バイナリー発電

バイナリー発電とは、加熱源となる熱水や排熱から熱を受け取り、水より沸点の低い媒体(低沸点媒体)を蒸発させてその蒸気でタービンを回転させる発電方式のこと。
熱源流体と作動媒体の2つの熱サイクル(バイナリー)を利用することからこの名で呼ばれる。従来の汽力発電では利用が困難であった70〜120℃程度の低温熱水や排熱を有効活用できるため、温泉熱や地熱、産業排熱を利用した分散型電源として注目されている。
バイナリー発電の仕組みと多様化する熱源
バイナリー発電では、作動媒体としてペンタンなどの炭化水素、ハイドロフルオロカーボン(代替フロン)、水とアンモニアの混合物などが用いられる。有機媒体を用いる方式は有機ランキンサイクル(ORC:Organic Rankine Cycle)、水・アンモニア混合媒体を用いる方式はカリーナサイクルなどと呼ばれる。媒体が密閉回路内で蒸発・膨張(発電)・凝縮を繰り返すため、作動媒体自体が外部に放出されることはない。
従来の発電用途としては、深層から高圧蒸気を直接採取できない温泉井や浅層地熱の活用、化学工場や鉄鋼プラントなどの未利用工場排熱回収が中心であった。近年では適用範囲が広がっており、下水汚泥焼却施設や一般廃棄物焼却施設の排熱利用、さらには熱水・蒸気のない高温岩体に人工的な閉ループ配管を巡らせて熱を抽出する次世代型地熱発電(クローズドループ方式)の地上発電プラントとしてもバイナリー技術の導入が進んでいる。
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT・FIP)における位置づけ
温泉熱や浅層地熱を利用したバイナリー発電は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度において地熱発電区分に位置づけられている。2022年4月の改正再生可能エネルギー特別措置法施行以降は、FIT制度に加え市場連動型のFIP制度の対象電源にも指定された。
天候によって出力が変動する太陽光発電や風力発電と異なり、地熱や排熱を利用するバイナリー発電は年間を通じて安定した発電が可能なベースロード電源としての特性を持つ。国の買取制度においても優遇措置が維持されており、1,000kW未満の地熱発電(バイナリー方式など)に対するFIT調達価格は40円/kWh(調達期間15年・税抜)と高水準に設定され、小規模分散型開発を支える制度的基盤となっている。
導入・運用における実務課題
バイナリー発電事業を計画・推進する実務においては、特有の技術的・社会的な留意点が存在する。
- 地域共生と源泉モニタリング:温泉熱利用型では、近隣源泉の湧出量・温度・泉質への影響を巡り、地元温泉街や観光関係者との合意形成が不可欠である。2024年4月施行の改正再エネ特措法により新設案件における事前説明会の実施が要件化されたほか、開発前後および稼働後の継続的な源泉モニタリングとデータ開示が求められる。
- スケール析出と腐食対策:地熱熱水や排ガスに含まれるシリカ・カルシウム成分の付着(スケーリング)による熱交換器の閉塞や熱伝達効率の低下、硫化水素等による腐食が稼働率低下の原因となる。スケール防止剤の注入や定期洗浄、チタンなど耐腐食性部材の選定が不可欠である。
- 系統制約と系統連系費用:有望な熱源が存在する温泉地や山間部は送電系統の容量が乏しい地域が多く、系統空き容量の確保や連系工事負担金、発電側課金などのコスト要因を精緻に検証する必要がある。
参考
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における買取価格等
- 経済産業省 資源エネルギー庁 ― 事業計画策定ガイドライン(地熱発電)
- 環境省 ― 国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて
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