを高めることも重要です。

以上のように、「プロセスの整備・遂行」「ツール整備」「組織力・人材力の強化」の3つの観点で組織価値を高めることで、カーボンニュートラルの実現、ひいては企業価値の向上に繋がります。

次回以降は、グリーンイノベーションコンパスを用いた具体的な取り組み方法についてお伝えします。

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