PEFC(固体高分子形燃料電池)

PEFC(固体高分子形燃料電池)とは、イオン交換膜である固体高分子を電解質に用いた燃料電池のことである。英語の「Polymer Electrolyte Fuel Cell」の略称。作動温度が70〜80℃前後と低温で起動や停止が素早く行え、小型・軽量化が容易であることから、モビリティや定置用コージェネレーションシステムなどで広く活用されている。
PEFCの基本構造と動作特性
PEFCは、水素イオンを透過するフッ素系などの高分子電解質膜を挟み、両側に触媒層とガス拡散層を配置したセル構造を持つ。アノード(燃料極)に供給された水素が水素イオンと電子に分かれ、イオンが電解質膜を通りカソード(空気極)へ移動、電子が外部回路を通ることで電気が生じる。この反応に伴って排出されるのは水のみである。
他の燃料電池方式(高温で作動し高い発電効率を持つ固体酸化物形燃料電池(SOFC)など)と比較すると、PEFCは作動温度が低いため起動時間が短く、負荷変動への追従性に優れる。家庭用コージェネレーションシステム「エネファーム」ではPEFCとSOFCが用途に応じて併存しており、エネファーム全体の累計販売台数は2024年1月に50万台を突破している。
商用モビリティへの適用拡大と耐久性向上
これまでPEFCは乗用車の燃料電池車(FCV)を中心に普及模索が進められてきたが、近年の市場動向やバッテリー電気自動車(BEV)の普及状況を受け、開発の主軸は大型トラックやバスなどの商用車(HDV:Heavy Duty Vehicle)、さらに建機・鉄道・船舶といった産業用モビリティへ移行している。長距離輸送や高稼働が求められる幹線物流では、水素の充填時間の短さや積載重量の維持といったPEFCの特性が優位に働く。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が改訂した技術開発ロードマップでは、2035年頃を見据えた商用車向け目標として、乗用車向け(約5,000時間)を大幅に上回る2.5万〜3万時間以上の耐久性確保や、スタックの高出力密度化が設定されている。過酷な温度・電位サイクルに耐えうる電解質膜や耐腐食性部材の開発が進められている。
白金触媒の低減と導入支援制度
PEFC普及における大きな課題は、電極触媒に使用される高価な貴金属である白金(プラチナ)による製造コストである。資源制約やサプライチェーンリスクの低減に向けて、白金使用量を大幅に減らすコアシェル触媒、非白金触媒、ナノ構造制御技術、カーボンフリー高耐久担体などの研究開発が進んでいる。NEDOロードマップでは、将来的に白金使用量を0.1g/kW未満に抑える目標が掲げられている。
2023年6月に改定された「水素基本戦略」では、2040年に水素等導入量を1,200万トン/年程度とする目標が提示された。さらに2024年には「水素社会推進法」が成立し、既存燃料との価格差支援や供給インフラ整備に対する支援が制度化された。商用車フリートや物流現場へのPEFC導入にあたっては、GX関連施策や補助制度の動向を踏まえた事業計画策定が実務上の鍵となる。
参考
- 資源エネルギー庁 ― 水素基本戦略(2023年6月改定)
- 経済産業省 ― 水素社会推進法(低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) ― NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ
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