EV普及で注目の技術V2Gが抱える「5つの課題」(後編)

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3. 米国のV2G事例

V2Gへの取り組みは、EVが普及している欧米で先行している。

デンマークでは、2016年8月、日産、イタリア電力会社Enel、米国V2Gベンチャー企業Nuvveによって、世界初のV2Gの商業運転が開始され、周波数調整市場に参加して収入を得ている。米国では多数のEVを束ね調整力を提供するアグリゲーションビジネスの実証が行われている。

次に電力市場に参加した米国における3件のV2G事例を紹介する。

(1) デラウェア大学(University of Delaware)eV2g

デラウェア大学では、V2G技術の礎を築く研究開発が行われた。2008年から2010年にかけて、V2Gに必要な技術(アグリゲーションサーバーとの通信や充電のコントロールを可能にする車載用システム、充電設備、アグリゲーターのソフトウェア等)が独自に開発された※6。そして2011年、V2Gの商業化を目指して、同大学は公益企業NRG Energyとパートナーシップを締結した。米国北東部の独立系統運用機関PJM InterconnectionとBMW(Mini E 15台を提供)も参加し、実証としてeV2gが行われた。2013年2月、eV2gはPJMの周波数調整市場に正式に参加し、同年4月に駐車中のEVから市場に電力を販売することに成功した※7

V2Gシステムによって、小規模ではあるがEVの電力を集めることで、周波数調整に貢献可能であることを示す事例となった。

※6 Kempton, W., Decker, K., Liao, L., Gardner M., Hidrue, M., Kamilev, F., Kamboj, S., Lilley, J., McGee, R., Parsons, G., Pearre, N., and Trnka, K. (2010), ‘Vehicle to Grid Demonstration Project’
※7 University of Delaware (2013, April 26), ‘Powering Up,’ UDaily

(2) BMW i Charge Forward:PG&E’s Electric VehicleSmart Charging Pilot ※8

この実証ではEVを用いたデマンドレスポンス(DR)の実用性、つまり、柔軟にコントロールできるエネルギー源としてのEVの可能性について調査が行われた。

PG&E(Pacific Gas and ElectricCompany)が発動するDRに対して、BMWはEVと定置用蓄電池のリユースを組み合わせて100kWを制御することとし、カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)の卸電力市場に参加した。

参加者96名は、South Bay Area の居住者でBMW i3(6.6kW)を保有、かつ、PG&Eの顧客で、このうち約60%は時間帯別料金プランで契約をしていた。2015年7月から2016年12月にかけて発動されたDR計209回のうち、BMWは189回対応できており、100kWのうち、平均で約20%をEVが、残りをリユース蓄電池が活用された。

また、EV保有者の意識調査も行われており、回答者の84%がDR参加理由として前払い金$1,000を挙げていることから、経済的なメリットが重要であることがわかる。一方で、67%は系統安定化への貢献、65%がリユース蓄電池の促進を挙げており、金銭的な理由だけではないカリフォルニア州住民の意識の高さもうかがえる。

※8 BMW Group and Pacific Gas and Electric Company (2017), ‘BMW i Charge Forward: PG&E’s Electric Vehicle Smart Charing Pilot’

(3) 国防総省Plug-in Electric Vehicle – Vehicle to Grid Program (PEV-V2G)※9

国防総省は、基地のエネルギーセキュリティリスク低減のため、停電時におけるV2Gの役割に注目した。同省は、2015~2017年に電力会社SouthernCalifornia Edisonと協力して、LosAngeles Air Force Base(LAAFB)でV2Gを通じてエネルギー源としてEVを活用する経済的および機能的なメリットを確認する実証を行った。

LAAFBは、CAISOの前日(dayahead)アンシラリーサービス市場で2種類の周波数調整(regulation upおよびregulation down、後半は技術的な問題が生じregulation upのみ)に参加した。合計US$7,639の収入を得られたが、市場への参加費用が毎月約US$1,300がかかるため、結果的には費用が収入を上回った。

PEV-V2Gでは、V2G技術に関する問題が確認されたが、V2GによってEVが周波数調整市場に参加することができ、収入も得られることを示した。しかし、インフラ・設備コスト(US$120,000)が高い一方で市場からの収入は低いため、費用便益分析に基づくと、現時点ではV2Gの正当性が成り立たないとの結論に至った。ただし、再エネ導入に向けたエネルギー貯蔵やDRを行う技術の向上といった便益が分析に含まれるようになれば、V2Gの可能性が残ることも言及している。

※9 Brendlinger, J., Campbell, M., Hlivko, J., Kaltenhauser, H., Wechtenhiser,B., and Hafer, G. (2017), ‘Environmental Quality, Energy, and Power Technology. Task Order 0012: Plug-In Electric Vehicle, Vehicle-to-Grid’

次ページ →V2Gに関する考察

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